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「トム ブラウン」直営店強化で“らしさ”再発信   CEOに聞くラグジュアリー逆風下の戦略 

PROFILE: ロドリゴ・バザン/トム ブラウン CEO

ロドリゴ・バザン/トム ブラウン CEO<br />
PROFILE: アルゼンチン出身。マーク ジェイコブス インターナショナルでヨーロッパ、中東、インド地域のVP兼ジェネラルマネジャーを務めた後、2010年に「アレキサンダー ワン」初の社長に就任。グローバル出店や商品ラインの拡張を牽引し、ブランドの成長を支えた。2016年から「トム ブラウン」のCEOを務め、卸から直営主体への転換、D2C戦略の加速、ブランドのグローバル展開を推進 PHOTO:TAMEKI OSHIRO

中国需要の減速などラグジュアリービジネス全体に逆風が吹いている。「トム ブラウン(THOM BROWNE)」も2024年12月期の売上高は前期比16.8%減の506億円と、その影響を免れてはいない。

そうした状況下で打ち出したのは、卸売中心の体制から直営主体への大胆な転換だ。世界観を凝縮した直営ストアを軸に、フォーマルの原点とも言えるカスタムメイドを強化し、“らしさ”の再構築を図る。

このほど新オープンした銀座の旗艦店も、日本市場の今後を占う重要拠点だ。ここにどんな「トム ブラウン」らしさを凝縮し、伝えていくのか。銀座店のオープンに合わせて来日したロドリゴ・バザン(Rodrigo Bazan)CEOに話を聞いた。

WWD:現在の「トム ブラウン」の状況をどう捉えている?

ロドリゴ・バザン トム ブラウンCEO(以下、ロドリゴ):私たちは今、大きな変革の真っ只中にいる。売り上げも一旦は落ち込んでいるものの、必要な痛みだったと捉えている。卸売り主体のビジネスから、直営主体のビジネスにシフトするためだ。北米ではマイアミ・ビーチ、ニューヨーク、ロサンゼルスなどに直営店をオープンしたが、これらはすべて、D2C(直営店)ビジネス戦略の一環。(現職に就任した)2016年当時、私たちの直営店はわずか4店だったが、今や120店を超えるまでに拡大している。

WWD:D2Cへの移行を進めている理由は?

ロドリゴ:ブランドの世界観を理想的な形で伝えられるからだ。商品の見せ方からメッセージまで、完全にコントロールできるのが直営店の強み。しっかりとした教育を受けた販売スタッフによる、お客さまのライフスタイルに合った提案とサービスで、「なぜこの商品が必要か」を明確に伝えられる。

すべての店舗が大規模である必要はない。伊勢丹新宿店や阪急うめだ店のように、百貨店内でも深くブランドを体感できる店舗は作ることができる。日本市場はこの5年間で、私たちの直営戦略における重要なモデルケースになった。

WWD:「トム ブラウン」に限らず、ラグジュアリーブランド全体が直営店志向。日本でも、代理店を介さないビジネス展開が増えている。

ロドリゴ:ラグジュアリーブランドの多くが「真の直営」へ移行している。「トム ブラウン」もブランドイメージを正確に伝え、長期的にフルプライス(正価)で販売できる体制を確立したいと考えている。D2Cであれば、イメージコントロールも徹底できるし、スタッフの労働時間も最適化して、運営効率を高められる。ブランドとプロダクト、そして顧客。この三者の関係を強固にすることが何より重要だ。

D2Cの本質は「顧客中心」。お客さまにどれだけ良質な体験を提供できるか。驚きや感動を届けられるか。それを常に考え、表現し続けるから、お客さまに支持していただける。北米のパームビーチやメルローズプレイスの店舗の滑り出しには、大きな手応えを感じている。一方ニューヨークや青山など長く続いている店舗も、堅調だ。

卸売についても疎かにはしない。世界中の250のマルチブランド店やラグジュアリーショップとの関係は維持していく。そこではユニット単位で、ボリュームよりもより厳選した展開を重視していく。D2Cと卸、それぞれが異なる顧客接点としての意味と機能を持たせる。

WWD:近年は商品展開の幅も大きく広がっている。このことも関係しているのか。

ロドリゴ:この10年で、バッグ、サングラス、フレグランス、チョコレートなどが新たなカテゴリーが加わった。レディー・トゥ・ウエアではトラディショナルなシルエットだけでなく、最近ではフーディーやオーバーサイズのストリート的なアイテムも強化している。こうした多様性を伝えるには、やはりD2Cが最適なフォーマットだ。

