PROFILE: 清春(きよはる)/ミュージシャン

2人組ロックバンドの黒夢は昨年、10年ぶりに活動を再開した。ボーカルの清春は、1990年代に「ヴィジュアル系」という文脈で語られながらも、早い段階からその枠組みを更新し続けてきた存在だ。長かった髪を切り、メイクを落とし、古着やストリート、モードを横断しながら、音楽とともに自身の表現を変化させてきた。現在は、ヘアメイクやスタイリングも含めて、ファッションと音楽を地続きの表現として捉えている。再始動後の黒夢の現在地を入り口に、ファッションと音楽の関係性、美意識の変遷、そして今後の表現について聞いた。
スタイリストとの出会いが変えたファッション観
WWD:現在のスタイルに影響を与えた存在や経験は?
清春:10代のころから音楽雑誌を見て、“かっこいい人が何を着ているのか”には興味がありました。ただ、当時はブランドや古着に詳しかったわけではなかったんです。
大きかったのは、黒夢のデビュー2年目くらいからタッグを組んでいるスタイリストの小川恭平さんの存在ですね。最初はフィッティングも嫌だったんですが、「もっといろんな服を着た方がいい。もったいないよ」と言われる中で、自分のファッション観が根こそぎ変わっていった。今では家族みたいな関係で、ファッションの師匠のような人です。
WWD:小川さんとの関係性の中で、特に印象に残っている出来事は?
清春:1996年に発表した4作目のアルバム「FAKE STAR〜I'M JUST A JAPANESE FAKE ROCKER〜」ですね。「ピストル」のミュージックビデオ撮影では、「タイトなモッズスーツに蛍光ラインの入ったエアマックスを合わせよう」と言われたんです。当時は正直、意味が分からなかった。スーツなら革靴だろうと思っていたので。でも今振り返ると、「あのスタイリングって黒夢が最初だったよね」と言われたりもするんです。自分が納得できないものでも、一度やってみる。その感覚は小川さんから学んだ部分が大きいですね。
WWD:現在は、自身でスタイリングを組むことが多いのか?
清春:テレビ出演など、メンバーでそろって出る時はスタイリストにお願いすることもありますが、ソロライブは基本的に全部自分で決めています。曲調に合わせることもなくはないですが、それより“今自分が何に引かれているか”の方が大きいです。
今は、また黒い服に引かれています。去年は「アン ドゥムルメステール(ANN DEMEULEMEESTER)」のショーを見るためにパリに行ったんですが、デザイナーやスタッフが自然に黒を着こなしていて、それがすごく良かった。最近は展示会にも行くようになって、また黒い服を着るようになっています。
“ミュージシャンが着る服”への憧れ
WWD:ファッションのインスピレーションはどこから得ることが多いのか?
清春:基本的にはずっと、“ミュージシャンがしている格好”に興味があります。だから海外のミュージシャンのインスタグラムもよく見ています。ザ・ローリング・ストーンズ(The Rolling Stones)やザ・スミス(The Smiths)、U2、最近だとジャレッド・レト(Jared Leto)も好きです。
WWD:長くファッションと向き合う中で、自身のスタイルに対する考え方に変化はある?
清春:同世代は意外と服に興味がない人も多いんですよ。一方で、昔ファンだった人が今ブランドをやっていたりもする。例えば「レディメイド(READYMADE)」の細川雄太さん。そういう人たちから、“清春さんってこういう存在なんですよ”と逆に自覚させられることもあります。
服は、単純に考えれば“裸では歩けないから着る”というところから始まると思っています。そこから、ライブであれば動きが映えるとか、安っぽく見えないとか、少しずつ感覚が加わっていく。でもかっこつけようとするとどんどん難しくなるので、なるべくシンプルにしたいという意識はあります。
「ヴィジュアル系」を広げてきた自負
WWD:キャリア初期は「ヴィジュアル系」という文脈で語られることも多かったが、音楽やファッション、ヘアメイクを含めて、その時代の自身の表現をどのように捉えている?
清春:同世代のバンドの中では、かなり早い段階で髪を切り、黒い服を脱ぎ、メイクもしなくなったんですよ。スニーカーを履いたり、古着を着たり、割とカジュアルでスポーティーな方向に転換しました。自分たちなりに、いろいろなカルチャーやスタイルを吸収してきた感覚があります。
WWD:当時のファッションやヘアメイクには、どのような価値観や美意識が反映されていたのか?
