ファッション

「ACミランは単なるクラブ以上の存在」 「スラム ジャム」が語るミラノとフットボールカルチャー

今年2月、イタリア・ミラノを本拠地とする名門フットボールクラブのACミランが、2018年からサプライヤーを務める「プーマ(PUMA)」、そして同国のストリートシーンを代表するセレクトショップ「スラム ジャム(SLAM JAM)」とタッグを組み、2025-26シーズンのトリプルコラボコレクションを発表した。

ACミランの愛称である“悪魔(Diavolo)”にちなみ、“地獄へようこそ(Benvenuti all’Inferno)”をコンセプトに掲げた本コレクションは、クラブカラーの赤と黒を基調に、1899年に創設された名門の歴史や伝統、精神性を尊重しながら、「スラム ジャム」ならではの視点で再解釈。スタジアムの熱狂やクラブとファンの強い結び付きを表現しつつ、ピッチでの機能性とストリートでの自己表現を両立するアイテムをそろえ、その中核を担ったのがフィールドプレーヤー用とゴールキーパー用の2種類のユニホームだ。これらはホーム、アウェイ、サードに続く特別仕様のフォースユニホームとして製作され、実際に選手たちが試合で着用したことで、ピッチとストリートをつなぐ本コレクションの思想を体現する存在となった。

ここ数年、フットボールとファッションの距離はかつてなく近付いているが、今回の協業はクラブとセレクトショップの単なるコラボレーションではない。ACミランを一つのクラブチームではなく、ミラノという都市の文化的象徴として捉える「スラム ジャム」だからこそ、ミラノならではのフットボールとファッションという2つのカルチャーの交差があり、歴史や街の記憶、そしてコミュニティーの熱量までもが宿っている。

そして先日、東京・原宿の「GR8」で開催されたローンチイベントに合わせて、「スラム ジャム」でチーフ・マーケティング・オフィサーを務めるカルロ・アルベルト・ティネリ(Carlo Alberto Tinelli)と、チーフ・コマーシャル・オフィサーのロザリオ・バリラ(Rosario Barila)が来日。チームを代表して、カルロにACミランとの協業の背景をはじめ、ミラノのフットボールカルチャー、フットボールユニホームの変化する役割、そしてスポーツとファッションの関係性について話を聞いた。

「ACミランとのコラボは、人生における目標のひとつ」

ーーまず、今回のACミランとの協業は、どのようなきっかけやアイデアからスタートしたのか教えていただけますか?

カルロ・アルベルト・ティネリ(以下、カルロ):「スラム ジャム」の創業者であるルカ・ベニーニ(Luca Benini)は、北イタリアの古都フェラーラ出身だからミラノで生まれ育ったわけではないんだが、幼い頃から熱狂的なミラニスタ(注:ACミランのサポーターの愛称)なんだ。だから、ACミランとパートナーシップを結ぶことは、ミラノにショップを構える「スラム ジャム」にとって大きな名誉と誇りであると同時に、ルカの人生における目標のひとつでもあったのさ。大袈裟に聞こえるかもしれないけど、ACミランはミラノという都市そのものを語るうえで単なるフットボールクラブ以上の存在で、フットボールの枠を超えた世界的なカルチャーの象徴だからね。

ーーACミランといえば長い歴史がありますが、協業するにあたり特に惹かれた価値観や精神性、エピソードはありますか?

カルロ:我々にとってACミランの全ての歴史に意味があるから、特定のことに関して言及するのは難しいよ。でも、強いて挙げるとすれば1899年の創設時だろうね。ACミランは、ハーバート・キルピン(Herbert Kilpin)とアルフレッド・エドワーズ(Alfred Edwards)という2人のミラノ在住イングランド人ら12人によって創設され、当時のハーバートの「選手たちの燃えるような情熱(赤)と、対戦相手が挑戦することを恐れる気持ち(黒)」という発言からクラブカラーに赤と黒が選ばれ、さらに相手に恐怖を与える象徴として“悪魔”が愛称になったんだ。このように、異なる文化的背景を持つ人々が集まり、新しいアイデンティティーを築き上げたという事実は、今なおACミランというクラブの根幹に息づく精神性で共感するよ。

