PROFILE: 坂本慎太郎/アーティスト
坂本慎太郎が3年半ぶりの新作アルバム「ヤッホー」を1月23日にリリースする。前作「物語のように」以降、アジア諸国やアメリカ・ツアーを敢行。リオン・マイケルズのユニット、エル・マイケルズ・アフェアのアルバム「24Hr Sports」に参加するなど、海外での活動が増える中で制作された本作は、ロック、R&B、ファンク、ムード歌謡など、さまざまな音楽性を独自に昇華。そこに「どこか変」な歪みを感じさせる坂本の音楽性が凝縮されている。海外ツアーの感想、坂本が音楽に求める質感、音楽に対する向き合い方など、新作を中心に話を聞いた。
「納得できる曲がある程度できたらレコーディングする」
——前作以降、海外のツアーが多かったですが、アルバムの制作をスタートしたのはいつ頃ですか?
坂本:2024年の年末、その年最後のライブをやった後に、バンド・メンバーにデモを渡して、レコーディングは25年の4月から始めました。デモは自宅で少しずつ録りためていたんです。最近、ライブが多くなってきて、なかなか曲を作る時間が取れないんですよね。
——アルバムとしてまとめ上げていくうえで、何か意識したことはありますか?
坂本:特にないです。「今回はこういうことをしてみよう」とか、とりたてて考えてはなくて、自分が納得できる曲がある程度できたらレコーディングする、といういつもの感じです。
——曲を仕上げていくうえで、新作の鍵になるような曲。あるいは、印象に残った曲はありました?
坂本:「あなたの場所はありますか?」という曲は、これまでなかった感じの曲ができたなって思いました。ジャックス(※1960年代後半に活動した日本のロックバンド)に「どこへ」という昔から好きな曲があって、そういう曲をいつかやれないかなと思っていたんです。それができたような気がして。
——「どこへ」のどんなところに惹かれていたのでしょうか。
坂本:ボーカルが早川義夫じゃなくて、歌い方とかハーモニーとか、初めて聴いた時から変な感じの曲だな、と思っていたんです。その変さの理由はいまだに解明できないんですけど。
——「どこへ」はメンバーの木田高介がボーカルをとって、ほとんどの楽器を木田さんが多重録音しているところが変な感じを生み出しているのかもしれません。坂本さんの曲にも、言葉では説明できない変な感じがありますね。
坂本:だったらうれしいですね。そういうのって狙ってできるものではないですから。
——坂本さんの曲はあからさまに変なのではなくて、曖昧なところで揺らいでいるような独特のバランスがあります。
坂本:そうですね。どこか不安定な感じというか。言葉で説明できないけれど、どういう感じのものが好きなのかは自分の頭の中ではっきりしているんですよ。だから「ここまでやるとやりすぎだな」ってジャッジできる。
——質感みたいなものでしょうか。
坂本:ああ、質感ですね。感覚的に「ちょうどいい」っていうバランスがあるんです。それは自分の感覚なので、それを面白いと思ってくれる人がいるといいなと思います。
海外でのライブ
——海外で坂本さんの作品を聴いている人たちも、坂本さんが意識している質感に惹かれているのでしょうね。
坂本:そこに反応してくれているんだったら本当にうれしいし、すごいことだなって思います。そういう微妙な感覚が世界共通のものっていうことだから。海外で自分の作品が人気があるって言われても、半信半疑なところがあるんですよ。「歌詞が分からないのに本当に良いと思ってるんだろうか?」って。
——近年は海外ツアーもされていますが、観客の反応はどんな感じですか?
坂本:ネットの影響だと思うんですけど、みんな曲をよく知ってるんですよ。そして、日本より観客の反応がダイレクトですごく盛り上がる。特にメキシコ・シティはすごかったですね。日本ではマナーを重視するというか、あまり騒いだりすると怒られるみたいなんですけど、アメリカやメキシコでは演奏中でも酒を飲みながら喋ったり、一緒に合唱したり。その方が自分はやりやすいんですけど。
——印象に残っている場所はありますか?
坂本:この前、初めて行ったポートランドはよかったですね。すごくきれいな街で、お客さんの雰囲気もよかったです。
——ポートランドは文化的な街で、アーティストも多いみたいですね。そういえば中国公演がキャンセルになってしまいました。
坂本:残念でしたね。前に一回行ったんですけど、「悲しみのない世界」の時に、お客さんが一斉に動画を撮り出したんです。そんなに盛り上がる曲じゃないのに、向こうでは人気があるのかな。
——中国のコンサートは撮影しても大丈夫なんですか?
