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コロナから1年 中国ファッション業界に起きた「7つの変化」 上海在住コンサルが報告

 パンデミックから1年。新型コロナウイルスの感染が最初に広がった中国では、消費が急回復を見せている。この間、中国の小売市場はどんな変化を遂げたのか。上海在住のVMD(ビジュアル・マーチャンダイジング)コンサルタントの内田文雄氏が報告する。

 2020年は中国ファッション市場において忘れ去りたいことも多い1年でしたが、同時に未来に向けた新たな事業戦略を考え実行した重要な1年でもあったと思います。変化のポイントを以下の7つに整理してみました。

1.ライブコマースの加速

 何といってもライブコマース抜きでは2020年の中国のファッション企業の存続は厳しかったと実感しています。20年1月、武漢を中心に中国全土に広がった新型コロナウィルスは、全国のほとんどの実店舗、商業施設を一時閉店に追い込みました。大量の冬物や春物在庫を消化させる必要があるアパレルブランドや小売業は、本部および営業を継続するわずかな実店舗の両面で打開策を考えました。その柱がライブコマースでした。

 本部ではウェブやSNSを通じてKOL(キー・オピニンリーダー、いわゆるインフルエンサー)が商品特徴を説明し、その場で視聴者の反応を見ながら価格を決めて、販売していくという手法が採用されました。アパレルブランドの社長も出演し、KOLとおもしろおかしく掛け合い、商品の魅力を伝えていきます。

 一方、実店舗でも店舗スタッフ総動員で店舗在庫の割引販売に励んでいました。店舗スタッフは実店舗から遠ざかっていた顧客に対し、ティックトックなどを駆使してコミュニケーションをとるのです。アウター+インナー、アウター+ボトムスなど極力セット販売を強化して販売していました。

 本部、実店舗ともにお買い上げいただいたお客さんには全国無料配送を行い、来店できない方々へのサービスを強化していました。

 ライブコマースは、コロナが激しかった昨年2月から4月頃は、多くのアパレルブランドが本部、実店舗ともに午前1回・午後1回の1日2回を週に3日ほど実施していました。1年後の今でもライブコマースは継続されています。ブランドにもよりますが、本部、実店舗で週1回程度実施して新商品をアピールし、同時にシーズン過渡期のセール商品を販売しています。

 コロナ前は各店舗の売上予算にはライブコマース予算という項目は存在しなかったのですが、昨年秋頃からしっかりと組み込まれています。この1年の経験を踏まえ、不測の事態が起こってもライブコマースに置き換えられるようにあらかじめ備えるようになったのです。

2.オンライン販売の強化、実店舗の新規出店の減速

 これは日本も含め世界中で取り組まれている施策ですが、中国においてもオンライン販売(EC)の強化が顕著でした。

 コロナ前のオンライン販売は実際のところ、旧在庫商品を処理したり、価格が比較的安いオンライン専用商品の販売をしたりすることが主目的でした。しかしコロナを機に、旧在庫商品も販売しつつ、実店舗と同じタイミングで新商品(当期商品)を販売するブランドが増えています。

 私見ですが、「ユニクロ」の手法をまねるブランドが増えていると感じています。つまりオムニチャネル化を推し進め、顧客接点を強化する動きです。オンラインで買って実店舗で受け取るクイック&コレクト(C&C)は「ユニクロ」の得意技ですが、ここまで細かなことはまだできていません。まずはオンラインと実店舗で同じ商品を同価格で販売する、といった当たり前のことからスタートさせています。

 私のクライアントの婦人服ブランドは、中国全土に約600店舗(直営200、加盟店400)を展開していますが、20-21年秋冬商戦を終えてオンラインの売上比率(ライブコマース含む)が全体の40%まで達しています。

 一方で実店舗の新規出店は厳選されるようになりました。コロナのような事態が再び起これば、実店舗は容赦なく営業停止になることが分かったからです。加盟店(代理商)と組んでいるアパレルブランドは、在庫リスクを考えて新規出店は控え気味にするようになりました。直営店政策のアパレルブランドは収益性を重視したスクラップ&ビルドに切り替えています。

