2026年春夏のメンズ・ファッション・ウイークが繰り広げています。久々にメンズコレクションサーキットに戻ってきた編集長・村上と、初参戦のヘッドリポーター・本橋が、ヨーロッパを覆う熱波に負けないアツいリポートをお届け。今回はミラノコレのラスト、3・4日目の後編。
極上の“パシュミー”推し
「トッズ」に石川祐希も登場
本橋:“ゴンミーニ(GOMMINO)”シリーズで知られる「トッズ(TOD'S)」ですが、今後は“パシュミー(PASHMY)”シリーズにも本腰を入れていくようです。今回のプレゼンテーションでも、“パシュミー”を前面に押し出していて、気概が伝わってきました。
一枚の革から、シューズ、バッグ、ウエアまでを横断的に展開するのは、レザーグッズブランドならではの強み。そして実際に触れてみると、革とは思えないほどのしなやかさ、滑らかさで驚きました。前日の「チャーチ(CHURCH’S)」もそうでしたが、こうした「触れた瞬間に驚きがある」という体験は、クラフトに自信を持つブランドだからこそできることですね。
村上:「トッズ」のメンズは、マッテオ・タンブリーニ(Matteo Tamburini)=クリエイティブ・ディレクターの参画の度合いが高まっているのかな?シルエットが少し細身になって、エレガントかつモードな印象が強くなりました。ウィメンズではハリのあるウールを使って、時にはストイックに求めるシルエットを追求していますが、メンズでは柔らかな素材で流れるフォーム。安心感を覚えます。
そんなシルエットを生み出す代表的な素材が、最高級レザーの“パシュミー”というワケですね。「パシュミナのように柔らかな」という意味を持つレザーは、ブレザーやボンバージャケットに。リネンもシルクと混紡したり、クレープ生地に仕上げたりで柔らかさをまといました。“ゴンミーニ”には少しだけ踵が高くなって構築的なシルエットが登場。若い世代にアピールできそうです。
個人的には、石川祐希さんに会えてムネアツ。当日はディナーもご一緒しましたが、慣れない環境下でもイタリア語で会話を楽しんでいらっしゃるのを見て、「さすが!」と感動しました。
怖くて値段が聞けない!
滑らかな手触りの「ムーレー」
村上:「ムーレー(MOORER)」は、シーアイランドコットンの柔らかなこと!ここから生み出すポロシャツやシャツ、サマーニットは、一度着たら手放せなくなりそうです。リネンには、アロエを塗って柔らかく仕上げているんだとか!確かにブルゾンは、リネンの割に滑らかな手触りで、あのゴワゴワが得意じゃない人も挑戦できそうです。とは言え、シーアイランドコットンもアロエ加工のリネンも、「ムーレー」だとお値段はいくらくらいになるのでしょう(笑)?恐ろしいw!
村上:続く「ラルディーニ(LARDINI)」は、1トーンの落ち着いたスタイル。シャツブルゾンやサファリジャケットに、グルカパンツやテーパードするカーゴパンツ、足元はスエードやレザーのシューズやグルカサンダルです。まとまってはいるけれど、もう少し「ここで買いたい!」と思えるプレゼンテーションに期待したいですね。
「ダンヒル」のサイモンの才覚と
本木雅弘のブランドへの造詣
本橋:今回の「ダンヒル(DUNHILL)」、本当に素晴らしかったですね。レンガがかったブラウンレッドのスーツにボタンダウンシャツ、レジメンタルタイ、ポケットチーフ。水色のスーツにはボウタイ、ストロー帽、そして花柄シャツ……。英国紳士的なダンディズムを守りながら、色彩とスタイリングで抜け感をつくる絶妙なバランスに、思わず拍手を送りたくなりました。
村上さん、これはやはりサイモン・ホロウェイ(Simon Holloway)=クリエイティブ・ディレクターのセンスと手腕なのでしょうか?隣の席にいた「レオン(LEON)」の石井洋編集長も唸っていましたよ。ただネクタイの長剣と短剣の「ズラし」に驚いていて、いやーその着眼もさすがだな、と。
村上:ネクタイのズラしは、私も気づきましたよ(笑)。ショーは終始、サイモンの美意識が炸裂していましたね。ただただ“洒落てる”。脱帽であります。
