秋冬商戦本番直前の6〜8月に好調ブランドや有力セレクトショップで売れたものは何か?記者が気になるブランドのほか、「WWDJAPAN」8月29日号特別付録「2022年春夏ビジネスリポート」の都内主要ショッピングセンターやゾゾタウン等への取材で「好調!」と挙がっていたり、毎月ウェブに掲載している高伸長ブランド一覧の中などから取材先をピックアップ。直近の売れ筋トップ3からは、今後につながる人気傾向が見える。
重ね着が楽しめる気候で、コートなどの高単価な重衣料が動く秋冬は、ファッション消費が盛り上がるシーズンだ。各ブランドの売れ筋傾向や今後の予測、ヒット確実と期待するアイテムも一緒に掲載し、今年の秋冬商戦を占う。(この記事は「WWDJAPAN」9月5日号からの抜粋です)
【CLANE】
ファンの圧倒的な先物買い
売れ筋はモヘアとツイード
【ブランド紹介】
松本恵奈が2015年にスタートしたウィメンズブランド。“ORIGINAL STANDARD”がコンセプト。バックフリルなどシンプルながらも“一癖”加えたデザインや、アーチラインなどシルエットに変化を付けた構築的なデザインのアイテムが多い。リアル店舗は表参道ヒルズ、ルミネ新宿、伊勢丹新宿本店、ルクア大阪の4店舗(22年9月現在)。
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1位
カラーモヘアシャギーカーディガン(3万1900円)
秋冬の定番として展開している長袖のモヘアカーディガン。冬のアウターとしても使えるほどの保温性があるアイテムだが、「気温にかかわらず、お客さまは『クラネらしいもの』を求めてくださっている」(プレス)。これまではピンクやブルーといったビビッドなカラーパレットでスタイリングの主役にする提案だったが、今季はベーシックなグレーも用意し、さらに幅広い支持を得た。
2位
ノーカラーツイードジャケット(4万6200円)
「クラネ」では甘めテイストのワンピースなどが売れ筋だが、「今秋はジャケットなどで少しモードな雰囲気をプラスしたいというお客さまが多い印象」。そんな気分を反映したきれいめのツイードジャケットで、数シーズン前に人気を博した商品をリバイバル。「もう一度発売してほしいというお声が多く、顧客さまの支持が非常に高かった」。
3位
フローフラワージャカードワンピース (3万5200円)
刺しゅうのワンピースは他にないデザインが支持されるブランドの定番人気アイテムだ。ワンピースを主力とする競合ブランドが多い中で、刺しゅう始末をあえてラフにすることでフリンジのように見せるなど、細部まで凝ったデザインで差別化している。「『クラネ』のワンピースを(結婚式などの)オケージョンで使いたいというニーズにも応えていきたい」。
【直近の売れ筋傾向と今後の予測】
シーズンを先取りする顧客の購買意欲が非常に高く、6〜8月の売れ筋TOP3は全て秋冬物が占めた。「2月に半袖、3月にはノースリーブが動き、6月には春夏商品が店頭にほとんど残っていない」。衣替えや季節行事といったニーズではなく、独自のデザインや世界観といった、純粋な“服”としての魅力が顧客の心をとらえている。8月中旬から下旬にかけては、新宿ルミネと大阪ルクアの店舗、公式ECで開催した秋冬アウターの先行受注会が1週間で9000万円の売り上げ。マキシ丈のダッフルコート(写真、6万1600円)やフレアシルエットのボアコート(5万7200円)などが人気だった。
■調査員の考察

ファンを獲得し、新作の購買を喚起するのはSNSの発信だ。インスタライブは常時600〜1000人程度の視聴があり、ユーチューブチャンネルへの関心度も高い。「コロナでお客さまとの距離が縮まり、売り上げはむしろ伸びた」。(本橋涼介/編集部記者)
【ebure】
審美眼を養った大人の女性は
上質な素材が決め手
【ブランド紹介】
サザビーリーグが運営する「エブール」は2016年秋に、コート10型でスタートしたブランド。顧客層は40代を中心に、審美眼を養った大人の女性から支持を得る。丁寧なモノ作りを徹底して暖冬でもブランドのDNAであるコートの人気は衰えない。現在、直営店はギンザ シックスや日本橋高島屋S.C.など8店。