清春:最初に服装が変わり、音楽はその後から変わっていきました。当時は“なぜ黒い服を着ているのか”“なぜメイクをしているのか”に、答えられない自分がいたんです。理由はないけど、そのムードが好きだった。
ただ、その感覚を小川さんと共有できていたのは大きかったですね。当時から共通認識としてあったのは、“女性より男性に向けたアプローチ”です。女性人気の高いアーティストより、マニアックだけど男性に支持されている存在に憧れていました。「クロムハーツ(CHROME HEARTS)」から古着まで、本当にいろいろ着ましたね。「ラフ・シモンズ(RAF SIMONS)」や「カルペディエム(CARPE DIEM)」も好きでしたし、まだ日本に入っていないころの「ゴールデングース(GOLDEN GOOSE)」を海外まで買いに行って履いていたこともあります。
WWD:「ヴィジュアル系」という枠組みから離れていく意識はあったのか、それとも自然な流れだったのか?
清春:壊したいという感覚ではなく、広げていった感覚ですね。後の世代のヴィジュアル系バンドが、自分たちの表現やスタイルを取り入れているのも感じていました。
僕らの世代って、“誰に影響を受けたか”をちゃんと言うことが大事だったんです。ルーツへの敬意がないと、表現として説得力がなくなると考えられていた。音楽もファッションも、絶対に何かを継承していますよね。なのに、それをなかったことにしたり、“本当は違うものが好きでした”みたいに言ったりすると薄っぺらく感じるんです。
だから、自分が影響を受けたアーティストのことは何歳になっても言う。その延長線上で、自分たちなりに「ヴィジュアル系」という枠組みを広げていった自負はあります。
「似合うかどうか」が全て
WWD:自身の中で、音楽とファッションはどのようにつながっている?
清春:どっちが先という感覚はないですね。服って、自分に似合うかどうかが大事だと思うんです。音楽も同じで、“自分が歌って似合うかどうか”を大事にしています。
昔は、“やっている音楽と服装が合っていないな”と思うこともありました。でも今は、何をやっても“清春っぽい”と言われるようになりました。今は“こういうジャンルだからこういう服を着る”という感覚はもうないです。好きな音楽をやって、好きな服を着ているだけ。
WWD:年齢やキャリアを重ねる中で、ファッションに対する美意識や価値観はどのように変化しているのか?
清春:“年齢に合う服”というより、“その人が着て成立しているか”の方が大事だと思っています。僕が俳優なら、57歳という年齢をピンポイントで生きると思うんです。でもロックバンドって、高校生くらいの時に好きになるものじゃないですか。そうすると、ファンの年齢層も広い。だから、“実年齢よりどれくらい下まで自然に着られるか”みたいな感覚はあります。
デビュー当時はコンプレックスも多かった。それを上まわる人生がいいなと思っていたし、そこにファッションもありました。実は、ロックを選んだ時点で、“負けている側”という認識がどこかにあったんです。でも、その中で逆転していく姿がロックミュージシャンには似合うと思っていました。今は時間の流れも含めて、自分の表現の一部として受け入れています。
“コンビがもう一度やる”感覚
WWD:現在は、どのような音楽やムードに関心があるのか?
清春:今は黒夢やソロに加えて、ハーモニーズ(THE HARMONIES)という歌謡曲を中心としたバンド活動もやっています。最近の音楽は、なぜこんなに複雑にするんだろうと思うこともあります。最新のビートや海外っぽさを取り入れること自体は悪くない。でも昔の歌謡曲には、“歌そのものを届けたい”という気持ちや、歌い手の人生がにじんでいた。今はそういうムードに引かれています。
WWD:今回の黒夢再始動は、10年前とはどのような違いがあるのか?
清春:10年前に再始動した時は、ベースの人時さんと今ほど関係が良くなかったんです。当時は“とりあえずやるか”という感覚に近かった。でも今は、お互い大人になって、ちゃんと尊重し合えるようになった。人時さんが本当に黒夢を大事に思っていることも伝わってきて、僕自身もスタッフも、それに感化されています。
黒夢は2人組なので、感覚としては“バンドの再結成”というより、“コンビがもう一度やる”に近いんですよね。とんねるずがまた一緒にやる、みたいな感覚。
今回は距離感もすごく大事にしています。ライブも無理をし過ぎないスケジュールにしていますし、普段から頻繁に会うわけでもない。その分、会った時にちゃんとうれしいんです。
“黒夢らしさ”をどう進化させるか
WWD:再始動した黒夢に対するファンの反応は?