3.リモート展示会の定着とTOCの拡大

 アパレルブランドの展示会も様変わりしました。昨年は3月展(秋物商品)、5月展(冬物商品)の展示会が中止になったり、開催されても規模縮小を余儀なくされたりしました。省を越えた移動の禁止や、感染者が多い都市間での移動の禁止という厳しい措置が政府によって取られたからです。

 中国の多くのアパレルブランドは全国津々浦々に存在する加盟店で成り立っています。年間4〜6回の展示会を開き、そこで加盟店から注文をとる。展示会がなくなるのは死活問題でした。 

 では、どう対応したか。まず3月、5月の展示会は多くのアパレルブランドが開催を見送りました。その代わりにアパレルブランドの本部と各省の加盟店をリモートでつなぎ、商品を発注する方式を取りました。本部でモデルさんが強化商品を着て、そのコーディネートのバリエーションを披露するのです。有力な加盟店には強化商品のサンプルを事前に届けて、現物を見てもらう方法も採用しました。

 加盟店の発注によって強化商品以外での人気商品が見えてきたら、次は直営店の発注を行います。こうした方法で売りづらい商品を生産しないというリスク回避を行っているのです。ただリモートでは発注者が商品を直接触れないので、モノの良さが伝わりづらいという課題も多く残りました。

 まだコロナが収束していない時期だったため、加盟店が20年春物の在庫を秋に再販売するなどの理由で発注しないケースもありました。20-21年秋冬の発注金額や枚数は、前シーズンと比較して5〜6割にも満たなかったアパレルが多かったようです。

 今後、展示会そのものの開催も小規模になったり、リモートの発注に切り替わったりすることが予想されます。

 9月展(21年春)頃からTOC(Theory of constraints)と呼ばれる期中企画商品政策が台頭してきました。半年前の展示会による一斉発注では精度が低く、売れない確率も高いため、期中に小まめに発注をしてQR(クイックレスポンス)で商品投入をするやり方です。

 TOCは優先的に直営店や一部の有力加盟店に対して行います。発注方式はリモート。店舗は本部から届いたサンプル、あるいは動画や写真を吟味します。加盟店(商品買い取り方式)からすると、これまでのように半年前の展示会で大規模な発注をする必要がありません。TOCなら少量の発注が可能で、かつ売れる確率が高い。値引き率を抑え、高い消化率も期待できることから歓迎する声が多いようです。

4.IPコラボの台頭

 IP(知的財産)コラボ商品もこの1年で目立つようになりました。もちろん背景にはハイブランドを中心にした世界的なIPコラボブームもあるでしょう。中国のアパレルブランドは差別化の切り札としてアニメキャラクターや異業種とのコラボを積極的に仕掛けるようになりました。

 コラボといっても奇をてらったことではなく、自社のブランドの代表的なアイテムにキャラクターをプリント、刺繍するといったオーソドックスなやり方です。ディズニーのほか、日本の漫画やアニメキャラクターが人気を集めています。例えばハローキティは同じ時期に複数のウィメンズブランドがコラボ商品を展開しています。通常商品と比べ若干価格は高いのですが、販売数量限定でお客さんの気持ちをくすぐり、よく売れています。

5.ファストファッション人気の陰りと撤退

 中国でもファストファッションが失速しています。中国には2000年代から「ザラ」「H&M」「C&A」「フォーエバー21」「ニュールック」といった欧米のファストファッションブランドが進出を果たしました。コロナ前から陰りが出ていましたが、コロナが駄目押しになったといえるでしょう。

 今年1月、「ザラ」を運営するインディテックス(INDITEX)が、中国市場で傘下の「PULL & BEAR」「ベルシュカ」「ストラディバリウス」の実店舗を全て閉めると発表しました(オンライン販売は継続)。中国アパレル業界には衝撃が走りました。もはや低価格のトレンドデザインだけでは中国市場で勝てません。品質が伴わないブランドは淘汰されるという事象だと思います。

