ビューティ&ファッション業界では、パーソナライズされた体験とコミュニティー中心のブランド施策が消費者から支持を得るカギとなっている。クロスチャネルマーケティング・プラットフォーム企業のリストラック(LISTRAK)は、米「WWD」が主催した「ビューティCEOサミット」で「ビューティ&ファッション ベンチマーク レポート2025」を発表した。登壇したジェイミー・エルデン(Jamie Elden)=リストラック チーフ・レベニュー・オフィサーは、Z世代やAI、SNSが中心となる次世代マーケティングの潮流を語った。
「新製品告知を週に2回メールで送り、反応がなければ週4回送る」といった多くのブランドが行う量的アプローチは効果が薄く、“個人やニーズと向き合う”マーケティングが有効だとエルデン=チーフ・レベニュー・オフィサーは語る。リストラックのAI技術では、ユーザーが閲覧したが購入に至らなかった製品をトラッキングし、パーソナライズされたSMSやメールで再提案する。SMS経由の売り上げは、前年比70%増と急伸しており今や主要チャネルの一つになっているという。
注目チャネルはSMSからRCSへ
双方向型コミュニケーションが新常識に
北米では、ヨーロッパやアジアですでに普及しており進化型SMSといわれるRCS(リッチコミュニケーションサービス)の成長も注目されている。RCSは購入リンクや双方向のやり取りが可能で、ECとの連携にも優れる。「わずか5年でメールとSMSの比率は“メール70%:SMS30%”から“メール40%:SMS60%”へと逆転した」という。この変化をけん引しているのは、Z世代とミレニアル世代だ。
同社のレポートによれば、ブランドの新規客獲得数は前年比で80%増を記録。消費者はこれまで以上にSNSを検索・比較・発見の場として活用している。カスタマイズされたブランドコミュニケーションを得るため、ブランドの公式サイトでは自発的に個人データを入力しているという。また、パンデミック後に落ち込んだメイクアップカテゴリーはこの2年で回復傾向にあり、スキンケアは依然として主要カテゴリーを維持。Z世代が新規売り上げの約40%をけん引している。特筆すべきは、今年は13歳以下のα世代が勢いを増しており、月に平均140ドル(約1万9800円)を消費しているという。
TikTokライブは“10代のQVC”
ブランドとの連携も加速
エルデン=チーフ・レベニュー・オフィサーは、「最近、12歳の息子とロンドンのセルフリッジズ(SELFRIDGES)を訪れ、『パコ・ラバンヌ(PACO RABANNE)』のフレグランス“ファントム”を購入した。ロボット型のボトルの90年代に流行った製品だが、息子はTikTokでそれを見て自分で選んで購入した」と紹介。「フレグランスはZ世代やα世代の若い男性の間でブームになっている。彼らは高級ブランドのフレグランスに200〜400ドル(約2万8400〜5万6800円)を費やす」と語った。
Z世代とα世代、ソーシャルメディア、そして新興のマーケットプレイスがブランドの成長を左右する中、TikTokライブはゲームチェンジャーであり続けている。エルデン=チーフ・レベニュー・オフィサーはTikTokライブを「10代のためのQVC」と称し、「視聴者はアラームをセットしてまでライブ配信にアクセスし買い物を楽しんでいる」と指摘した。リストラックはTikTokショップとの連携を開始し、売り上げは急拡大しているという。
製品だけでなくブランドの
“人格”が問われる時代へ
ビューティ製品の消費者がこれまで以上に購買前の情報収集行動をするようになっている今、新鮮で魅力的なコンテンツがより求められている。消費者はスキンケアの効果や成分、人気製品やサステナビリティについて調べているとして、ハウツーコンテンツやソーシャルコンテンツの重要性を強調した。エルデン=チーフ・レベニュー・オフィサーは「今はただ製品を売るだけでは不十分だ。消費者はブランドの信念や社会的責任まで注目している」と締めくくった。