ビューティ
連載 ビューティ・リサーチャーズ 第6回

毛髪の“一番深いところ”の話をしよう【ビューティ・リサーチャーズVol.6】

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PROFILE: 萬成哲也/タカラベルモント研究開発部 基礎研究センター 研究員

萬成哲也/タカラベルモント研究開発部 基礎研究センター 研究員
PROFILE: (まんなり・てつや)大学院時代に脳神経科学の研究室で学び、2014年入社。17年からメデュラ構造の研究を進めるため毛髪の「縦切り」の実験を開始。20年にはIFSCCでメデュラの構造やその変化について口頭発表を行った

ビューティ企業の競争力の源泉であるR&D(研究と開発)。本連載では、普段表舞台に出てくることが少ない研究員たちの仕事の醍醐味を聞く。第6回はサロン専売商品や理美容機器などを展開するタカラベルモントの研究員にフォーカスする。毛髪構造の最深部にある「メデュラ」(毛髄質)について研究するのが同社研究開発部 基礎研究センターの萬成哲也氏だ。(この記事は「WWDJAPAN」3月25日号からの抜粋です)

WWDBEAUTY(以下、WWD):「メデュラ」に関する研究とは。

萬成哲也・タカラベルモント研究開発部基礎研究センター研究員(以下、萬成):当社の研究内容に触れる前に、まず毛髪の構造から説明したい。毛髪の最も外側にあるのがキューティクル(毛表皮)。たんぱく質が角質化した鱗状の構造をしていて、このうろこが開いてしまうとパサつきや指通りが悪くなる原因になる。

キューティクルの内側には、毛髪構造のうち8〜9割を占めるコルテックス(毛皮質)が詰まっていて、さらにその奥にあるのが「メデュラ」だ。メデュラについてはあまり研究がなされておらず、どんな役割・機能を果たしているのかは未知の部分が大きかった。

従来の毛髪を輪切りにする手法では、メデュラを平面的かつ一部しか観察できなかったが、当社は毛髪の生える向きと並行に、「縦切り」する独自の技術を世界に先駆けて成功した。根本から毛先まで広範囲に、かつ時間経過によるメデュラの構造変化を観察できるようになった。

WWD:毛髪の「縦切り」にはどんな最新技術が活用されているのか。

萬成:想像していただいているよりもアナログで、地味で、根気のいる作業だ(笑)。 毛髪は専用の機器で手作業で1本1本切る。台の上で毛髪をそのまま切ろうとすると難しいため、冷凍させて処置する。 手先の微妙な感触が頼りだ。うまい具合に刃を入れないと髪の毛の構造が潰れてしまう。この感覚を習得するために、あしかけ1年以上、ひたすら毛髪を縦切りする“修行”を繰り返した。時には、人間の毛よりも太いライオンのヒゲを動物園から提供してもらうなど、さまざまなサンプルを用いて挑戦した。 実験の材料は「自分」。美容室で切ってもらった髪を集めて持ち帰らせてもらうので、最近は、お店に行くと担当の美容師さんが髪を回収するセットを準備して待ってくれている(笑)。

研究対象は「脳」から「髪」へ

WWD:「毛髪」にそこまで没頭できるのはなぜか。

萬成:学生時代は脳神経科学の研究室に所属し、毎日のようにマウスの脳組織をスライスしていた。脳組織の研究もとても興味深かったが、もう少し人間の実生活と接点がある研究開発領域に身を投じてみたいと思い、タカラベルモントへの就職を選んだ。しばらくして 「ホッキョクグマは毛の中心が空洞になっていて温かさを保っている」という話を聞き、ヒトの毛髪の内部のメカニズムに興味が湧いた。

WWD:メデュラについての具体的な研究成果は。

萬成:毛髪の中心を走るメデュラは、繊維状の構造と空隙・空胞(すきまの部分)から成る。縦切りした毛髪の構造研究により、当社は空隙率が比較的高いメデュラ、そうでないメデュラという、異なる状態を見える化した。例えば透明な氷の塊も、粗く削ってかき氷にすると白く見える。同じように、メデュラも空隙が多いほど、内部で光が散乱して透明度が下がっていく。

当社は空洞化したメデュラを改善する処理として、ポリペプチドと浸透剤による独自処理「ヘアメデュラケア」を開発した。メデュラの空洞化を改善すると、髪のツヤやカラーの発色が明らかによくなる。昨年リブランディングしたサロン専売のヘアケアブランド「SEE/SAW」と「THE MOII」、3月に発売した「エステシモ」の“イッシュシャンプー”にこの技術を搭載した。

WWD:今後について。

萬成:メデュラにはまだまだ未知の領域も多い。他の研究機関の発表では、メデュラにはストレスを感じたときに分泌されるホルモンであるコルチゾールが蓄積していることが分かっている。当社は理美容事業を中心として化粧品、デンタル、メディカル事業などを展開し、人々の「美と健康」を叶えることを企業パーパスにしている。メデュラをケアすることで美しい髪を叶えるのみならず、健康状態のバロメーターとして活用するなど、ヘルスケア分野にも応用できる可能性が見えてきた。

当社の研究室の規模は決して大きくなく、全ての研究と製品開発の担当者を合わせても40人程度。その分研究員一人一人の裁量権も大きく、若手からベテランまで研究に没頭できる環境がある。他社であれば、私のように、毎日毛髪と格闘している研究員は多分いない(笑)。

頭に手を伸ばせば、髪に触れる。誰にとっても身近なものでありながら、毛髪は本当に謎だらけで面白い。家族には怒られるかもしれないが、長期休みの間も研究室に行きたくてソワソワしている。許されるなら“生涯現役”で研究を続けたい。

「ヘアメデュラケア」を搭載し
季節特有の髪ストレスをケア

タカラベルモントはサロン専売スパブランド「エステシモ(ESTESSIMO)」から季節特有のストレスに着目、「ヘアメデュラケア」を搭載した“イッシュ シャンプー”(春夏シーズン、数量限定)を3月15日に発売した。花粉や紫外線など気になる春夏の髪や頭皮を、乳酸菌※とハチミツで潤いを保ちながらすっきりと洗い上げ、バリア機能をサポートする。
※エンテロコッカスフェカリス(保湿)

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