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経営権を取り戻した「アンブッシュ」のYOONが渋谷から再出発 「ホームカミング」なコレクションで凱旋

PROFILE: YOON「アンブッシュ」クリエイティブ・ディレクター

YOON「アンブッシュ」クリエイティブ・ディレクター
PROFILE: 2008年にVERBALと「アンブッシュ」を設立。ポップアートにインスパイアされたデザインで、東京の美意識を捉えた実験的なジュエリーラインを手がけている。15年にはパリでデビューを果たし、17年には「LVMHヤング ファッション デザイナー プライズ」のファイナリストに選出された。18年にはキム・ジョーンズがYOONを「ディオール」のメンズ・ジュエリー・ディレクターに選び、19年春夏コレクションで発表。16年9月に東京初の旗艦店をオープンし、19年には2号店も構えた。22年には上海にもショップをオープン。今年、イタリアのアパレル企業ニューガーズグループから20年に売却した経営権を取り戻している

YOONとVERBALが手掛ける「アンブッシュ(AMBUSH)」は今春、イタリアのアパレル企業ニューガーズグループ(NEW GUARDS GROUP以下、NGG)から、ブランドの完全な所有権を再取得した。同ブランドは2020年、当時「マルセロ・ブロン カウンティ・オブ・ミラン(MARCELO BURLON COUNTY OF MILAN)」や「パーム エンジェルス(PALM ANGELS)」「ヘロン・プレストン(HERON PRESTON)」などのブランドを擁するほか、「オフ-ホワイト c/o ヴァージル アブロー(OFF-WHITE c/o VIRGIL ABLOH)」のライセンス生産を手掛けていたNGGに過半数株式を売却して海外進出などを加速。ところがNGGの親会社である高級ECのファーフェッチ(FARFETCH)が経営難に陥いると、NGGも24年11月には日本の民事再生法にあたるイタリア倒産法(Composizione Negoziata della Crisi、CNC)の適用を申請。これを機に「アンブッシュ」は経営権を取り戻している。

YOON & VERBALの「アンブッシュ」も経営権を再取得 瓦解するニューガーズグループから

当時YOON 共同創設者兼クリエイティブ・ディレクターは「完全なオーナーシップを取り戻したことで、価値観やビジョンを最大限に表現できる。この新たな章と目の前に広がる可能性に今、大きなエネルギーを感じている」とコメント。踏まえ25-26年秋冬コレクションは「ホームカミング」と題して、ブランドのインスピレーションの源やサブカルチャーの聖地である渋谷への凱旋を表現。「アグ(UGG)」とのコラボレーションは渋谷の街へ贈る「ラブレター」と位置づけ、ヒールブーツを含む全5アイテムを発売した。経営権を取り戻したYOONはなぜ、渋谷という街を再出発の舞台に選んだのか?25-26年秋冬コレクションに込めた思いを聞いた。

まさに故郷に帰省するのに
ふさわしいタイミング

WWD:25-26年秋冬コレクションの舞台に渋谷を選んだのは?
YOON「アンブッシュ」クリエイティブ・ディレクター(以下、YOON):社内でも多くの変化が起こっていたが、きっかけは1年半ほど前、(アメリカの出版社の)リッゾーリ(RIZZOLI)と本の制作を始めたこと(書籍は、今春発売した)。さまざまな人たちと築き上げてきた10年間を振り返りつつも、すべてを東京に戻し、まさに故郷に帰省するかのようなストーリーを語るのにふさわしいタイミングだと思った。渋谷は私たちの原点で、10周年や再出発を祝う場所。私にとって渋谷は、住まいもオフィスもある街で、ブランドのオリジン。そしてここ最近はまるで外を旅しつつ、自分たちの居場所を探しているような感覚だった。故郷を忘れていたわけじゃない。でも若い頃は世界を探検して、行きたい場所を見つけたいと願うんだと思う。結果、今は故郷に戻るのにちょうどいいタイミングだった。

WWD:渋谷の何に魅力を感じる?なぜ渋谷が好き?
YOON:渋谷に住んで、もう20年以上。街全体の変化、おそらく2、3世代の変化を見てきた。最初のパルコがあった頃から、この街をずっと見ている。歩いてどこにも行けて、いつでも街のエネルギーを感じられる。だから渋谷に住んで、渋谷でブランドを始めた。引っ越したいと思ったことなんて一度もない。どこが好きかではなく、常にいろんなものが行き来しているエネルギーが好き。住んでいる人はそんなに多くないかもしれないけれど、渋谷にいれば人々のエネルギーや新しい情報が次々と入ってくる。そしてさまざまなシーンの中で、たくさんの文化交流が生まれている。

