ファッション

リンゴやコーンの廃棄物がシューズに パリ発の注目ビーガンブランド「ヴィロン」

 パイナップルやブドウ、リンゴなど、食糧廃棄物から作られた素材が今注目を集めている。大手フットウエアブランドが、環境へ配慮したサステナブルなシューズの開発に精を出す中、小規模なブランドも独自の方法で健闘している。パリ発のビーガンフットウエアブランド「ヴィロン(VIRON)」もそのひとつだ。同ブランドは、ベルギー出身のマット・ロンバート(Mats Rombaut)と、ドイツ出身で日本人とドイツ人の両親をもつユリアン・ローマー(Julian Romer)が2020年9月に立ち上げた。コーンやリンゴの残留物を原料とした植物由来の素材とリサイクルコットンで製品開発を行っており、価格帯は2万台前半~3万円台前半。立ち上げからわずか数カ月で「ドーバー ストリート マーケット ギンザ (DOVER STREET MARKET GINZA)」や、伊セレクトショップ「アントニオーリ(ANTONIOLI)」、カナダ発のECサイト「エッセンス(SSENSE)」、イギリスのセルフリッジ百貨店(SELFRIDGES)などで販売を開始した。ローマーにブランド設立の背景や素材へのこだわりを聞いた。

「動物の命を犠牲にせずに生産できる方法はたくさんある」

WWD:共同創設者である2人の経歴は?

ユリアン・ローマー(以下、ローマー):共同設立者のマットは、「ランバン(LANVIN)」や「ダミール ドマ(DAMIR DOMA)」でメンズウエアのアクセサリーデザイナーとして経験を積んだ後、13年にパリでビーガン素材を主原料としたフットウエアブランド「ロンバート(ROMBAUT)」を立ち上げた先駆者的存在だ。

私は、「アクネ ストゥディオズ(ACNE STUDIOS)」「コム デ ギャルソン(COMME DES GARCONS)」「ヴェトモン(VETEMENTS)」などで14年間セールスとして経験を重ねた。フットウエアブランド「ボース(BOTH)」に勤めていた3年前に、同ブランドのコンサルティングを担当していたマットと出会った。お互いのサステナビリティに対するビジョンに共鳴し、「ヴィロン」のプロジェクトを始動した。マットがデザインや企画などクリエイティブな側面を担い、僕がビジネスを主導していいバランスが取れている。

WWD:ビーガンのブランドにこだわった理由は?

ローマー:ファッションのために動物を殺す必要性がないからだ。環境に配慮した持続可能性を理念に持つことはもはや義務だと考えている。発展途上国では、技術や流通面の問題で既存の方法を踏襲せざるを得ず、シベリアに暮らす人々は防寒性の高い本革や毛皮が生きる上で必要だろう。だがフランスを含む先進国では、動物の命を犠牲にせずに生産できる方法はたくさんある。畜産業から排出される温室効果ガスによる地球温暖化への影響を考えても、ビーガン素材以外は考えられなかった。

WWD:デザインで特に重視している点は?

ローマー:素材選びに最もこだわっている。レザー素材はコーンやリンゴの残留物を原料にし、キャンバス地は70%のリサイクルコットンと30%のビスコースで構成している。ほかにも、フランスの軍事用品の廃棄物をアッパー部分に使用してアップサイクルも取り入れていたり、ソールには70%のリサイクルゴムと30%の新素材のゴムを使ったりしている。素材はイタリア北部の工場で開発し、ビーガンフットウエアを専門とするポルトガルの工場で生産している。靴箱も100%リサイクルダンボールを使用し、梱包は最小限に抑えている。

WWD:数あるビーガンレザーの中から、なぜアップルとコーンを選んだのか?

ローマー:環境負荷の観点や価格帯、機能性を考慮して選んだ。「ヴィロン」は富裕層だけでなく、幅広い層をターゲットにしているので、リーズナブルな価格を実現するためにアップルレザーとコーンレザーが最良の選択だった。通気性や吸放湿性に優れた本革とは異なり、人工皮革やビーガンレザーは、レインブーツのように靴の中に湿気がこもりがちなのが弱点だ。だがアップルレザーの場合は、パウダー状の粒子が有機組織を生成するため、本革同様に通気性を保つことができる。

WWD:レザーへの加工処理はどのように行っている?

