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連載 EC支援

名古屋最強の大型モールに搭載、話題のEC支援サービスの裏側をキーマン2人に直撃

 IT/DXコンサルのハブアンドスポーク(遠藤洋彦社長、東京都品川区)と、上場企業クルーズ子会社で大手ECモール「SHOPLIST」を運営・構築するクルーズECパートナーズ(工藤武尊社長、東京都品川区)など4社は、店頭の在庫販売を可能にするショッピングセンター(以下、SC)などの事業者向けECサービス「SCEC」を開発した。館内物流を担当する佐川急便を中核としたSGホールディングスグループのワールドサプライや、SCのコンサルティング全般を担当するトリニティーズとも連携し、7月12日からプラットフォーム提供をリリースした。「SCEC」を使用したECシステムの第一弾として、愛知県名古屋市の「mozoワンダーシティ」は8月15日、「mozoPLUS」をグランドオープンした。SCECの特徴やmozoワンダーシティにおける取り組みなどについて、ハブアンドスポークの遠藤洋彦社長と、クルーズECパートナーズの工藤武尊社長に聞いた。

ハブアンドスポーク、
クルーズECパートナーズら4社が
共同で提供

WWDジャパン(以下、WWD):「SCEC」とはどのようなサービスか。

遠藤洋彦(以下、遠藤):特徴は「超大型ECモールでの構築・企画・運用ノウハウを生かした、オン・オフラインでの細やかな業務/システム設計」「SC向けのモール型ECシステム・サービス」「店頭スタッフへの負荷軽減を第一に」「新たな生活様式への対応」「店頭在庫の24時間365日稼働」の五つだと考えている。まず一つ目については、自身の前職でのOMO経験と、SHOPLISTをはじめ相当数の実績があるクルーズECパートナーズの構築・運用ノウハウを盛り込んでいる。

工藤武尊(以下、工藤):一般的なECは、単一ブランドが構築したものやマーケットプレイスのような形のものがほとんどで、SCECのようにオフラインのSCモールをオンライン上に再現したような事例はほとんどない。SCECはオンラインとオフラインをまたいだモール展開が可能で、館内EC物流から自宅配送までを含めた物流サービスになっている。

WWD:大型ECモールについての知見が生きたのは、具体的にどのような部分か。

工藤:一例としてWMS(在庫管理システム)がある。今回のように店頭在庫を用いた超大型のECモールを考える場合、受注以降の在庫管理とピッキングなどのオペレーションをどのように管理運用していけるか、が念頭にあった。そこに対して、われわれはmozoワンダーシティ全体を一つの多層フロアの倉庫のように見立て、WMS上でのロケーション管理を館内のテナント区画に置き換える発想転換を取り入れた。例えば、テナント区画の館内移動があれば、物流倉庫における当該テナントのラックや巣箱(たたみ商品)が別ロケーションに移った状態と同じように考えた。これは自社物流を手掛けるクルーズならではの発想だった。

店舗の販売員のためEC販売の
仕組みを最適化
大型ECモールのノウハウを
フル活用

WWD:大型のショッピングモールのみを対象としてるのか。

遠藤:実はターゲットは非常に幅広い。道の駅のように、数店舗程度の事業複合体でも利用可能だ。地下街や商店街、ローカルのチェーン店を運営している企業などにも利用してもらいたいと考えている。商店街のような形になっていなくても、1キロ圏内に散らばっている商店をまとめてECモール形式を取ることも可能だ。

WWD:二つ目の特徴である、店頭在庫型のECシステムについて教えてほしい。

遠藤:一般的な日本の小売事業者では、店頭とオンラインで在庫が分かれているところが多い。そのため、企業全体では在庫があるのに、問い合わせや購入が偏在した販売チャネルでは在庫がなくなり、販売機会をロスすることが起こりやすい。この問題は、オンライン在庫を店頭と一体化すれば解消できると思われがちだが、全社的な在庫の一体化にも課題が多く、成功事例は限定的だ。いまだにEC事業部と店舗事業部で在庫の取り合うような企業もある。リアル店舗を活用したECサイトの場合には、さらに店頭スタッフのオペレーション変更も加わる。在庫を一体化すると、ECシステムへの商品情報以降の在庫登録、梱包出荷、返品・返金対応などの煩雑な業務が店頭スタッフに加わる。EC経由で販売した場合の、店頭スタッフへの評価も難しい部分だ。「SCEC」では、そういった点を考慮した設計になっている。店頭スタッフへの負荷を低減するため、店頭に立っていても使いやすいようにスマホに特化したUI、UXにしている。また、店頭スタッフが行う操作は商品登録と受注確定に絞っている。