渋谷のエネルギーに焦点を当て、
普遍的・国際的なコレクションを目指した

WWD:今シーズンは、そのエネルギーをコレクションだけでなく、ビジュアルでも表現した?
YOON:渋谷を表現したと言うよりは、そんなエネルギーやインスピレーションが私に与えてくれるものを表現したつもり。「アンブッシュ」ではギャルをテーマにしたこともあるけれど、彼女たちの似顔絵を作ろうとしたのではなく、あくまでエネルギーや雰囲気をどう取り入れるか?に興味がある。例えば今シーズンは、人々が渋谷で実際着ているもの、私が「ああ、素敵だな」って思うもの、「アンブッシュ」の世界の一部にしたいと思うものを取り入れた。マルキューにカリスマ販売員がいた頃から、渋谷では個性的ながら地域に根ざした文化が生まれ、同じような現象は今、世界中で起こっている。私が好きなのは、古いものと新しいものが融合している街のエネルギー。まるで過去と未来が交差する場所にいるような感覚は、インスピレーションの源でもある。そういうエネルギーに焦点を当てれば、渋谷のスタイルにフォーカスする以上にコレクションが普遍的になるのでは?と考えた。

WWD:それはつまり渋谷が国際的という意味?確かに多くの観光客を引き寄せている。
YOON:「渋谷が国際的」というよりは、「渋谷は国際的な場所」。渋谷という場所の魂は変わっていなけれど、その中で起こっていることは変化している。感覚的に言えば、いろんなことが独自に変化するのではなく、渋谷というハードウエアの中で変化しているカンジかな?新しい建物が建つ一方、未だ開拓されきっていない懐かしい部分もたくさんある。そういうものすべてを「アンブッシュ」に取り入れて、自分たちの視点で伝えたい。

WWD:そもそも渋谷に住み始めた理由は?
YOON:単純に人が好きだから。私は、静かな場所には住めない。だから渋谷に引っ越してきたとき、いつも何かが流れていて、すごく好きになった。海外では、ニューヨークやロンドンみたいな場所が好き。常に多くの文化が融合している感じがするから。建物から出れば、すぐにどこかに行ける街がある。私はとにかく都会派。だから、渋谷が大好き。今でも「わぁ、こんなお店があるなんて知らなかった」って思う。それが、この場所の本当に好きなところ。

WWD:渋谷に拠点を移して、モノ作りも変化していると思う?
YOON:以前はイタリアで洋服を作っていたので、日本の職人やクリエイターと仕事が一緒にできず寂しかった。もっと五感を駆使して、触れて、話して、みんなと一緒に作業できる感覚を味わいたかった。今はそれが叶って、とても嬉しい。日本の職人はとても細かく、あらゆることにとても熱心。今のファッション業界は全てが慌ただしいけれど、プロは商品をより良くする努力を惜しまない。たとえ1時間でも、彼らとゆっくり話をするなど、これまでよりゆったりしたペースで作業を進めていけるのが嬉しい。

WWD:「アグ」とのコラボレーションの経緯は?
YOON:ファーブーツが欲しかった。日本のY2Kの時代、ヒップホップが流行っていた頃、みんなが履いていたような“ワラビー”みたいな靴が欲しかった。そこで渋谷やギャルに少しだけインスピレーションを得て撮影した。当時のヒップホップクラブやバックパッカーを思い出した。ちょっとノスタルジックなムードを取り入れたかった。ギャルは、あの頃から堂々としている。海外でも真似しようというムーブメントがあるのは、そんな自信を感じるからだと思う。

最近は「正直、ペースが速すぎた」
今後は、「私がブランドを完全にコントロール」

WWD:今後の展望は?
YOON:まずはアイテムを意識的に絞り込んで、よりコンパクトで強いコレクションにしたい。以前は多くの商品を作る必要があったけれど、今は数より質と深みが重要。だから自分たちのペースで進めていきたい。ジュエリーには、もっと力を入れるつもり。私たちはジュエリーブランドとしてスタートしたから。パリでは「LVMHヤング ファッション デザイナー プライズ(LVMH YOUNG FASHION DESIGNER PRIZE)」に挑戦して、17年からは「ディオール(DIOR)」で働きながら「アンブッシュ」も手掛けていた。ストリートウエアがヨーロッパのファッションに進出し、システムの一部になるまでの全ての過程に関わってきたと思う。正直、ペースが速すぎた。そして今、多くのブランドが苦境に立っている理由も分かってきた。大事なのは、私がブランドを完全にコントロールできること。「みんなやっているから」という理由で合わせるのではなく、自分たちのやり方で直接進めていきたい。それは誰にとっても、すべてのブランドにとっても、最も重要な次のステップだと思う。

WWD:世間では、「ストリートはもう終わった」という人もいる。
YOON:ファッションメディアにおける「ストリートウエア」という言葉は、どちらかと言うとハイプな、派手なスタイルを指している。でも若いデザイナーには、ストリートウエアさえリアルクローズ。本当に丁寧に作られたリアルクローズも多い。そして私は、「ストリートウエア」という言葉を恥ずかしいとも思っていない。みんなが街で着たいと思う、本物の服を作っているから。

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