伊藤忠商事・繊維カンパニーは、子会社のハンズオン型の経営支援を強化する。同社は傘下にスポーツからカジュアル、ウイメンズ、ジーンズ、服飾資材など多岐にわたる子会社群を抱えており、外部人材も積極的に活用する。子会社の収益を引き上げることで、安定的に基礎収益400億円を稼ぐ体制を構築する。武内秀人・執行役員繊維カンパニープレジデントは「今年度はすでに抱えている資産を磨き上げて、中長期的な目標である純利益500億円達成のための布石を打つ」考え。
赤字転落の「アンダーアーマー」をテコ入れ
2025年3月期は1363億円を投じてデサントにTOB(株式公開買付け)を実施し、完全子会社化しており、大型のM&Aは一服していた。スポーツ分野ではデサントと並びスポーツウエアブランド「アンダーアーマー」を展開するドーム、ロコンドと連携して展開する「リーボック」などを擁している。デサントには元繊維カンパニープレジデントの小関秀一・社長ら経営幹部に加え、多数の出向者を送り込み、経営支援を強化する。デサントの25年3月期決算は純利益が前期比10億円増の130億円と3期連続で過去最高益を更新しており、26年3月期も145億円を見込むなど好調を維持する。中国の大手スポーツ企業のアンタ(ANTA)と組んだ中国事業が好調で、純利益を押し上げる。
一方で低調なのが、22年4月に子会社化した「アンダーアーマー」を展開するドーム(出資比率69.7%)だ。25年3月期は34億円の赤字に転落した。ウイメンズやシューズ、直営店の強化を掲げてきたが、卸ビジネスが伸び悩んでいる。今年度は社長を交代し、商品力の向上のため外部からプロ人材も招き入れた。「まずは低重心化のターンアラウンド(経営改革)だ」(武内カンパニープレジデント)。25年度には黒字化させる計画だ。
もともと成長余地の大きいスポーツ以外にも、伊藤忠は婦人服のレリアン、メンズのジョイックス、ジーンズのエドウインという成熟市場をターゲットにした老舗・名門企業を抱える。これまでは役員や現場の経験を積ませるための若手派遣などにとどまっていたが、今後は企業の状況に応じて外部から経営人材や商品、あるいは小売のプロフェッショナル人材を招へいする。すでにレリアンには経営人材を、エドウインでも経営人材候補を外部から引き入れた。3社はこの数年、純利益が10億円前後、不振時には数億円程度に沈むこともあった。伊藤忠本体の人材にこだわらない経営改革で、取り込み利益という「果実」を取る戦略だ。
有力アパレル・小売りとタッグ
“ブランドビジネスの進化型”
これまでライセンスを重視してきたブランドビジネスでも直営店の出店やECを拡大する「DtoC」型ビジネスを強化する。並行してベイクルーズやマッシュグループ、アダストリア、ユナイテッドアローズといった有力アパレル小売りと、相次いで協業をスタート。ベイクルーズとは「アウトドアプロダクツ」で、マッシュとは「バブアー」「レスポートサック」、アダストリアとはアウトドアブランドの「カリマー」でライセンスや共同で事業を運営する。ブランドビジネスを有力なリテーラーと共同経営まで含めた多彩なスタイルに進化させる。
25年3月期の繊維カンパニーの純利益は、デサント株の評価見直しという特殊要因で738億円(前年は270億円)だった。特殊要因を除いた基礎収益は11億円増の283億円だった。デサントの完全子会社化で、これまで50〜60億円にとどまっていた取り込み利益は26年度で145億円と3倍近くに拡大する見通しで、26年3月期の繊維カンパニーの純利益は380億円を計画。400億円が手に届くところまで来ている。子会社のハンズオン型経営支援は、伊藤忠本体の社員の経営人材育成という面でも数字以上のシナジーがありそうだ。
定期購読についてはこちらからご確認ください。
購⼊済みの⽅、有料会員(定期購読者)の⽅は、ログインしてください。