ファッション

ジャンヴィト・ロッシが語る靴作り、エゴのないデザインが生むエレガンス

リシュモン・グループ傘下のラグジュアリーシューズブランド「ジャンヴィト ロッシ(GIANVITO ROSSI)」は、エレガンスとフェミニンを軸に据えながら、時代の感性に寄り添うかたちで進化しようとしている。その根底にあるのは、創業者ジャンヴィト・ロッシ(Gianvito Rossi)の「履く人を主役にする」デザイン哲学だ。父セルジオ・ロッシ(Sergio Rossi)から靴作りを学んだ彼は、シューズに足を入れる瞬間の心の機微までも丁寧に想像しながら、その人の個性を引き立てる靴づくりを続けてきた。

人々のライフスタイルがよりカジュアルへと傾く今、ジャンヴィトのデザイナーとしてのエゴを排した柔軟なアプローチは、履く人のエレガンスを引き出すブランドの強さとなっている。パンデミック後、久しぶりの来日となった同氏が、靴作りにかける思いを語った。

WWD:新作コレクションに込めたメッセージは?

ジャンヴィト・ロッシ(以下、ジャンヴィト):今回のコレクションのキーとなるのは、「フェミニン」の象徴としてのパンプスだ。フェミニニティーを引き立てるカラーを、色の表現力に優れているスエードに乗せた。プラットフォームなどにもあしらったパイピングにはすごくこだわった。形を際立たせたり、リズムを出したり、シルエットをなぞるような繊細な要素として取り入れている。決して主張しすぎず、でも印象に残る、そのバランスを意識した。手に取る人に伝えたいのは、「あなたには、想像力を駆使して考え抜かれたものを身につける価値がある」ということ。表面的なアイデアを元に作られたものではなく、時間をかけて磨き上げられたデザインを味わってほしい。私は常に履く人のパーソナリティーが輝くことを意識している。私のシューズを選ぶという行為自体が、自分自身を誇りに思うきっかけに感じてもらいたい。

WWD:特にカジュアルなシューズに傾倒している市場の流れは、クラシックなエレガンスを追求する「ジャンヴィト ロッシ」にとってどんな影響があったか。

ジャンヴィト:今のファッションは、カジュアルにもなれるし、エレガントにもなれるという自由を私たちに与えてくれた。シーンや気分によって、異なるスタイルやアティチュードを自分なりにミックスする方法を見つけられる時代になったのだと思う。ファッションの歴史を振り返れば、これは非常に新しいことだ。以前は「こうした服装でなければいけない」というルールが明確だったから。私にとっても、この自由を楽しむデザインはまだまだ実験的な段階だが、その“遊び“を楽しんでいる。たとえば、ある日は思いきりカジュアルに過ごしたくなるし、別の日にはもっとエレガントに装いたくなる。そうして、日常の中で異なるテイストを自由に行き来するのが今のファッションやデザインの面白さだと捉えている。

WWD:具体的によりカジュアルシーンに沿った商品カテゴリーを拡充する方向性なのか?

ジャンヴィト:確かにカテゴリーは増えている。ただ強調したいのは、こちらからシーンを限定するのではなく、そのシューズをどう履きこなすかは、あくまで履く人の感性に委ねているということ。例えば、今季のプラットフォームシューズは、シーンによって表情を変える。お客さまの解釈に委ねるというのは、チャレンジでもあり、楽しみでもあるんだ。

WWD:ここ数年で、人々がラグジュアリーシューズに求めるものに変化はあるか。

ジャンヴィト:ライフスタイルがさまざまに変化する中で、特に顕著なのはファッション・ビクティム的な消費は減り、もっと慎重に、背景やストーリーを重視して選ぶようになっている点だと思う。

WWD:多くの人が「本当に自分に合うもの」や「心地よさ」を重視し、製品の背景やストーリーに敏感になったマインドセットの変化は、あなた自身のデザインアプローチに影響を与えた?

ジャンヴィト:いいえ。というのも、むしろこれまでの私の靴作りがより生きる時代になった気がしている。私のお客さまは、流行に振り回されるようなタイプではなく、自分が何を身に着けるかを強い意志を持って選択している。大切にしているのは、決して私自身の個性を押しつけるのではなく、そういう人たちの人の個性を引き立て、履く人の魅力が自然に表れるようなものを作ること。自分の世界観を表現したい、自分を認識されたいという思いを強く持っているデザイナーもいる。でも私は、私の靴を通して「お客さま自身が認識される」ことの方が大切だと考えている。

WWD:「人の声に耳を傾けること」を大切にする姿勢は、生まれ持った性格から?それとも、経験を通じて身につけたもの?

ジャンヴィト:生まれ持ったものが大きいかもしれない。私にとって一番のご褒美は、お客さまが私の靴を履いて幸せそうにしてくれている瞬間に尽きる。それだけで本当に十分なんだ。

「ただ紙にスケッチするのとは違う」 専業ブランドとしての靴作りにかける思い

WWD:マルチカテゴリーなラグジュアリーブランドもシューズを提供する中で、専業ブランドとしての優位性を今後どのように発揮していく?

ジャンヴィト:私は人生をかけて靴作りに専念してきた。そこから得られる大きな違いは、“本物のクオリティー“だろう。これに到達するには360度の視点が必要だ。私はデザイナーであるだけでなく、シューメーカーである。つまり、デザインだけでなく、どのように作られているか構造を深く理解している。今はブランド名さえあれば、車だって、ビルだって、靴だって、何にでも名前をつけて売ることができる。でも、そのプロダクトを本当に理解しているかどうかは別の話だ。

靴は、シャツやバッグのようなアイテムとは違う。歩き方や健康、気分、ひいては人生にまで影響するもので、身に着けるものの中でも特別な存在だと思う。だからこそ、「どう作るか」を深く知ることが大切。私は父から学んだ知識と技術を大切にし、細部にまでこだわり抜いて、誠実にものづくりを続けている。“本物のクオリティー“を理解していなければ、ただ紙にスケッチしているのと変わらない。もちろん、バッグやアクセサリーなどを手がけることもあるが、やっぱり私にとっての本業は靴。これが私の専門であり、自信を持って提供できる分野だ。

WWD:これからさらに挑戦したいことは?

ジャンヴィト:もっと世界中の方々に私たちの靴を届けられるよう、ブランドの認知を高めていきたい。そのために、直営店のネットワークを少しずつ広げているところで、毎年確実に新しいお客さまを迎えることができている。引き続き、グローバルにブランドを広げていく方針だ。

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