ファッション

アダストリアが「ブレイモア」を支援 “東大卒”イメージの脱却に挑む25歳の野心

PROFILE: 松井勇樹/「ブレイモア」デザイナー(右)

松井勇樹/「ブレイモア」デザイナー(右)
PROFILE: (まつい・ゆうき)1998年生まれ、神奈川県出身。2023年春夏シーズンにアパレルブランド「ブレイモア(BLAYMORE)」を立ち上げる。2021年に東京大学を23年に文化服装学院服装科を卒業。現在は東京大学大学院農学生命研究科に在籍し、サステナビリティファッションが社会に及ぼす影響について研究する。哲学や歴史をベースにしたコレクションを、服装造形の技術を用いながら制作する。デザインのほか、パターンやグラフィックなども幅広く手掛ける。24年6月、アダストリアの「リードプロジェクト」に参加し、24年春夏コレクションを発表した。PHOTO: TAMEKI OSHIRO

アダストリアは6月5日、若手クリエイターを支援する新規プロジェクト「リードプロジェクト(LEAD PROJECT)」の始動を発表した。アダストリアの村岡秀紀「リードプロジェクト」プロジェクトリーダーが中心となり、ファッション業界での活躍を夢見る若手クリエイターとタッグを組み、アダストリアの生産背景を提供して、クリエイターがそれぞれのブランドでやりたいことを具現化する。

第1弾の支援デザイナーは3人で、うち一人が「ブレイモア(BLAYMORE)」の松井勇樹デザイナーだ。「リードプロジェクト」の支援下では初となる2024年春夏コレクションにおいて、セットアップやショートパンツ、Tシャツ、バッグなど全14型をそろえた。アダストリアのECサイト「ドットエスティ(.ST)」で6月12日に発売する。

松井デザイナーは「ブレイモア(BLAYMORE)」を2023年に立ち上げ、洋服づくりの裏側を見せるSNS運営でファンを増やしてきた。現在のインスタグラムフォロワーは約8万。同氏は東京大学&文化服装学院卒業で、これまではその学歴が注目を浴びることも多かった。しかし、「東京大学卒業というイメージだけで終わりたくない」と、今回のプロジェクトに情熱を傾ける。松井デザイナーと、プロジェクトの仕掛け人である村岡に話を聞いた。

「イッセイ ミヤケ」の衝撃
表現者を目指し文化服装学院へ

WWDJAPAN(以下、WWD):これまでの経歴について改めて教えてほしい。

松井勇樹「ブレイモア」デザイナー(以下、松井デザイナー):ファッションに関心を抱いたのは、東京大学に入学してすぐ、友人に「イッセイミヤケ(ISSEY MIYAKE)」を紹介されたことがきっかけだ。それまでは受験勉強ばかりで、ファッションをあまり気にかけてこなかったため衝撃を受けた。

ただ、すぐにデザイナーを志したわけではない。就職活動時は一般企業にエントリーしていた。すでに内定も受けていたが、「やっぱり表現者としての側面を伸ばしたい」と考え直し、入社を急遽辞退した。東京大学院への進学に方向転換し、夜間コースで文化服装学院の服装科に通うことを決めた。入学前から実家のミシンでお直しやリメイクをたまにしていたが、文化服装学院に進学してから服飾の勉強を本格的に始めた。大学院では農学を専門に、サステナブルファッションが環境に及ぼす影響を定量調査している。

WWD:「ブレイモア」を立ち上げたのはいつ?

松井デザイナー:文化服装学院2年生の頃だ。当時、洋服作りのスキルだけでなく、ビジネス面の経験値を高める必要性を感じていた。知人のつてによって奇跡的に繊維商社の社長とつながり、スポンサーになってもらうことができたため、ブランドを立ち上げた。2シーズンにわたって支援を受けながら、企画から生産、販売まで関わった経験が下積みになったと思う。

WWD:ブランドの特徴は?