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1位
ライトリバートレンチコート(ジレタイプ)(10万8900円)
ウエストマークのワンピースライクなシルエットで、晩夏のレイヤードアイテムとしても活躍する1着。襟付きのジレとは違う柔らかい雰囲気。細番手ウールのリバー仕立てで、薄手ながらにも程よいハリ感と柔らかさがある。7月中旬に受注会を開催し、8月中旬から店頭販売したところ早い時期から秋物を意識し始めた客から好評だった。
2位
ビスグレンチェックスカート(5万6100円)
ウエストのゴムと切りっぱなしの裾始末で抜け感を出したデザイン。また、腰位置の切り替えデザインが立体的なフォルムになっている。8月上旬に商品紹介のインスタライブを実施したところ、ライブ後に各店に問い合わせがあり、立ち上がりの販売開始から好調だった。
3位
リアクティブデニムパンツ(4万2900円)
センタープレス入りのワイドストレートで、前ポケットの白金リベットや後ろの玉縁ポケットのディテールでカジュアルになり過ぎないブランドらしいジーンズに仕上げた。インスタライブでの反響が大きく、スタッフ着用率が高かったことも販促効果につながった。同素材のデニムジャケットやスカートも、全ての形で完売目前。
【直近の売れ筋傾向と今後の予測】
「エブール」では6月からプレ秋冬商品を販売していることもあり、7月以降顧客の間で秋を意識した買い物が始まる。8月は売れ筋1〜3位以外でもシアー感のあるものやレースアイテム、パンツ、定番のジャケットなど、夏に購入してもコーディネートで秋冬まで着こなせるアイテムが人気だった。コートはこれまでロングが人気だったが、今季の受注会ではバリエーションを増やしたこともあり、ショート丈のアウターの反応が良かった。写真は、ウールの細い原毛から作られた糸で織られた生地に両面ビーバー加工した高品質のリバー素材を用いたショート丈のフードコート(10万8900円)。また、今季初めて取り入れた「ロロ・ピアーナ」の生地でもショート丈が好評で、実売期に向けて反響を見込む。
■調査員の考察

トレンドに左右されない自分のスタイルを確立した人たちが買い足したくなるのは、上質な素材のタイムレスな一着。「エブール」は、受注会やインスタライブなどを通して、そうした目の肥えた客にモノ作りへの熱量を丁寧に伝え購買につなげている。(木村和花/編集部記者)
【ISETAN Re-Style】
秋立ち上がりも
「マメ クロゴウチ」絶好調
【売り場紹介】
伊勢丹新宿本店3階にある、1996年に誕生した自主編集売り場。国内外の人気ブランド、新鋭ブランドを精力的に仕入れている。ブランド別の売り場編集だけでなく、近年は担当販売員の個性が感じられる、人を軸にしたキュレーションにも注力。
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1位
「マメ クロゴウチ」
リ・スタイルの売り上げの軸になっているという「マメ クロゴウチ」が、今秋の立ち上がりも売れている。特に人気なのは三重織ジャカード生地を使ったチャイナジャケット(9万3500円)とフェアアイル柄のニット(7万5900円)。チャイナジャケットはベージュとカーキが既に完売したが、9月28日からの「マメ」のプロモーションイベントに合わせた限定商品として、写真のネイビーを仕込んでいる。ほか、袖がプリーツになった白いブラウスなども完売した。
2位
チュールアイテム
秋の立ち上がりで推しているチュールやピンクといった要素が狙い通り好調。チュールアイテムは「モリー ゴダード」「チカ キサダ」のほか、中国出身で日本在住のデザイナーが手掛ける「ヴィヴィアーノ」などを集積している。写真のマネキン中央のピンクのチュールブラウス(3万800円)、スカート(4万1800円)はともに「ヴィヴィアーノ」。
3位
パンクテイストのアイテム
トレンドとして徐々に広がっているパンクの要素がリ・スタイル プラスで支持されている。8月下旬にプロモーションイベントで打ち出した「ダブレット」や「キディル」が人気。アーティストのヘンリー・ダーガーにフォーカスした「キディル」のアイテムは、アート好きの客が10点まとめ買いするケースも。写真は「キディル」のトップス4万4000円、パンツ6万8200円。
