ファッション
特集 メンズ・コレクション26年春夏

初の「カラー」を発表した堀内太郎が語る 阿部潤一に誘われた時の気持ちと「財産」に自分がなすべきこと

カラー(KOLOR)」は6月28日、創業した阿部潤一デザイナーに変わり、堀内太郎クリエイティブ・ディレクターが全権を担った2026年春夏コレクションをパリで発表した。デザイナーズブランドのトップ交代は、海外では「ドリス ヴァン ノッテン(DRIES VAN NOTEN)」や「アン ドゥムルメステール(ANN DEMEULEMEESTER)」など一般的だが、日本では珍しい。加えて、解体と再構築、ドッキングを主とする足し算が真骨頂の阿部と、ミニマルを信条とする堀内というアプローチの違いを心配する声も少なくはなかった。

そんな中で堀内が見せたのは、解体と再構築、ドッキングする洋服にニュアンスを加えたコレクション。個人的には「もう少し“堀内らしさ”を加えてもいいのでは?」と思ったが、「カラー」を継承するものとして上々のスタートを切ったと言えるだろう。ショーの翌日、パリのショールームに堀内を訪ね、改めて「カラー」のクリエイティブ・ディレクターに就任した時の気持ちから、ファースト・コレクションについて聞いた。

PROFILE: 堀内太郎「カラー」クリエイティブ・ディレクター

堀内太郎「カラー」クリエイティブ・ディレクター
PROFILE: (ほりうち・たろう)東京都出身。15歳でイギリスに渡英。ロンドンのキングストン大学で学んだ後、写真科を専攻。2003年にアントワープ王立芸術学院ファッション科に入学。07年、同校修士課程を修了。10年春夏に自身の名前を冠した「タロウ ホリウチ」でデビューコレクションを発表。12年、第30回毎日ファッション大賞新人賞・資生堂奨励賞受賞。ちなみにこの時の大賞受賞者は、阿部潤一だった。18-19年秋冬から、"日常における普遍性の追求”をコンセプトにメンズブランド 「ティーエイチプロダクツ」をスタート。26年春夏から「カラー」のクリエイティブ・ディレクターを務めている PHOTO:KOJI HIRANO

WWD:「カラー」での初めてのファッションショーが終わった今の率直な感想は?

堀内太郎「カラー」クリエイティブ・ディレクター(以下、堀内):すでに次のコレクションを考えている。自分の役割は、継続して良いコレクションを生み出し続けること。「カラー」のDNAや、「カラー」らしさと自分らしさのバランスを意識しながら、この仕事を続けていきたい。

WWD:改めて「カラー」を創業した阿部潤一さんから打診を受けたときは、どう思ったのか?

堀内:当然、めちゃめちゃ驚いた。「カラー」のアトリエで働き始めた時に思い出したのは、阿部さんとの出会いは2007年。アントワープ王立芸術学院の在学時、先輩デザイナーのベルンハルト・ウィルヘルム(Bernhard Willhelm)の展示会に行ったとき、隣で展示会場の設営をしていたのが阿部さんだった。後で聞くと、あれが「カラー」で初めてのパリコレだったという。自分は、(阿部が「カラー」の前に手がけていた)「ppcm」は知っていたが、当時「カラー」は知らなかった。12年の(阿部が大賞を、堀内が新人賞・資生堂奨励賞を受賞した)毎日ファッション大賞まで会うことはなかったが、海外から友人のデザイナーが来日すると「『カラー』を見にいきたい」と言われることが多く、「海外でも人気があるんだな」と思っていた。打診を受けたのは、12年以降ときどきご一緒していた食事会のとき。いつも通りの食事会だと思って少し遅れて行ったら、「実は……」という話だった。阿部さんはまだ60歳になる前だったから、ブランドの継承なんて考えているとは思っていなくて、驚いた。

WWD:それでも、阿部さんの打診を引き受けた。

堀内:自分は、好奇心が強いタイプ。コレクションブランドで働いた経験もあるし、これまでもさまざまなプロジェクトに携わってきた。阿部さんの打診は、自分のこれまでのキャリアとは矛盾しない。さまざまなプロジェクトに携わり感じたのは、全ては、やってみなくちゃわからないこと。だから挑戦した。

足し算の美学にも触れてきたから
「カラー」はできないとは考えなかった

WWD:特に近年の「カラー」は、洋服を解体・再構築してからドッキングする“足し算“のクリエイションだ。ミニマリズムをベースとしてきた堀内さんとは、クリエイションの方向性が真逆に近い。だからこそ「カラー」のクリエイティブ・ディレクターに就任することは驚いたが、不安はなかった?

堀内:全くなかった。自分の趣味・志向には削ぎ落としていく美学があるが、ファッションを学ぶ中では、さまざまな足し算の美学にも触れてきた。「これはできない」という考えは全く浮かばなかった。

WWD:「カラー」における、現段階の一番のミッションは?

