ファッション

「リック・オウエンス」回顧展がパレ・ガリエラ美術館で開幕 挑発的に主流とは異なる美意識発信

リック・オウエンス(RICK OWENS)」の回顧展「テンプル・オブ・ラブ(Temple of Love)」がこのほど、パリのパレ・ガリエラ美術館(Palais Galliera)で開幕した。会期は2026年1月4日まで。キュレーションは、パレ・ガリエラ美術館のコレクション責任者アレクサンドル・サムソン(Alexandre Samson)と、オウエンス本人が共同で担当した。

会場では、オウエンスの30年にわたる衣服をピラミッド状にそびえ立つように配置。展示された約100体のルックには、女性のウエストラインを際立たせるテーラードドレスやメンズコート、マントのようなケープなど、彫刻的なフォルムの作品が並ぶ。また、彫刻を思わせる自由な造形のビーズ装飾トップスや、袖にニット素材を仕込んでシャープに仕上げたレザージャケットなど、異素材を重ねた実験的な衣服をそろえる。加えて、凧のようなシルエットやドーナツを彷彿とさせるデザイン、石棺を模した風変わりな作品も展示。ほか、同氏が不慣れなフランス語を話す音声ガイドや、妻でありミューズでもあるミシェル・ラミー(Michele Lamy)と暮らした寝室の再現、シアリングとスウェット素材をドレープする様子をiPhoneで1時間撮影した映像が公開されている。

挑発的な要素が健在
主流とは一線を画す美意識を発信

同展では、オウエンスがキャリア初期に手掛けた、劣化した布地を使用した「破壊的スタイル」と言える衣服も展示。「それは現状への反発、つまり軽蔑のジェスチャーだった」と同氏は語った。しかし現在は、ただ否定するのではなく、何かを“つくる”必要があると応答する姿勢へと移行した。「昔のクリエイションは現状に対する思春期特有の反応で、軽蔑の表れだった。どの世代も、前の世代を拒絶する。でも成長するにつれて、拒絶だけでは足りないと感じるようになった。ただ文句を言うだけではダメ。何かに貢献しなければと思っている。だから今の服は黒く、仕立てがよく、洗練されている。混沌とした世界に、少しだけフォーマルさを差し込みたい。私の過去の挑発的な作品に眉をひそめてきた人たちにとっても、今の作品は、彼らのクオリティへの欲求を満たしてくれると思う。少なくとも私はそう願っている」と述べたように、成熟と構築性を帯びるデザインに進化し、新しい価値観を発信しようとしている。

威圧的なモデルや誇張されたショルダーといったオウエンスの美学は、常に多様性の担い手であり、従来の規範から外れた人々を包み込んでいる。オウエンスはロサンゼルスのハリウッドで服作りを始めた頃から、「ファッション史に残る、風変わりな脚注のような存在になりたい」と話していたという。そして「夢にも思わなかったほど、ずっと遠くまで辿り着いたが、美の基準に柔軟性を持たせることは、自分を見失いがちな時代において、誰かの救いになるはずだ」と、彼は変わらぬ信念を語った。

オウエンス自身を模した像が金属製の水槽で小便する作品も登場。「舞台裏では“ピス・チャペル(小便の礼拝堂)”と呼んでいた」と同氏はさらりと述べた。そこには道徳主義や偏見に対する不満が込められており、「多くの人が、私は逸脱してばかりだと捉えている印象を受ける。それはそれで構わない。でも、もし私がそればかりだったら、ここまで長くは続かなかっただろう。人々が私を信頼して信じてくれるには、ある程度の質と洗練さが必要だ。そして私は、もう十分にそれを示してきたと感じている。逸脱は、私の抗議。でも、ただ過激なだけでは続かない。人に共感されるには、クオリティと洗練が不可欠だ」と繰り返すように、同氏はデザインにおいて現実主義的な側面も重視している。

展覧会を踏まえてオウエンスは、「特別なビジョンを持ち、自分自身に忠実な独立系デザイナーの作品を披露できてよかった。これは、人と違うことができて、それがビジネスとして成功できるという、心強い証拠だ。私は、死ぬまで逸脱し続ける。それが、私の抗議だから。これは、私が世の中で目にする、気取った道徳主義や偏見への反応なんだ。『気楽に、そんなに深刻に考えないで』と、私なりに伝えたい。ちょっとした悪ふざけは、エレガント。ユーモアはもちろん、時には自虐さえ、この世で最もエレガントなものになり得ると思う」と締めくくった。

なお、今回の開催にあわせて、パレ・ガリエラ美術館の外観や中庭もオウエンスの手によって変貌を遂げている。彫像にはケープ姿のフィギュアを被せたり、中庭には同ブランドがローンチした「プロング(PRONG)」家具シリーズのチェアをベースにした彫刻を設置したり、アサガオを植えたりしている。屋外のレストランのウェイターの衣装やパンカゴ、ギフトショップに取り扱っている猪毛の歯ブラシにまで同氏がデザインを手掛け、「リック・オウエンス」の美意識が余すところなく体現している。

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