坂本:向こうは無法地帯ですね(笑)。お客さんがすごく若いのも特徴で。アメリカだと年齢層は幅広くて年季が入ったお客さんもいるんですけど、中国は若者しかないない。上の世代の人たちは、若い頃に日本の音楽を聴くのが禁止されていたんじゃないでしょうか。世代の断絶があるような気がしました。
サウンド面で意識したこと
——観客から社会が見えて面白いですね。話を新作に戻しますが、坂本さんは60~70年代のロックやR&B、ファンクを取り入れながら、それを独自のサウンドに昇華しています。曲を作り上げていく時にサウンド面で何か意識していることはありますか?
坂本:気になるのは音色ですね。ドラムとかギターとか、機材の音色は古い音楽の方が好きなんです。レコードを買う時も、曲が良くてもドラムの音が好みじゃないと買わなかったりする。昔は81年より新しい音楽には興味がなかったんです。だから、自分の曲をわざとレトロなサウンドにしたこともあったんですけど、最近は昔の録音かと思ったら新譜だったりして、自分が好きな音が一般的になってきたような気がします。新譜で良いなと思えるものが増えてきました。
——最近のアーティストでは、〈ビッグ・クラウン〉(※ブルックリンのインディペンデントレーベル)のアーティストが好きだとか。
坂本:レコードを買っているうちに、同じレーベルのものが多いことに気づいたんです。それが〈ビッグ・クラウン〉でした。最初はボビー・オローザとかブレインストーリー、シャックスあたりを聴いてました。それで、YouTubeかなんかで流れてきたクレイロの新作「Charm」を、なんの予備知識もなく聴いたらすごく良くてレコードを買ったんです。そしたら、プロデューサーがリオン・マイケルズ(〈ビッグ・クラウン〉の主宰者でプロデュースも手がける)だということを知って「この人と音楽の趣味があってるな」って思いました。
——エル・マイケルズ・アフェアの「24Hr Sports」で坂本さんに声をかけたリオンも、「こいつとは趣味が合う」と思ったんでしょうね。坂本さんの曲はタイトなリズムセクションが生み出す心地よいグルーヴに、スティールギターやサックスのような空間を歪める音が乗る。そのバランスも独特ですね。
坂本:そういうグニャッとした音が好きなんです。エフェクターでいうとトレモロとかディレイとか。でも、新譜を買うようになってからは、そういう音を使った60年代の録音が古いと思うようになってきて。「ドラムはもうちょっと聞こえてきた方がいいのに」とか「もっとミックスが良かったら」って思うようになったんです。その辺は最近の曲の方がよくできてますからね。だから今は「昔の音楽みたいな音にしよう」って意識しなくなりました。自分が好きな音をそのままやってます。
——「脳を守ろう」のように、坂本さんの曲にはムード歌謡の要素もありますね。昭和のナイトクラブみたいな雰囲気がサイケデリックな味わいを生み出しています。
坂本:ムード歌謡は全然詳しくないんですけど好きですね。コーラスが面白いし、ファルセットのボーカルが黒人のコーラス・グループが歌うスウィートソウルみたいな感じがするんですよ。過剰に甘くて、男が女心を歌うという倒錯しているところも含めてカッコいい。
——ムード歌謡はスウィートソウルっぽさがありながら、演歌や歌謡曲の要素もあって日本独自の音楽ですね。
坂本:そうですね。ラテンも入ってるし。ちょっと前に海外でシティ・ポップがウケてたみたいですが、そのうちムード歌謡とかも聴かれるようになるかもしれないですね。
——そうなると面白いですね。海外で選曲したものを聴いてみたいです。
坂本:自分はそんなに掘り下げてはいないので、有名なグループしか知らないんですけど。でも、マヒナスターズは好きです。
「いつも曲が先で歌詞は後から考える」
——歌詞について伺いたいのですが、シングル曲「おじいさんへ」は、ロックとは思えない曲名でインパクトがあります。
坂本:いつも曲が先で歌詞は後から考えるんです。この曲の出だしのメロディーにはどんな言葉が合うのかな、と考えて、出てきたのが「おじいさん」だったんです。
——どんなことを歌いたいのか、ではなく、メロディーにあった言葉を考えて、そこから歌詞を考えていく。自分で自分にお題を出すようなものですね。
坂本:そうなんですよ(笑)。メロディーにあってイメージが膨らむ言葉を見つけたら、そこから歌詞を考えていく。「おじいさんへ」は老人をいたわる曲のようでもあり、老害に対する皮肉のようでもあり、老人になってきた自分に対する自虐のようでもあり。聴く人によって、いろんな風に受け取れる曲だと思います。
——「あなたの場所はありますか」や「正義」のように、生きづらい世の中に対するメッセージ、とまではいきませんが、坂本さんのつぶやきのような曲がちらほらありますね。
