ウィメンズとメンズで年4回パリでランウエイショーを開催する「サカイ(SACAI)」。メンズでは例年、ウィメンズのプレもしくはリゾートコレクションを織り交ぜた構成で、女性モデルの登場数が男性モデルを上回ることも珍しくなかった。しかし今季は、全42ルックのほとんどを男性モデルが占める“メンズフォーカス”のショーを実施。グローバルブランドへと成長を遂げた「サカイ」が、次なるステージを見据えてメンズウエアの可能性を掘り下げたシーズンとなった。「『サカイ』のメンズウエアとは何かを、改めて考え直したかった」と、阿部千登勢デザイナーは続ける。「ブランドの根幹にある、見慣れたアイテムを見たことないものへと昇華するというコンセプトに立ち返り、既成概念を取り払ってデザインに向き合った」。
「ブルックス ブラザーズ」と
解体するアメリカントラッド
今季のテーマ「THE NEW CLASSICS」の出発点となったのは、クラシックなメンズウエアの再解釈だ。阿部デザイナーにとって「アメリカントラッドの象徴」だという「ブルックス ブラザーズ(BROOKS BROTHERS)」との協業を軸に、序盤はネイビーブレザーやボタンダウンシャツ、ストライプタイといったプレッピースタイルの定番を再構築したルックが続く。ブレザーはラペルを切り開いて裏地をのぞかせ、新たなレイヤーやスリット、シームを加えることで従来のトラッドスタイルの堅苦しさを軽やかに覆した。ゴールドボタン付きのモデルには首元やポケットにカーキ色のトレンチコートのディテールを組み合わせ、ブルーのボタンダウンシャツにはカラフルなタッセルや裁断したシルクで作ったロゼットを添え、異なる時代・スタイルを独自のハイブリッドの手法により本来の用途やルールから解放した。
プレッピーからワークウエアへ、
実用が更新するクラシック
ルックは1980年代後半に活躍した音楽集団ソウル II ソウル(Soul II Soul)のリズムに乗って、プレッピーからワークウエア、ミリタリーへとシームレスに変化していく。ファイヤーマンクラスプを配したシャツジャケットやイエローのニットカーディガン、誇張したポケットが特徴のスラックスとカーゴパンツをドッキングさせたボトムスを合わせ、クラシックなワードローブはより実用性を伴ったリアルクローズへと更新された。不朽の名品に新たな視点を与えるアプローチは、「ビルケンシュトック(BIRKENSTOCK)」との協業によるサンダルにも見て取れる。“ボストン(Boston)”のクロッグに“アリゾナ(Arizona)”のストラップを重ねるなど、ブランドを代表するモデルを融合したデザインを打ち出し、同素材のスエードを用いたユーティリティーバッグも披露した。
ソウル II ソウルと呼応する
ポジティブな「サカイ」の精神
ショー終盤は、ソウル II ソウルのアーカイブ写真をコラージュしたオリジナルファブリックや、代表曲Back to LifeとKeep On Movin'のタイトルをあしらったルックが次々と現れ、音楽とファッションが呼応するようにフィナーレを迎えた。ソウル II ソウルの創設者DJジャジー・B(Jazzie B)とロンドンで会ったという阿部デザイナーは、「彼が作る音楽に共鳴した」と語る。この日、自身が着用したTシャツの背面には、「A happy face, a thumpin' bass, for a lovin' race(笑顔と鳴り響くベース、愛に満ちた人々のために)」という、ソウル II ソウルを象徴するフレーズがプリントされていた。それは、既成概念を軽やかに飛び越えながら、ポジティブなエネルギーで人々を繋ぐという「サカイ」らしい精神でもある。メンズにフォーカスした今回の挑戦は、ブランドの原点を見つめ直すと同時に、その可能性をさらに押し広げる一歩となりそうだ。