「ジャックムス(JACQUEMUS)」はパリ・メンズ・ファッション・ウイーク終了直後の6月29日朝、2027年春夏コレクションを発表した。舞台となったのは、地中海に浮かぶフランス・コルシカ島北部のピエトラ灯台へと続く岬。強い日差しと潮風が吹き抜ける岩場に設けられた曲がりくねったランウエイに、真っ白な灯台からモデルたちがゆっくりと下ってくる。これまでも壮大な自然を背景にコレクションを発表してきたブランドならではのショーで、夏の物語を描いた。
コレクションのタイトルは「ル・ボヌール(Le Bonheur、幸福)」。服を揺らす風や朝の光、果実のみずみずしさ、印象派の絵画を思わせる海の景色など、夏の情景の中にあるささやかな「幸福」をデザインに落とし込んだ。「来春ビューティラインを立ち上げるにあたり、人々に『ジャックムス』をどう感じてほしいのか、ブランドの精神とは何かを改めて考えた」と明かす南仏出身のサイモン・ポート・ジャックムス(Simon Porte Jacquemus)は、09年に19歳で立ち上げたブランドの原点に回帰。かつてよりも洗練されたモノ作りを生かしつつ、「純度の高い『ジャックムス』 らしさ」を表現した。
その言葉通り、今回は近年積極的に取り組んできたクチュール的なアプローチは控えめ。グラフィカルなシルエットや豊かな色彩を取り入れながらも、「軽やかさ」をキーワードにシンプルな美しさを追求した。ウィメンズは、オーガンジーからボンディングクレープや紙のように薄いレザーまでを用いたリラックスフィットのタンクトップをはじめ、裾がスカートのように広がるイエローのパラッツォパンツ、水着のようなブラトップやショーツ、透け感のあるバルーンスカートやドレス、ヘッドスカーフとつながったローブコート、ボリュームのコントラストを効かせた爽やかなコットンポプリンのドレスなどをラインアップ。メンズはタンクトップやローブコートなどウィメンズと共通するアイテムに、オレンジの果皮のようなエンボスを施したワイドパンツを合わせたり、スイムブリーフやショーツに風をはらむロングシャツを羽織ったり。スーツスタイルも三重仕立てのオーガンジーやテクニカルタフタなどを使い、軽やかさに仕上げた。
ショー後半には、鱗をほうふつとさせる立体的な編みや刺しゅう、海藻のように揺れるオーガンジーのモチーフといった手仕事による装飾をあしらったデザインも登場した。しかし、「大げさにはしたくない」という思いを反映し、あくまでもシルエットはピュアでシンプル。海辺でのバカンスから日常、そしてオケージョンまで、陽光に映える夏の装いをそろえた。
今回、「ジャックムス」のショーを現地で取材するのは6年ぶりだったが、「ブランドを立ち上げた頃の美学を今のサヴォアフェールで作り直したかった」というサイモンの言葉通り、成熟と洗練を感じるものだった。振り返ると、彼は初期からスイミングプールやゲームセンターといった意外性のある場所でコレクションを発表。その後、プロヴァンスのラベンダー畑やカマルグの塩田、ヴェルサイユ宮殿の庭園など風光明媚なロケーションでのショーで知られるようになった。そんなサイモンの強みは、プロダクトそのものだけでなく詩的な世界観を構築し、人々をその物語へと引き込むところにある。その才能は、ロレアル(L’OREAL)と共に手掛けるフレグランスや化粧品でも、「ジャックムス」らしさを伝える上で大きな力になるだろう。