現在のグローバルでのウエアの売上比率は3分の2がメンズ、残りの3分の1がウィメンズ。ウィメンズはメンズより10年後発だが、特定の地域ではメンズに匹敵するか、あるいはそれ以上に売れている。特にパームビーチでは、オープン当初から売り上げの大部分がウィメンズという、想定外の結果になった。自社店舗を構えたから得られた、大きな発見だった。阪急うめだ本店や伊勢丹新宿本店でもウィメンズの売場面積を拡大した。

MTO、MTMはブランドの中核
直営店ならではのストーリーテリング

WWD:ここ銀座店では、MTO(メイド・トゥ・オーダー)のニットウエアを提供する。

ロドリゴ:カシミヤ22色、メリノウール15色。いずれも過去6年のコレクションで使用してきたカラーパレットを用意する。お客さまは8つの定番ニットスタイルの中から好きなものを選び、色やサイズ、4本線やボタンディテールまでカスタマイズできる。私たちはそれをオーダーから約7週間で届ける。

20年前からある伝統的なニットに、新しい色を加え、新しい命を吹き込む。こうした取り組みも、直営だからこそ可能なブランドのストーリーテリングだ。

私たちにとって、「一人ひとりに向き合う特別な体験」は強い関係作りと成長を生む。そもそもトム本人がブランド創設時に手掛けていたのは、シャツやカシミヤセーターのメイド・トゥー・メジャーだった。つまり、パーソナライゼーションと顧客との特別な関係性は、ブランドの原点だ。

MTOやMTM(メイド・トゥ・メジャー、顧客の体型などに合わせて洋服を提供するサービス)は、今やメンズだけでなくウィメンズでも非常に好調だ。さらにセレブリティーの衣装やショーピースといった特注アイテムは、今やビジネスの中核となりつつある。

WWD:今年の「メットガラ」は「トム ブラウン」祭りだった。

ロドリゴ:ああいった特別な場でパーソナライズされた衣装を完璧に仕上げられるブランドであるという認知は、「このブランドなら、自分にも特別な提案をしてくれるだろう」という期待につながる。 MTOやMTMは、私たちのベストカスタマーと密につながる手段であり、エンゲージメントの起点にもなっている。

WWD:日本市場や日本の顧客については。

ロドリゴ:「トム ブラウン」と日本の関係は、20年近くにわたる。青山と2つのショップインショップを構え、そこから優秀なチームが育った。多くのメンバーが10〜15年にわたってブランドを支えてくれている。

MTM、MTOの事業は、特に日本での反応がいい。デザインや品質、クラフツマンシップへの理解が深く、制服的な美学やカスタムメイドの思想に深く共鳴していただける。私たちにとって、最も成熟したマーケットの一つだ。

WWD:今後の店舗戦略については。

ロドリゴ:現在、世界で120以上の直営店と、10~15のフランチャイズ店舗を展開している。2023年には韓国市場でもフランチャイズから直営に切り替え、現地チームがそのまま運営を担っている。 25年には、売上全体の約3分の2を直営が、残りの3分の1を卸が占める構成になる見込みだ。これが私たちにとって、最も健全で合理的なリテールネットワークだと考えている。大規模な拡大フェーズはすでに終了しており、今後は立地を厳選した出店が中心になる。

WWD:ラグジュアリーブランド全体では急成長のフェーズを終え、成長が鈍化してきている。その中で成長戦略をどう描く?

ロドリゴ:まず、カテゴリーで言えば、今後さらに伸ばせるのがアクセサリーとシューズだ。特にシューズには大きな成長余地があると見ている。アイウエアにも注力しており、日本製の最高品質のプロダクトを自社で製造している。

ブランド全体としては、適切な顧客接点さえ築ければ、今も成長の余地があると確信している。「トム ブラウン」はメンズ、ウィメンズ、キッズまでを展開し、コンセプチュアルなショーピースからポロシャツのようなクラシックアイテムまで、非常に幅広いプロダクトを網羅している。さらに、ベストカスタマープログラムやショー、MTM、MTOといった多様な顧客接点においても高い信頼と実績を築いてきた。

今の時代、「なんとなく買う」という消費は少ない。求められるのは、独自性のあるプロダクトと、深く持続的な顧客接点。その両方を備えるのが、私たちの直営ネットワークだ。

「トム ブラウン」は、ラグジュアリーライフスタイルブランドとして、あらゆる年齢・性別の顧客に応えていく。たとえばポロシャツひとつを買ってもらうにしても、MTMと同じくらい洗練された体験を提供する。それこそがこのブランドの独自性であり、ラグジュアリー市場における存在意義になりうるだろう。

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