 「中国のザラ」を目指すと宣言していた中国のアパレルメーカー、La Chapelle(拉夏贝尔)が、昨年8月に破産宣告を受けて全国5000店舗以上もの閉店を余儀なくされました。ウィメンズを中心にメンズ、キッズなど合わせて十数のブランドを擁していた大手企業です。社内競合もあって差別化ができていなかったことと、実店舗を重視し過ぎオンライン販売の施策に乗り遅れたことも倒産の要因といわれています。La Chapelle同様に実店舗の出店拡大に依存していた中小アパレルメーカーも、倒産や縮小の憂き目に遭っています。オンライン販売の戦略の有無で明暗が分かれたかたちになりました。

6.アクティブウエアブランドが勢いを増す

 コロナ前からアスレジャーが盛り上がりを見せてきた中国では、健康やスポーツへの意識がますます高まっています。「ルルレモン」「ナイキ」「アディダス」など欧米のブランドのアクティブウエアを求める女性が急増しました。コロナ禍で在宅勤務が増え、1日のほとんどを家で過ごすことが多くなったため、自宅で運動する習慣が定着しました。

 日常生活が戻り出した昨年秋、「ルルレモン」は上海の新天地に旗艦店を出店しました。ここがチャンスとばかりにブランディング確立のため、屋外でのヨガレッスンを開催したりしていました。上海でもニューヨークばりに街着として「ルルレモン」で闊歩する女性を見かけるようになりました。

 「ルルレモン」は高価格(中国ドメスティックアクティブウェアの4〜5倍)にもかかわらず、割引を一切せずプロパー販売を強気で通してきました。競合の「ナイキ」「アディダス」でさえ大幅割引で在庫消化を図っていたのに、「ルルレモン」はブランディングを徹底しています。トレーニングウエアとしては高価ですが、街着としても活用できるのなら経済力のある女性にとって高くないのでしょう。

 アクティブウエア人気に中国のアパレルも黙っていません。いくつかのカジュアルブランドが新カテゴリーとしてヨガウエアを展開したり、中国の大手スポーツブランドがアクティブウエアの強化に乗り出したり、さらに新興の専門アパレルが次々に登場したりしています。コロナがもたらしたファッション市場の最大の変化を挙げるなら、この領域商品への関心の高さと、将来の可能性だと思います。

7.オフプライスストアが受け皿として拡大

 中国のオフプライスストアは大都市に近いエリアに5000〜1万平方メートル規模の店舗を構えて、キャリー在庫商品と一部シーズンを過ぎた商品を決められた期間、激安価格で委託販売します。

 先行きの見えないコロナ禍では、生活必需品が第一に求められました。ファッションの需要は非常に低くかった。誤解を恐れずにいえば「服は着られれば、靴は履ければいい。安ければさらに良い」という状況でした。つまりファッション性や付加価値を売りにした服や靴が売なかなか売れにくい。そんな中、在庫商品を信用がおける先で換金したいアパレル側と、買い取りでなくリスクのない委託方式で販売するオフプライスストア側との思惑が一致し、中国でオフプライスストアが台頭したのです。

 アパレルブランド側からすると在庫は1日でも早く、1つでも多く消化したい。でも、変なバッタ屋に任せると異常に安く、かつとんでもない売り場に回されてしまい、ブランドを毀損する恐れがある。信頼のおけるオフプラスストア なら売り場はブランドごとに明確に分けられ、ブランドロゴもキチンと出し、専任販売スタッフも付けて販売してくれる。コロナによる在庫過多を受けて、あっという間にオフプラスストアが業態として確立された感があります。

内田文雄(うちだ・ふみお):福岡県福岡市生まれ。ワールドで22年間のVMD経験、1993年に上海交通大学留学、上海駐在を経て、その後はアジア事業で海外を飛び回る。2005年ユニクロへ転じ、海外の大型店などのVMDを手がける。2011年、独立して上海に拠点を移す。中国のアパレル、小売企業に対しての実務指導、セミナー講演を行う

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「WWDJAPAN」4月12日号は、眼鏡特集です。旧態依然と言われる眼鏡業界ですが、コロナ禍で眼鏡や眼鏡店は時代に応じたさまざまな変化(フォームチェンジ)を見せています。アパレル業界でスタンダードになっているサステナブルなモノ作りに眼鏡も取り組みはじめ、年間のビジネスの大きな山場である4月は多くの展示会がオンライン商談に挑戦しました。テレワークやオンライン授業が一般化し、向き合う時間が増えたパソコ…

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