貴族の洗練された装いと、英国のロックスターらしい退廃的な反骨精神のミックスを追求しましたが、そこはメンズファッション界随一なお育ち(「WWDJAPAN」推定)のサイモンらしく、クラシックの自由な再解釈という境地に辿り着いています。グレージュのセットアップにマホガニーのトレンチコートというカラーリングで伝統的なスタイルをアップデートしたり、同じく色が異なりつつもクラシックなジャケパンスタイルの上に少しだけロックテイストな「ダンヒル」ならではのカージャケットを羽織ったり。今シーズンはレジメンタルタイのタイドアップスタイルが繰り返し登場しますが、いずれも同じ色調の中でジャケットとパンツのカラーを変え、洒落たムードを醸し出します。一方、アイビーっぽいスタイルでは、レモンイエローなどの鮮やかな色を迷うことなく使って、フレッシュ。マドラスジャケットとのカラーコーディネートは、「ダンヒル」にしてはかなり大胆です。
これまで様々なブランドで、「伝統的なスタイルコードの革新」と称したものを見てきましたが、今回のサイモンの「ダンヒル」は、一番納得できるものでした。彼のキャリアやセンス、そして「ダンヒル」の品質がうまく交わっていますね。
WWDJAPAN公式インスタグラムの本木雅弘さんインタビューはこちら>>>
本橋:ゲストとして来場していた本木雅弘さんもまた素晴らしくて。SNS用にインタビューさせていただきましたが、立ち居振る舞いから言葉の選び方までに品があって、ブランドの歴史やサイモンのクリエイションへの理解も深い。ただの“お呼ばれセレブ”とは一線を画す、本木さんの存在感。ブランドアンバサダーとして、まさに理想的ではないでしょうか。ぜひ「ダンヒル」にはオファーをご検討いただきたいところです。本木さんのように“わかっている人”が着る。それだけで、すでにアンバサダーとしての役割は、ほとんどは完結しているのではないでしょうか。……とはいえ、僕らはこれからもセレブたちにスマホを向け続けるわけですが(笑)。
これまでも、これからもエレガント
「ジョルジオ アルマーニ」のリゾート
本橋:ミラノ最終日に行われた「ジョルジオ アルマーニ(GIORGIO ARMANI)」のショーは、御大が静養のためご欠席。その事実が会場に静かな緊張感をもたらし、服そのものが語り手となっていたように思います。
先日亡くなられた長嶋茂雄さんの一つ上の学年にあたるアルマーニ。分野は違えど、国を代表するレジェンドとして、つい重ねて見てしまいました。115体のルックは、最後まで見飽きることなく、終盤にブラック一色で締めくくる構成も見事。中でも、ズドンと分量をとった落ち感あふれるシルエットのパンツが印象的で、かぎ編みのレザー、シルク、リネンといった艶やかで軽やかなトップスをしっかりと支えています。素材同士が“対話”しているような、そんな豊かさがありました。
時代も、個人の感情も超えて、語り続ける服。そんなものが本当にあるんだと、改めて感じさせてくれたショーでしたね。
村上:今回のリゾートムード満載なコレクションを見て、「ジョルジオ アルマーニ」って、本当に酷暑にふさわしいエレガンスのブランドなんだな、と再認識しました。
アンコンのジャケット然り、楊柳パンツのようにリラックスしたボトムス然り、中に着るVネックスキッパー襟のサマーニット然り。全てがただ外にいるだけで汗をかいてイライラしがちな夏にうってつけの、肌と生地の設置面が少なくて、たとえ触れたとしても滑らかだったり柔らかだったり伸縮自在だったりするから、ストレスフリーとまでは言わないけれどストレスレス。なのに品格が漂うスタイルですよね。
特に今回は、シルクビスコースなのかな?光沢を放ちながらも肌を撫でながらストンと下に落ちていく素材を使ったセットアップの美しさに目を奪われました。今シーズンは、リラックスやエフォートレスを追求した結果のパジャマスタイルが頻出したミラノですが、「ジョルジオ アルマーニ」はずっとエレガントなのにリラックス&エフォートレスだから、パジャマスタイルのような新機軸は不要。「これからも、これまで通りを追求すれば良いんだな」とブランドの未来に想いを馳せました。