ローマー:素材となるリンゴは、イタリア北部で収穫され、リンゴジュースを製造する過程で出た皮や芯などの残留物がレザーとなる。それらを乾燥して粉末化し、ポリウレタンと混合することで、本革のように滑らかな質感のアップルレザーが完成する。ただ石油由来の素材が約20~30%程度含まれるため、この部分を植物由来の素材へと変えることが課題だ。

従来のスニーカーより環境負荷を30~40%軽減

WWD:素材開発にも関わっている?

ローマー:素材開発は、イタリアの工場と協力しながら進めている。私たちのような小規模なブランドは大手ブランドより柔軟性が高く、テスト用の型数を少なくして何度も修正を加えられる。これは工場側にとっても、少ないコストと稼働でより良い素材を開発できるメリットがある。

WWD:ビーガンフットウエアは、アッパーとソールの接合部分の接着剤選びに苦戦するブランドが多い。強度をどのように維持しているのか?

ローマー:高強度の接着剤ほど環境に悪影響を及ぼすので、接着剤をなるべく使わない方法を模索した。現時点では、アッパーとソールの接合部分をダブルステッチにしてシューズの強度を確保し、最小限の接着剤を使用している。接着剤を一切使わないシューズづくりは、フットウエア業界全体の挑戦だ。理想は、単一素材で1足丸ごと生産することだが、まだ開発と実験が必要な段階にある。

WWD:従来のスニーカーと比較して、「ヴィロン」のスニーカーの環境負荷軽減率は?

ローマー:30~40%軽減できている。環境への負荷が大きい素材や、工場で消費する電気や水、輸送時に排出される二酸化炭素量など、全工程でローインパクトに取り組んでいる。回収プログラムも実施しており、使い終えた「ヴィロン」の商品を送ると、顧客は次回購入の際に20ユーロのディスカウントが付与される。回収したシューズは、循環型生産システムによって工場で100%リサイクルされ、ソールに生まれ変わる。環境への負荷が最も大きいソールのリサイクル技術は、さらなる向上を目指しているところだ。

WWD:全商品PETA認証を取得しているが、認証の重要性をどのように考える?

ローマー:PETA認証は、世界最大の動物愛護団体による認定マークなので信頼している。だが、百貨店に行けば百貨店独自の認定マークを見かけることがあるように、マーケティングの手法として使われることもある。だからこそ、私たち消費者も注意を払い、サステナビリティへの知識を深めなくてはならない。政府公式の認証を発行するなど、時間をかけて大規模に取り組むべき課題だ。

WWD:サステナビリティへの消費者の関心や社会の動きをどう捉えている?

ローマー:フランスではビーガンやオーガニックのブランドが増えていて、消費者の意識もここ数年で大きく変化した。植物由来の素材開発も日々進歩している。価格が下がることで入手しやすい素材になり、多くのブランドが取り入れやすくなるだろう。日本は欧米に比べて環境への意識は遅れているかもしれないが、金継ぎ文化に見られるような、芸術品を修復して長く愛する精神を持っている。過剰消費は世界全体の社会問題だが、環境問題に敏感なZ世代を筆頭に、より一層サステナブルな方向へと進んでいくことを期待している。

WWD:今後の予定は?

ローマー:先日、ファーム・トゥ・テーブル(FTT)のレストランとコラボレーションして、彼らの畑から採れるビートルートを使って靴を染色した。パリのマレ地区にあるビーガンショップ「オウジョウデュイ ドゥマン(AUJOURD'HUI DEMAIN)」でポップアップストアを開催し、オーガニック野菜やビーガン製品と一緒に私たちのシューズを販売した。日本でも、21-22年秋冬シーズンからエストネーション(ESTNATION)や阪急百貨店、セレクトショップのヌビアン(NUBIAN)で取り扱いを予定している。

ELIE INOUE:パリ在住ジャーナリスト。大学卒業後、ニューヨークに渡りファッションジャーナリスト、コーディネーターとして経験を積む。2016年からパリに拠点を移し、各都市のコレクション取材やデザイナーのインタビュー、ファッションやライフスタイルの取材、執筆を手掛ける

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