サステナビリティ

外資ブランド日本支社が取り組む“農”、ビールや梅シロップが語る企業理念

近年のアパレル・繊維産業では、オーガニックコットンなど有機栽培された原材料調達に関する話題に事欠かない。一方で、ファッション企業が主体となって農業に携わり、社員の意識向上や関係者に対する社会的責任を収穫物と共に紹介することもまた増加傾向にある。「責任ある調達」としての農業への関与をファッション企業はどう見ているのか。

カナダグース(CANADA GOOSE)」のイベントでふるまわれたクラフトビールと枝豆、「グッチ(GUCCI)」「サンローラン(SAINT LAURENT)」などを擁するケリング(KERING)がギフトとして贈った梅シロップ。今回は最近私が目にした2つの事例から考えてみたい。どちらも企業理念を映し出すものとしてステークホルダーへのメッセージ発信や社員エンゲージメントの向上に一役買っている。

「カナダグース」のクラフトビールと枝豆

「カナダグース」が8月8日に銀座の旗艦店で開催した「銀座ソーラーシェアリングサロン」で提供されたのは、カナダグースジャパンが千葉・匝瑳で手がけるソーラーシェアリング(営農型太陽光発電)の農地で育てた有機大麦を使ったクラフトビールと有機枝豆だった。

平井洋司カナダグースジャパン社長がソーラーシェアリングへの出資を決めた2021年、平井社長が語っていた「畑で育った大麦からクラフトビールをつくりたい」という構想が、ついに形になった。

「ビールを通じて自然と話が盛り上がる。ソーラーシェアリングを知らない人も多いが、ファッション企業だからこそ伝えられる価値がある」と平井社長。同社が協働する市民エネルギーちばとスリーリトルバーズ(Three Little Birds)は、耕作放棄地の土壌を有機栽培で再生しながら発電を行うもの。ソーラーパネルは最低30年間の利用を前提に運用しており、経年劣化率は年0.5%以下(9年経過時点で経年劣化率は年0.244%)で、リサイクル可能性についても検討しているという。

「匝瑳の土地は水はけが悪く、長年放棄されていた。土壌改善のため、根の深い麦と浅い大豆を交互に植えている」と語るように、環境改善と地域再生を両立するプロジェクトだ。

6~8月の繁忙期には社員がチームで現地に赴き、草刈りや農地の整備を手伝う。実際に畑に立つことで、スタッフが会社の理念を体感できる機会になっている。現場を訪れた社員やその家族からは「ファッション企業がここまでやっているとは」と驚きの声が上がり、誇りが生まれているという。

このクラフトビールは、匝瑳で開催されたフェスティバルで出合った地元のブルワリーと約1年半かけて共同開発された。味のタイプは4~5種類を試飲し、「自分が一番おいしいと思った味に仕上げた」と平井社長。同じく匝瑳に5カ所のソーラープラントを持つロンハーマン(Ron Herman)や他の畑で育った大麦も活用した。ロンハーマンでは、クラフトビールをものづくりに関わる取引先を中心にサステナブル素材への切り替えの進捗報告と協力への感謝の思いを込めて贈っている。

ケリングの梅シロップ

酷暑の8月上旬、ケリングから届いた小瓶の梅シロップ。そのさわやかな味わいと、添えられていたリーフレットの丁寧なつくりが印象的だった。そこには、表参道のケリングビル屋上にあった梅の木と、伐採予定だった梅の木を買い取り東京近郊の「ケリングファーム」に移植して育てた梅から作られたことが記されていた。さらに、ケリングの社名がブルターニュ語で「家」や「暖炉」を意味する“ker”に由来することや、グループ理念「care」に込められた想い――人、パートナー、製品、地球への配慮――が丁寧に説明されていた。

ケリングファームは、表参道の植栽を担当する企業と協働で運営され、2022年の設立以降、社員が年2〜3回参加して土づくりや雑草取りを行っている。現在は約20本の梅が根付き、23年に初収穫を迎えた。ギフトとして梅シロップを作ったのは今年が初。

農園での活動は全社メールで募る公募制で、すでに延べ100人が参加。経理や人事、テック部門など普段接点の少ない社員同士が交流するきっかけにもなっている。バス移動中には「ケリングトリビアクイズ」も行われ、昼にはバーベキューを楽しむなど、学びと交流を融合したプログラムだ。梅シロップづくりは、社員一人ひとりがケリングの「care」の哲学を“体験”を通じて学ぶツールにもなっている。

食から伝える企業理念

ファッション企業が食に関わる取り組みを行うのは、珍しいことではない。けれど、カナダグースやケリングのように日本法人ができるアクションとして、理念の実装と人の関わりを重ねる姿勢は示唆的ではないか。自社のサステナビリティへの取り組みを伝え、エンゲージメントを高めることは簡単ではない。農業が社員にとってブランドの価値を理解する機会になり、受け取り手にも企業姿勢を知る機会になっており、新たなコミュニケーションツールになっている。

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