堀内:もちろんブランドに新しさをもたらすべく、これまでにない提案もしていきたい。ただ同時に、自分自身もっと「カラー」を理解しなければならないし、マーケットの要求に応える必要もある。バランスや全体の調和を意識しながら、変化していくことが大きなテーマだと思う。

WWD:これまでの「カラー」をどう捉えている?

阿部:「カラー」は、阿部さんの洋服に対する知識量が核にあってこそ。キャラクターを決定づけているのは、ユーモアだと思う。テーラリングを中心とする知識とユーモアをアイデンティティにしながら、どのように自分らしい新しさを加えていくか?そう考えた時の自分らしさは、「理解力」や「咀嚼力」だと思った。こうした力があるからこそ、「デサント(DESCENTE)」(スポーツウエアの機能性を搭載したハイスペックなテックウエアを開発)や「ムジ(MUJI)」(”ムジ ラボ”のラインを監修)にも携わることができたから。

WWD:そんな咀嚼力のあるデザイナーにブランドを託し、クリエイションをアップデートするという戦略は、ジョナサン・アンダーソン(Jonathan Anderson)の「ディオール(DIOR)」しかり、海外では当たり前なのに、日本では珍しい。

堀内:だからこそ、初めて打診を受けた時は驚いたが、今は日本のブランドも海外勢のように進化できるのか?に自分自身関心を寄せている。

阿部さんの財産に意味を
加えていくのが重要

WWD:実際26年春夏コレクションでは、「カラー」らしさと自分らしさをどう融合させた?率直に言えば、今回は予想以上にこれまでの「カラー」だった。これまでの「カラー」らしさと新しさのバランスで言えば、2:8とか3:7くらいのイメージ。

堀内:アーカイブを見直してインプットしながら気づいたのは、阿部さんも僕も洋服が好きで、知識もあり、カルチャーへの造詣もそれなりに深いと思っているが、阿部さんはより洋服に傾倒し、一方の自分はカルチャーに興味や関心を寄せていること。阿部さんの「カラー」がテーラリングを中心とする知識とユーモアを7:3とか6:4で融合しているとしたら、自分はよりカルチャーをミックスしたい。知識とカルチャーのバランスで言えば、4:6くらいかな?と思っている。

阿部さんの「カラー」はシーズンテーマを持たず、ゆえにそれぞれのアイテムが異なる年代に由来していたり、異なるものが集まることでシーズンの特徴が形作られていったように思うが、自分は(コレクションのたびにインスピレーション源を集める)ムードボードを作るタイプ。テーマは、今まで以上に集約されるだろう。あくまで服を中心とする阿部さんと、世界観を重んじる自分の掛け算が魅力になる。

例えば26年春夏は、「2001年宇宙の旅」を想像しながら時間の経過を考えた。阿部さんの退任や自分の就任など、「カラー」でも時間が経過し、過去から現在、そして未来に向けて変容を続けている。だからこそ、今シーズンは洋服の一部を切り抜き、異素材を飛び出させる阿部さんらしいクリエイションに「脱皮」のような意味を込めた。

ファーストルックのインナーは、小説「オーランドー」を記したヴァージニア・ウルフ(Virginia Woolf)の晩年期をドットで描いたもの。ジェンダーの境界が薄れつつある今、男性性と女性性の間で、時間と共に揺れうごいた主人公を記したヴァージニア・ウルフを、これまでの「カラー」らしいテクニックでデザインに落とし込んでいる。その上に羽織ったのは、ピュアホワイトのジャケット。"色のない”「カラー」を纏うことで、新しい時代に向かうことを表現した。ハイテク素材の外付けポケットをあしらったジャケットは、その外付けポケットを切り込みポケットの中に入れると、ジャケットがコルセットのようなシルエットに変容する。昔から存在するコルセットを現代のジャケットと融合させつつ、未来を思わせるハイテク素材を用いた。こうして、阿部さんの財産に意味や文脈を加えていくのが重要だと思っている。

WWD:確かにこれまでの「カラー」は良い意味で最終形態、商品としての洋服に最大の注意を払ってきた印象がある。それが生まれるまでの文脈や意味などが伝われば、これまでと違う形に進化できるかもしれない。

堀内:(これまでの自分とは)違うブランドのDNAをいかに料理し、それを楽しむか?が自分のミッション。僕の仕事は、デザイナーというよりディレクター。(母校の)アントワープでは、服作りにはビジョンが必要だと叩き込まれてきた。一方の阿部さんは、文化服装学院でパターンを学び、業界に羽ばたいた。僕でさえ「この服は、どうやって作っているんだろう?」と思うことさえある。服を見ただけではパターンを理解できない「カラー」の服に、ビジョンを融合したい。

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