坂本:言いたいことがあって曲を作っているわけじゃないんですけど、曲を完成させるまでにいろいろと手を加える段階で、普段考えていることが滲み出てしまうんでしょうね。でも、あまりメソメソしたことは言いたくないんです。
——坂本さんの歌詞にはユーモアがあるので愚痴っぽくはならない。水木しげるの漫画のように、不気味さと風刺性、笑いが混ざり合っています。
坂本:確かに。基本的に人を楽しませたいと思って音楽をやっているので、曲を聴いて暗くなるようなことはなるべく言わないようには気をつけてますね。
——「ヤッホー」で歌われている「見知らぬ世界に自分と同じ感覚を持った人がいるかもしれない」という想いは、海外のツアーや海外のアーティストとの共演を通じて感じたことでもあるのでしょうか。
坂本:そういうことを歌おうと思って作った曲ではないですけど、そういう見方もありますね。これまで好きでレコードを買っていたアーティストが自分のレコードを聴いていた、ということも何度かあったし。
——リオン・マイケルズもその一人ですね。エル・マイケルズ・アフェアのアルバム「24 Hr Sports」に参加されましたが、これはどういう経緯だったのでしょうか。
坂本:結構、前に向こうからオファーがあったんですけど、その後、しばらく連絡がなくて話は立ち消えになったのかな、と思っていたんです。そしたら突然、デモテープが送られてきて、(リオンから)「この曲、どう思う?」って聞かれたんです。「好きな感じだ」って返事をしたら、「じゃあ、この曲を好きなように仕上げてくれ」って。そのあとに「どんな風にやろうと思ってる?」って連絡があって、「日本語の歌詞をつけて歌おうと思ってる」って返事したら「じゃあ、それで」って。丸投げでしたね。
——完成した曲に対するリオンのリアクションは?
坂本:「すごくいい!」って。いつも短い文章しかこないんです。コミュニケーションをほとんどとらずに作ったので、アルバムが出た後にインタビューを読んで、初めて彼が考えていたことがわかりました。
——「好きでやってるだけさ とくに意味なく」と歌われる「なぜわざわざ」は坂本さんの独り言のようでもあり、誰もが思い当たることかもしれません。曲で歌われていることは、実際に坂本さんが感じていることでもあるんでしょうか。
坂本:そうですね。この曲も最初の言葉が出てきて、「これってどういうことかな?」って考えているうちにできたんですけど、思っていないことは言ってませんね。
——歌詞に「その気になればどこへでも行けるのに なぜ自らとどまっているのか?」という一節がありますが、ミュージシャン以外の道を考えたりしたことはありますか?
坂本:自発的に何かに挑戦する、ということはあまりしたことがなくて。成り行きで思ってもみなかったころまで来ちゃった、というのに憧れるんです。実際、自分の人生は成り行きなんで。子供の頃からミュージシャンを目指してきたわけではないし、音楽以外の世界に行った可能性もあったんじゃないかと思います。今からは無理だと思いますけど。
「次もできるかどうかはやってみないと分からない」
——では、坂本さんからみて音楽が果たす役割はどんなものだと思いますか。
坂本:基本的に人を楽しませるものだと思います。自分も音楽を聴いて楽しい気持ちになったり、感動したりするし。でも、社会状況が変わると昔は楽しめたものが楽しめなくなることがある。そうなると、いま聴いて楽しめる音楽を探っていくしかないですね。
——ということは、時代の空気みたいなものもつかんでおかないといけませんね。
坂本:そうですね。自分が「今こんなこと歌いたくないな」とか「これはくだらなすぎるな」と思うと歌えなくなってしまう。やっぱり、自分が歌って楽しくないと意味がない。曲を作り続けていると「あれ? 前にもこんな曲をやった気がするな」ということが増えてくるんですよ。そうすると、だんだんハードルが上がっていくのでアルバムを一枚作るのも大変になっていく。
——自分との闘いですね。まさに「いくらやれどもやれども終わりはなく」(「なぜわざわざ」)というか。
坂本:今回はなんとかアルバムを作り上げることができましたけど、また次もできるかどうかはやってみないと分からないですね(笑)。でも、「自分が聴きたい曲を作る」というのは、ずっと原動力になっています。あとは音楽がつまらなくならないように、自分を騙し騙しやっていくしかないですね。
PHOTOS:YUSUKE YAMATANI(ende)
坂本慎太郎「ヤッホー」
◾️坂本慎太郎「ヤッホー」
2026年1月23日 デジタル/CD/LP/ リリース
1. おじいさんへ
2. あなたの場所はありますか?
3. 正義
4. 脳をまもろう
5. 時の向こうで
6. 時計が動きだした
7. 麻痺
8. なぜわざわざ
9. ゴーストタウン
10. ヤッホー
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