【直近の売れ筋傾向と今後の予測】
8月24日に秋物を本格的に立ち上げたが、まだまだ暑さが続き、先物の重衣料ではなく「今すぐ着られて、気分が変えられる商品」が売れ筋のキーワードになっている。8月中旬〜下旬は、2022年春夏に引き続き、“肌見せ”“健康美”“透け感のあるアイテムのレイヤード”といった要素は秋物でも反応がよく、集積しているチュールアイテムが売れている。より気温が下がっていけば、「今年はコートの当たり年になる」と期待しており、コートの品ぞろえを強化。既に8月から、ボアコートなどは店頭で手に取ってみる客が目立った(右写真は「ロク」のボアコート、24万5300円)。10月は「オーバーコート」の華やかなグラフィックを落とし込んだコートや「ハイク」などのボアコート、11月はイベントで打ち出す「マッキントッシュ」、12月は「オーラリー」や「リト」などのダウンアウターを推す。
■調査員の考察

外出機会が増える中で、気分がアガる商品を求める客が増えている。リ・スタイルの売り上げはコロナ禍前の水準に回復してきており、「免税売り上げを失った分も、日本の顧客との深いコミュニケーションで補えている」と神谷将太バイヤー。(五十君花実/副編集長)
【RESTIR】
華美なものから売れて
昨対120%で秋冬始動
【ショップ紹介】
国内外のさまざまなブランドを取り扱うセレクトショップ。近年はフレグランスを中心とするコスメやガジェットなど、ライフスタイルも強化している。今季は、「バラクラバ(目出し帽)」まで含む冬小物とインナーで、トレンドが大きくシフトしない中でも鮮度ある提案を心がける。
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1位
「アティコ」のカーゴパンツ(11万8800円)
リアーナやカイリー&ケンダル・ジェンナー、エイサップ・ロッキーまで、「セレブがみんなはいている」デニムのカーゴパンツは、まさに「瞬殺」レベルの取り合いになった。セレブ界隈で人気のブランドはSNSを介して世界に出回り、イベントに積極的なブランド同様、「情報が多すぎる中でも人々の記憶に残る」と分析している。ボリュームのあるカーゴパンツは、「バレンシアガ」などでも順調。クロップド丈のトップスと合わせやすく、移行期にハマった。
2位
「アルチュザラ」のファー付きPコート(28万7100円)
「アルチュザラ」は、顧客からの支持が高いブランド。ボーダーに工夫を凝らした変形ニットから、このファー付きPコートまで「ハレの日には『シャネル』や『ヴァレンティノ』を着るようなお客さまにとって、普段着としてトレンド感が“ちょうど良い”」とリステア。「アルチュザラ」は今季、ブルマーのようなアイテムまで順調に消化。
3位
「サカイ」の花柄ワンピース (13万7500円)
「サカイ」は、やはり安定している。特にプレは価格帯も手頃で、すでにバッグなどを除いてほとんどが売れた。インポートのシルエット、特に裾丈の長さに慣れている顧客に向け、サイズ3を豊富にそろえているのも好調要因の1つ。「サカイ」は、他店への卸を縮小しているのも影響しているかも。
【直近の売れ筋傾向と今後の予測】
8月末でも春夏もののセールが残る一方、秋冬らしいアイテムが早くも売れだし、季節感のあるVMDが難しいくらい。秋冬は昨年の同時期に比べると、立ち上がりから現在に至るまでの売り上げは、前年同期比120%くらいで推移している。ミニスカートやドレス、アウターを中心に、華やかなものから売れていく。トレンドが大きく変わらない中で推しているインナーも好調で、韓国の「ボンボン」、日本の「フェティコ」、パリの「ジャックムス」などが順調。納品は遅め。ファンが多いのでそれほど危惧していないが、特にラグジュアリー・ブランドが遅い。サステナブルのイメージばかりが先行して大きな変化が見えづらいブランドは、難しくなってきた。また、どんなレベルでもイベントに積極的なブランドと、そうではないブランドは今後、売り上げが変わるだろう。フレグランスの「バイラオ」は、店頭での取り扱いと同じタイミングでヒーリングイベントを実施。何も仕掛けられないブランドに比べ、初速が10倍くらい良かった。情報が多すぎる中で選ばれるには、とにかく記憶に残る積極性が必要。
