ウェン・ゾウCEO(左)と、フィリップ・リム「スリーワン フィリップ リム」クリエイティブ・ディレクター。彼はカリフォルニア州オレンジカウンティ生まれの中国系アメリカ人。カリフォルニア州立大学で財政学を専攻するもファッションに方向転換し、「カティヨン・アデリ」で1年半、デザインアシスタントとしてインターンを経験。その後、「デベロップメント」でヘッドデザイナーを務め、31歳の時、自身のコレクションをスタートするためニューヨークへ移る。2005‐06年秋冬にデビューし、現在に至る
フィリップ・リム「スリーワン フィリップ リム」クリエイティブ・ディレクターとウェン・ゾウ最高経営責任者(CEO)が2005年にブランドを立ち上げたとき、2人はともに31歳だった。それがブランド名の由来になった。鋭い感性を持つ“右脳派”リムとビジネス感覚に長けた“左脳派”ゾウCEOのコンビが、10周年を迎えたブランドの理念と未来について語った。
約10年前は、ちょうどトリー・バーチ(04年〜)、アレキサンダー・ワン(05年〜)、オルセン姉妹による「ザ ロウ(THE ROW)」(06年〜)等々、スタイリッシュで時代を読む目に長けた若手が、“エブリデー・ラグジュアリー”をコンセプトにブランドを立ち上げた時期だった。彼らは、カジュアルラインなどをブランドのポートフォリオに加えたり、投資会社と手を組んだりと、それぞれに違う方法でブランドを成長させた。
全世界に路面店14店舗、卸の拠点は450以上
一方、リムとゾウCEOはそれらのステップのほとんどを避け、奇をてらわないクリエイションで堅実に歩みを進めて、ビジネスを見事に成長させた。現在、全世界に路面店14店舗(10月には16店舗になる)を構え、卸の拠点は450以上を数える。ウィメンズビジネスでは、アパレルが60%を占め、アクセサリーは40%。成長株はフットウエアだ。10周年を機にeコマースもリローンチする。
現在、ブランドの中心価格帯は、300〜700ドル(約3万6000〜8万4000円)。コンテンポラリーというカテゴリーにおいてトップクラスの地位を占めている。売上高は明かさなかったものの、数年前に発表された数字では年間売上高は6000万ドル(約72億円)で、業界関係者は現在の売り上げはそれよりもはるかに多いはずだという。
“コンテンポラリー”は今でこそ確立されたカテゴリーとして認知されているが、10年前には存在すらしておらず、そこをリムはパイオニアとして切り開いてきたのだ。クールで独特のテイストを持ち、しかも手の届く価格の服。今や彼らのブランドは有名百貨店のコンテンポラリー・ゾーンの顔といえるようになった。だが、リムとゾウCEOは、その区分けを好んでいないようだ。
「単なる業界用語でしょう?」とゾウCEOは言う。「私たちはブランドであり、一つの美学よ。価格だけのお金を払う価値のあるものでもある。でも、それもちょっと違うかもしれない。フィリップと私、そして私たちの顧客にとって心地よい“ライフスタイル”といえるんじゃないかしら」。
クリエイティビティーとビジネスの関係性
リムとゾウCEOは、ビジネス的にまさに“私たち”だ。彼らはゾウCEOの資金で一緒にブランドをスタートした。彼女は、21歳の時に立ち上げたテキスタイル会社イージスの成功によって得た資金を、リムの美学を信じて提供したのだ。コンビのうちでは“夢想家役”を務めるリムだが、しっかりとビジネスの現実を直視しており、ブランドの“精神”を、「ビジネスという箱の中で行われる、クリエイティブな探究」と表現する。ゾウCEOが着ている、薄いアイボリーカラーのスタイルを指して彼は、「このブラウスを見てよ。どうしたらこういう風にフィットするか?どうしたら風に吹かれてこういうふうに揺れるか?あれこれすべてを考え、工夫したうえで、ちゃんとお手頃価格に収めているんだよ」。ビジネスを成長させて前進するために必要な管理業務にも大いに関心を持っている。「組織、経験、有能な人材の起用、不動産。ビジネスなしにはクリエイティビティーを発揮する場が得られない。しかし、そもそもクリエイティビティーなしにはビジネスが成り立たない。どちらが欠けてもダメで、実に微妙なバランスの上に成り立っているんだ」。
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客足の少ないロケーションへのショップ移転の意味
グレート・ジョーンズ通り店の様子
一方、ゾウCEOは実務的で、戦術を考えるのが得意だ。数字を把握しているのはもちろん、ビジネス全般を押さえている。だが、“クリエイティブに”思考することもできる。例えば、2人は07年に初のショップをニューヨークのマーサー通りに構えた。クールなコンテンポラリー・ブランドやラグジュアリー・ブランドが軒を連ねるソーホーの同店は、「素晴らしいロケーションで、オープンのタイミングも抜群。もちろん大きな利益を上げていた」とゾウCEO。だが彼女は、14年にその店舗をクローズし、グレート・ジョーンズ通りに店を移転した。新店舗はチャーミングだが、客足はマーサー通り店と比べものにならないくらい少ない。
「ソーホーは巨大なアウトドアモールみたいになってしまって、観光客が多くなっていたのよ」とゾウCEOは店舗移転の理由を述べる。「アクセサリーの売り上げは過去2年間で倍増したわ。でも、私たちが求める顧客はブランドを真に理解してくれて、ウエアを買いに来てくれる顧客だった」。
グレート・ジョーンズ通りの新店は325平方メートルで、まさに“美”そのものだ。コンセプトは「スタジオ・ラグジュアリー」。ユニークなミッドセンチュリの数々の家具に彩られている。「店に入ってきてこの雰囲気を楽しむ人は多いよ」とリム。同店では、商品を売るよりも、親しい人々が集える場所にしている。「普通、他ブランドの店に入ると、販売員はいきなり『あそこにセール品が並んでいますよ』とくるでしょう」とゾウCEO。「私は製品やショップの雰囲気を楽しみたいのに。そんな店では私の欲望は死んでしまうし、私たちのやりたいビジネスとは違うわ」。
ブランド売却や財政的パートナーを求める可能性は?
「スリーワン フィリップ リム」は独立したビジネスだ。ブランド売却や財政的パートナーを求めることは考えていないのだろうか?2人とも「考えたこともない」という。「私たちは、売却するために努力して会社経営しているわけではない。会社の成功を確実なものにするために、努力しているんだ」。最後にゾウCEOはビッグプランを明かしてくれた。「ブランドはフィリップと私を超えて成長していくわ。私たちは、一連の服を作るという単なるトレンドから、真に現代的なブランドになるの。そしてゆくゆくはメゾンになるのよ」。
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