松井デザイナー:“右脳で引かれ左脳で納得のいくワードローブ”がコンセプト。直感的な判断をする右脳に訴えるような、圧倒的な見栄えを作りたいという思いを込めた。また、左脳は論理的思考を司る部位なので、自分が文化服装学院で学んだ服飾のテクニックを、着心地の良さなどに落とし込みたい。

特徴は、ルーズシルエット。ゆったり着られるけど、あくまでも体のシルエットに沿うような仕様にこだわっている。ほかにもステッチのコバを細かくしたり、ファスナーを見せないようにしたりして、ミニマルな見た目になるように工夫している。

インフルエンサーの夢を実現
「リードプロジェクト」とは

WWDJAPAN:「リードプロジェクト」の目的は?

村岡秀紀「リードプロジェクト」代表(以下、村岡代表): 「リードプロジェクト」はインフルエンサーの夢や志の具現化を図るプロジェクトだ。現代ではSNSの発展により、誰もが影響力を持てるようになった。コロナ禍でD2Cビジネスが勢いづく中、アパレル企業の多くは、インフルエンサーブランドが市場のシェアを奪う脅威と見なす傾向にあった。しかしわれわれは「手を取り合った方が新たなビジネスチャンスが生まれるのでは」と考え、魅力的なインフルエンサーを探し出し、彼らの夢を支援するプロジェクトを始めることにした。社員3人で構成するスモールチャレンジだ。

インフルエンサー個人とコラボする試みは、それほど珍しくない。ただ、「リードプロジェクト」がほかと異なるのは、参加するクリエイターがすでにブランドを持っているということ。あくまでも彼らがやりたいことを、アダストリアがバックアップする。

WWD:プロジェクトに参加するインフルエンサーの選定基準は?

村岡代表:志の高さを重視した。松井君は、一般的なインフルエンサーとは一線を画す存在だ。自身のブランド「ブレイモア」に対する思いや、彼のクリエイションにひもづく知識の多彩さが魅力的。将来のビジョンも明確であり、それをサポートしたいと感じた。松井君はインスタグラムで約8万のフォロワーを抱えている。これまでいろいろなインフルエンサーと話してきたが、彼ほどの上昇志向を持つ若手は珍しい。素直に「めっちゃ面白い子だ!」と心引かれた。

WWD:松井デザイナーの将来のビジョンとは?

松井デザイナー: パリコレに参加したい。三宅一生デザイナーや山本耀司デザイナーは、30代半ばでパリに進出した。今、自分は25歳なので、10年後までに挑戦したいと思っている。

WWD:アダストリアの支援を受けることで、ブランド運営は何が変わるか。

松井デザイナー:アダストリアの生産背景を使用できるため、効率化が図れる。価格帯を前シーズンの6〜7割である8000〜2万7000円に下げており、「ブレイモア」の洋服をこれまでより多くのお客さまに届けることができるはずだ。商品ラインアップも広がり、合皮素材を使ったアイテムやアクセサリーも開発可能になる。

また、コンセプトメーキングやデザインにさらに注力できるようになった。これまでは企画や生産、販売などにも携わっていたため、業務で手いっぱいになることが多かった。今後は自分の哲学を洋服に込めるための時間を増やせる。

村岡代表:基本的に、松井君は「ブレイモア」のディレクションをこれまで通り担う。商品企画のアイデアや、SNSプロモーションの進め方について意見してもらう予定だ。アダストリアが蓄積してきた経験やノウハウを使って、松井君のクリエイションイメージを具現化し、新たなトレンドを創出していきたい。

「リードプロジェクト」で初披露となる2024年春夏コレクションでは、セットアップやショートパンツ、Tシャツ、バッグなど全14型をそろえた。6月12日にアダストリアのECサイト「ドットエスティ(.ST)」で発売する。

WWD:今後の目標は?

松井デザイナー:全て納得が行くものを作り、できるだけ多くの人に洋服を手に取ってもらいたい。“東京大学”という見られ方だけで終わらないようにしたい。

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