ーーそれでは、今回の協業時に意識したことを教えてください。

カルロ:「スラム ジャム」は、常に協業する対象の“過去・現在・未来”を視ている。過去に敬意を払いながらも懐古主義にはならず、現在を見据え、自分たちなりの未来像を加えていく。このバランスこそが、「スラム ジャム」が手掛けるすべてのプロジェクトに通ずる価値観なんだ。今回の場合、我々が最初に思い描いたのは、ピッチ上でチームのパフォーマンスを支えながら、大胆で個性的な風格を放ち、勝利を目指す最高のプレーを引き出すためのユニホームだった。フットボールで最も重要なのは、ピッチ上でのパフォーマンスであり、それこそが我々のようなサポーターが最も大切にしていることだからね。

ーーメインアイテムでもあるユニホームは、今やスポーツウエア以上の意味を持ちますが、「スラム ジャム」はどう解釈していますか?

カルロ:今やフットボールユニホームは、かつてないほど文化的な定番アイテムになったと思うよ。我々が魅力を感じているのは、その多層性だね。ユニホームは競技のためのパフォーマンスウエアでありながら、自分が何者なのかを示すアイデンティティーの表現でもある。そして、もともとアイデンティティーとスタイルは密接に結び付いているように、スポーツウエアもワークウエアと同じく本来の用途を超えてライフスタイルへと広がっていくものなんだ。人々は機能性だけでなく、自分自身を表現するために服を着るだろ?それはフットボールユニホームにも言えること。さらに、ユニホームを着ているだけで同じ価値観やコミュニティーに属していることをひと目で伝えることができる、ライフスタイルの表象なんだ。試合や応援の場に限らず、ピッチの内外で“着る理由”が成立している変化は、とても素敵なことだと思うよ。

ーーあらためて、「スラム ジャム」にとってフットボールとは、どういった存在ですか?

カルロ:近年、フットボールはライフスタイルの文脈において流行として扱われる時期もあれば、そうでない時期もあった。だが、カルチャーの一部としては常に大きな影響力を放ち続けてきたし、「スラム ジャム」のDNAの一部だと思っているよ。フットボールは、世代や国境を超えて人々を結び付け、単なる身体を動かす一種のスポーツの枠を超えて、感情からスタイルまで多くの要素にインパクトを与えているね。

ーーここからは話の間口を少し広げ、ミラノにおけるカルチャーとしてのフットボールを教えてください。

カルロ:イタリアの文化的風景の中で、フットボールは非常に重要な役割を担っているんだ。その中でもミラノとその周辺地域には、世界有数のクラブが拠点を構え、サン・シーロ(注:ACミランとライバルクラブのインテル・ミラノが共同使用するスタジアムで、正式名称はスタディオ ジュゼッペ メアッツァ)のような“カルチョの聖地”もある。そして何より、ティフォ(注:巨大なコレオグラフィーや横断幕をはじめとしたイタリア独自の熱狂的な応援文化)があらゆる社会層に広く浸透していることが特徴だと思うね。

ーー他方で、世界各地のフットボールカルチャーに触れてきた立場から見て、日本のフットボールカルチャーにはどのような個性があると考えいますか?

カルロ:我々は、日本においてフットボールがどのように受け止められ、楽しまれているかに非常に興味を持っているんだ。特に、若い世代のチームやアカデミーとの架け橋を築くことには大きな可能性があると考えている。実は、そのような取り組みと一緒に「スラム ジャム」で何かできないかと思って検討を進めているところなんだ。

ーー現代におけるフットボールは、世界で最も影響力のあるカルチャーのひとつになったと思いますか?

カルロ:確かに、ちょうど「FIFAワールドカップ2026」も開催中だし、世界的にフットボールが注目されているよね。でも正直な話、我々はスポーツやカルチャーの領域において、他にも多くの刺激的な動きや力があると考えていて、そこにも常に注目している。フットボールは素晴らしいものだけど、それがすべてじゃない。そして、「スラム ジャム」を突き動かしてきた原動力は、これまでもこれからも何より音楽なんだ。

ーー最後に、ファッション業界はフットボールカルチャーを本当に理解していると思いますか?

カルロ:フットボールだけでなく、スポーツとファッションがさまざまな形で結びついていることは、それが深いレベルであれ、表面的なレベルであれ、我々にとってはポジティブなことだと思っているよ。なぜなら、それによって新しいエネルギーが生まれ、現状をどのように進化させていくべきかという健全な議論が生まれるからね。

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