工藤:重要なポイントは、ECの受発注システムを、店頭スタッフが扱いやすいように最適化したこと。ECモール運営企業による自社EC支援は数多くあるものの、当社の特徴は、これまで培ったノウハウはもちろん、所有するアセットもフル活用してECシステムを構築する、という考え方にある。ECに関して経験豊富なエンジニアを抱えており、今回の「SCEC」では店頭スタッフを起点にECシステムを再構築した。人がシステムに合わせるのではなく、システムをオペレーションに合わせて最適化している。その点は、導入先のmozoワンダーシティにも高く評価されている。

ECだから店頭在庫を24時間365日稼働、
販売員の作業もスマホ操作でラクラク

WWD:四つ目の「新たな生活様式への対応」とは。

遠藤:通常の自宅配送はもちろん、店舗での受け取り、コロナ禍でニーズの増えているSC館内の受け取りカウンターや受け取りロッカーのユーザー選択もシステム/業務設計ともに対応している。

WWD:最後の「店頭在庫の24時間365日稼働」とは。

遠藤:ECでは当たり前のことではあるが、24時間365日、SC各テナントの店頭在庫をフル活用できるのは大きい。コロナ禍では、店頭在庫の完全な非稼働在庫化などの事態も発生した。全館休館となるケースや、定常的に閉店時間を早める店舗が多くなっているので、店頭スタッフが販売業務の合間や、閉店後〜以前の営業時間までEC関連業務をすることで、店舗の生産性を上げることにもつながる。

WWD:開発期間と導入コストは?

工藤:国内SCの大部分は、長い歴史と大きな実績があり、館としてのアイデンティティーがしっかりと形成されている。そのためデザイン/サービスの独自要件が多くなる。そのため金額に関して一概には言えないが、それでも開発期間について平均的には半年程度と、スピード感を持った導入が可能だ。独自要件が少ないケースであれば、最短で3カ月の導入も可能だ。

遠藤:外部システムとの連携もスムーズにできる。例えば、オフラインのモールで既に使っている従業員管理システムや決済システム、会員システムなどと容易に連携できる。既存のポイントシステムと連携してオンラインでも使えるようにする、といったことも可能だ。

中京地区最強の大型モール
「mozoワンダーシティ」がSCECを
導入したワケ

 大型モールとしては初の店頭連動型ECを導入したのが、mozoワンダーシティを運用する三菱商事UBSリアルティだ。同社は日本最大級の総合型REIT(不動産投資信託)である日本都市ファンド投資法人の資産運用会社であり、都市を中心に約100カ所の商業施設を手掛ける、日本では異色のデベロッパーだ。日本初の本格的なリアル店舗連動型のネット通販モールはどのようにして生まれたのか。導入をリードした大島英樹・三菱商事UBSリアルティ都市事業本部 運用一部長は、「ショッピングモールにとって、ECをどう活用すべきなのかはこの数年の大きな課題だった。『SCEC』をベースにした『モゾプラス』は、店頭の在庫を活用しつつ、販売スタッフの負担をできるだけ軽減する設計にできたことが何よりも大きかった」と語る。「一口にショッピングモールといっても規模や立地などによって必要となる要件もさまざまだが、『SCEC』には、そうしたことにもスピーディーかつ柔軟に対応してもらえた。導入後のニーズや課題に柔軟に対応しながら、今後はmozoワンダーシティにとどまらず、当社で運用する他の商業施設にも適用を検討していきたい」。

問い合わせ先
ハブアンドスポーク
クルーズECパートナーズ
pr_group01@hubs-poke.jp