サステナビリティの実現に向けてファッション業界の垣根を越えた連携を進めてきた「ジャパンサステナブルファッションアライアンス(以下、JSFA)」は8月1日、設立から5年を経て一般社団法人として登記された。これにより、政策提言や社会実装を前提とした事業推進において、より高い実効性と信頼性を備えた業界横断的なプラットフォームとしての立場を確立する。
法人の代表理事には、坂野晶 ECOMMIT上席執行役員兼チーフ・サステナビリティ・オフィサーESG推進室長が就任。理事には、高尾正樹 JEPLAN 代表取締役執行役員社長、河崎勇平YKKサステナビリティ推進室企画グループ長の2名、監事には神山統光帝人フロンティア技術・生産本部サステナビリティ戦略推進部部長が名を連ねた。さらに、共同代表はECOMMIT、帝人フロンティア、ユナイテッドアローズの3社が担い、それぞれの業種・立場を反映した多角的な運営体制を構築している。
ガバナンス強化と法人化の狙い
JSFAは2019年に11社でスタートし、現在では正会員22社、賛助会員48社、計70社超が加盟。繊維・ファッション産業の「川上から川下まで」が一堂に会する珍しい構成で、個社では対応が難しい環境・社会課題に、業界全体で挑むことを目的としてきた。
法人化の背景には、活動規模の拡大に伴うガバナンス強化の必要性があった。坂野代表理事・共同代表は「法人格を持つことで、政策提言や社会的発言に対して責任を持ち、外部からもより信頼される存在になれる」と語る。また、今後は公的な委託事業や補助事業の受託も視野に入れており、「社会実装に向けた一歩」としての意味合いも強いという。
スコープ3算定から“削減”フェーズへ
JSFAが重点的に取り組むのは、「カーボンニュートラル」と「ファッションロスゼロ」の2大テーマだ。GHG排出量のスコープ3算定については、加盟企業の約65%が簡易算定を完了。未着手の企業に対しては、分科会形式での業種別支援を進め、知見共有や共通課題の抽出を通じて業界全体の底上げを図っている。
第五期(2025年8月〜)からは、算定から“削減”フェーズへの本格移行を宣言。「各社がバラバラに削減努力をしても、社会を変える規模にはなり得ない。だからこそ共通のデータを持ち、共通の行動を起こす必要がある」と、神山監事・共同代表は言う。また、小売店舗が入居する商業施設との連携強化によるエネルギーデータ開示の推進など、制度面のボトルネック解消にも取り組む。
可視化される「循環の入口」、回収拠点マップの構築
「ファッションロスゼロ」に向けた施策のひとつとして、衣類のリペア・回収・買い取り拠点を集約したウェブマップの構築が進んでいる。すでに12社から1700カ所以上の拠点情報が集まり、「生活者が“どこで何を回収できるか”を直感的に把握できるインフラ」を目指す。
「生活者が“どこにどう手放せばいいか分からない”という心理的ハードルを下げ、循環への第一歩を“捨てる”から“手放す”へと変えることが目的」と語るのは、玉井共同代表。JSFAでは今後、このマップを活用した啓発活動や行動変容の促進にも取り組んでいく。
現在の最大の課題は、「再生素材・再生製品の経済合理性の確立」にある。再生繊維は製造・選別・販売の各段階でコストがかさみ、バージン素材よりも高価になりやすい。そのため市場形成が難しく、多くの企業は実証実験段階にとどまっている。資源循環の意義について神山統光監事・共同代表は、「日本のように資源が乏しく、多くを化石燃料に依存している国こそ、資源循環に本気で取り組むべき」と語る。バーゼル条約による廃棄物の国際取引制限が進む中、国内で使われた繊維を回収・再資源化する必要性は今後さらに高まる。ただし、「高くて売れない、売れないから量が出ず、コストも下がらない。この負の循環を断ち切らない限り、循環は社会実装されない」と指摘。JSFAでは、補助制度やバージン素材への課税といった政策的インセンティブの議論も進めており、官民連携による制度設計を目指している。
サステナビリティの“共通語”をつくる存在に
これまで環境省、経済産業省、消費者庁に対し、JSFAは4回にわたり政策提言を提出。行政との定期的な対話とフォローアップを通じ、業界の現場から発せられるリアリティある提言を実装へとつなげてきた。
坂野晶代表理事・共同代表は「提言して終わりではなく、実装まで伴走することがJSFAの強み」と語る。ファッションの本来の“楽しさ”を持続可能な形で守り抜くために、JSFAは業界を横断する“共通語”を作る存在として進めていくとしている。