清春:10年前より集客も増えていますし、“メンバー同士が仲良くしてくれてうれしい”という反響も多いですね。コアなファンは、僕や人時さんのソロ活動まで含めて見てくれている。でも一方で、黒夢にしか興味がない人たちもいる。そのバランスはすごく難しいです。
10年前に新しいアルバムを2枚出した時、昔のファンで今はそこまで追ってくれていない人たちは、意外と聴いてくれなかったんですよ。感覚としては、“有名な曲をやらない海外アーティストのライブは物足りない”と思うのに近いのかもしれない。黒夢でいえば、ライブで「少年」や「Like @ Angel」をやらなかったら、“せっかく来たのに”と思う人もいるはずなんです。だからこそ、ファンが求めているものと、自分たちがやりたいこと、その両方のバランスは常に考えています。
WWD:初のセルフカバーアルバムを7月15日にリリースする
清春:97年発表の「Drug Treatment」と、98年発表の「CORKSCREW」を再録しました。最初の無期限活動休止に入る前の作品なので、やっぱり思い入れがあります。
年を重ねた今、同じ100m走をファンの人たちともう一度走っている感覚があります(笑)。もちろん新曲を作りたい気持ちもあります。でも、それはソロでもできる。今の黒夢として、まずこの2作を改めて鳴らすことに意味があると思っています。
40〜50代の迷える大人たちを救いたい
WWD:ソロ活動と黒夢、それぞれで表現したいことの違いやすみ分けはどのように考えている?
清春:日本では、50代くらいになると“必殺技”みたいなものを持っていた方がいいと思うんです。お笑いでいう定番ネタみたいなもので、新ネタだけをやり続けるわけにはいかない。黒夢の曲には、ファンの人たちも含め、それぞれの人生が詰まっています。昔は感傷的にならずに歌っていた曲も、今歌うと“当時はこんなことを思っていたんだな”と感じることがあります。
ファンにとって、“この曲があったから負けなかった”という曲って、一生心に残ると思うんです。特に黒夢は、恋愛ソングというより、“何かを抱えながら生きている人”に届けてきた感覚がある。僕自身は、人にメッセージを送ろうと思って曲を書いているわけではなくて、自分のことを書いているだけなんです。でも、それを受け取ってくれる人がいる。それが黒夢という存在なのかなと思います。
WWD:7月から、東京で4公演のライブを開催する
清春:タイトルは、「THE PERFECT DAYS TO DIE」。僕らも50代になって、ファンも40〜50代が中心になっています。いつ何が起きてもおかしくない年齢になってきたからこそ、“会場にいる瞬間だけは自由でいてほしい”という気持ちがあります。
僕の中では、“俗世間不適合者残党集会”という裏テーマもあるんですよ(笑)。当時黒夢の音楽を聴いて、立ち直った人もいれば、逆に道を外れていった人もいると思う。でも、今でもそういう人たちは、ある種の耐性を持ちながら生きている気がする。
若い世代に向けて何かをしよう、という感覚は実はそこまでないんです。むしろ40〜50代の迷っている人たちに、“やっぱり黒夢はかっこいいな”“俺らもまだやれるな”と思って帰ってもらいたい。僕ら自身も、いつ終わってもいいという覚悟でやっています。だからこそライブでは守りに入らず、その瞬間だけの自由を共有したいと思っています。
ライブ情報

■THE PERFECT DAYS TO DIE
日程:7月17日
時間:OPEN 17:30 / START 19:00
場所:トヨタアリーナ東京
住所:東京都江東区青海一丁目3番1号
日程:7月18日
時間:OPEN 16:30 / START 18:00
場所:トヨタアリーナ東京
住所:東京都江東区青海一丁目3番1号
日程:7月19日
時間:OPEN 14:30 / START 16:00
場所:トヨタアリーナ東京
住所:東京都江東区青海一丁目3番1号
日程:9月6日
時間:11:00~19:45(予約制)
場所:東京ガーデンシアター
住所:東京都江東区有明2-1-6