1. 「着る人、作る人、売る人、すべてを幸せにしたい」 「ザ・イノウエ・ブラザーズ」の挑戦 

「着る人、作る人、売る人、すべてを幸せにしたい」 「ザ・イノウエ・ブラザーズ」の挑戦 

サステイナブル インタビュー

2018/5/9 (WED) 02:00
井上聡「ザ・イノウエ・ブラザーズ」デザイナー PHOTO BY TSUKASA NAKAGAWA

 「どこかで、誰かが、苦しまなければならないビジネスなんてもういらない」。エシカル(倫理的な)ファッションに取り組んでいる「ザ・イノウエ・ブラザーズ(THE INOUE BROTHERS...)」をご存知だろうか。デンマークで生まれ育った日系二世の井上聡(1978年生まれ)とその弟、清史(80年生まれ)が手掛けるユニセックスのニットウエアブランドだ。南米ボリビアやペルーの先住民が飼育する高品質のアルパカやビキューナを用いたニットアイテムが、伊勢丹メンズ館やインターナショナルギャラリー ビームス(International Gallery Beams)、エディション(Edition)などの売り場で、ラグジュアリー・ブランドと並んで販売されている。アルパカ製品の中心価格帯は4万~6万円程度。同等の品質のものは通常なら10万円の値が付くが、彼らは、中央アンデスの牧畜民から直接原毛を買い、現地で製品を生産している。つまり、牧畜民から売り場まで余分なコストを上乗せしないダイレクトトレードを行う仕組みを構築し、適正価格のニットウエアを提供している。

 2010-11年秋冬に、日本で初めて買い付けたインターナショナルギャラリー ビームスの山崎勇次ディレクターは「彼らの本物を追求する姿勢、ファッションの可能性を追求する姿勢がモノ作りに反映されている。彼らはアートをはじめ社会情勢などいろいろなジャンルから情報収集をしていながら、情報に流されず、納得するまで探求する心がある。また、南米やアフリカなどさまざまな国とコミットしていく彼らの活動は、日系人らしい人種や国籍の壁を越えたもの。日本で教育を受けていないのにもかかわらず、日本のことを学び、日本人であることを強みに転換していく強さもある」と語る。店頭では顧客やインバウンドを中心に支持を集め、ファンも持つ。2月にビームスで行われた彼らの著書「僕たちはファッションの力で世界を変える」(PHP出版)の出版記念イベントでは彼らのニットを着用して集まるファンの姿が多く見られた。

 エディションで2012-13年秋冬から買い付けている竹田英史トゥモローランド・商品部バイイングマネージャーは「別のブランドのバイイング目的で訪れたショールームでたまたま見つけ、プロダクトの良さに惹かれた。さらに、モノ作りの背景を聞いて、とにかく彼らのピュアな姿勢に共感し、応援したいという気持ちも芽生えた。毎回、ベーシックアイテムもリブが長め、リブがゆるめなど細かなディテールの変化があり、時代性を捉えながら進化している点もいい。買い付け額は年々増えていて、プロパー消化率はほぼ100%と店頭でも好調だ」と話す。

 現在の取り扱い店舗は日本が45店舗、海外が10店舗程度。兄の聡はコペンハーゲンでグラフィックデザイナーとして、弟の清史はロンドンでヘアスタイリストとしても活躍するが、その稼ぎの大半をブランド運営のためにつぎ込んできた。そして、会社設立の2004年から実に13年目の2017年、ようやくこのビジネスで自分たちの給料を稼ぐことができたという。そもそもなぜ、エシカル・ファッションに着目したのか。また彼らが考える新しいラグジュアリーとは何か?3月5日に行われた「僕たちはファッションの力で世界を変える」の出版記念講演では、告知が直前だったのにもかかわらずTSUTAYA六本店は立ち見が出るほどの盛況ぶりだった。駆け付けた客の多くは若者だったことも印象深い。来日した兄の聡に話を聞いた。

READ MORE 1 / 2 “重要なのはチャリティーではなくビジネスであること” 

WWD:ブランド立ち上げのきっかけは?

井上聡「ザ・イノウエ・ブラザーズ」デザイナー(以下、井上):2000年頃に、ヨーロッパで起こっていた考え方、すなわち人間の持つ創造力で社会問題を解決し社会貢献するというソーシャル・ビジネスのムーブメントに刺激を受けて、兄弟で何かアクションを起こしたいと考えていた――ファッション・ビジネスを通じて世の中にポジティブなインパクトを与えたいと。そうした時に、NGOを通じてボリビアの先住民の支援活動をしていた友人に「お前たちにぴったりのビジネスがある」と誘われ、訪れたボリビアでアルパカに出合った。土産物屋などに売られているアルパカの手編みのセーターは、すばらしい素材なのに旅の記念品といった程度。チャンスだと思った。デザインの力で変える余地があると思ったから。さらに、ボリビアは多くの人が貧困を強いられていて、彼らの生活をサポートしたいと考えた。2007年のことだった。

WWD:チャリティーではなくビジネスであることを重視しているということか。

井上:僕たちは空っぽの工場や誰も来ないスポーツセンターを見てきた。ビジネスが成功すれば継続できるが、チャリティーだと継続できないこともある。ビジネスの仕組みをきちんと作って、ボリビアの人々の力になりたいと考えた。ソーシャルとは人の中に飛び込むという意味もある。マーケットを利用するというより、社会とマーケットと共に生きて、皆が価値を得ることができるビジネススタイルを確立することを目指している。エシカルビジネスはヒューマンビジネス。自分がいいと思う行動を取り、それと関連して周りの人々がよい人間性を発揮していくことでもある。そしてそれはみんなができることだと思う。僕たちが取り組んでいることは、貧しく苦労している人々を主役にマーケットを作ること。そのときに重要なことは、貧しい人は悪い人間ではないということ。貧しい人が犯罪を起こすと思い込まないこと。そして、貧しい国は危険だと思い込まないこと。

WWD:具体的にどのように進めたのか?

井上:まず、中間マージンをできるだけカットして、消費者にはよりリーズナブルに、生産者にはより多くの利益をもたらす方法を考えた。インポーターやPRを省き、本当にイイモノを作り口コミで広げたいと思った。牧畜をする人々に「世界一のアルパカセーターを作るために協力してほしい」と伝え、価格は交渉せずに彼らの言い値で原毛を買った。まずは信頼されることが重要だからね。ただ、「僕たちは勉強しているから、だまそうとしたらわかるよ」とも話した。そうして信頼関係を築いたことで、今ではラグジュアリー・ブランドが「倍支払うから」と交渉に来ても、「ザ・イノウエ・ブラザーズ」と取り引きしているからと断ってくれている。僕たちと取り引きをするようになって所得が25~30%増えたという人もいる。また、アルパカ繊維の品質向上のために、現地で見つけたアルパカ繊維の品質向上の研究などを行うパコマルカ研究所が提唱する正しい知識を提供したりもしている。とはいえ、ボリビアでニットを形にするまで3年かかったし、それも今思うと恥ずかしくて見せられない出来だった(笑)。時間はかかる。でも僕たちは40年かかることを10年で築いたという自負がある。

READ MORE 2 / 2 “人間のクリエイティビティ―は無限 選択肢を作ることがクリエイターの仕事”

WWD:“エシカル”という言葉自体が消費されているが、それについてはどう考えるか?

井上:エシカル、オーガニックは当たり前になるべきだと考えている。そしてデザイナーの仕事はそれを格好よくすること。格好よくて生産背景がよければ最高でしょう?人間のクリエイティビティ―は無限で、選択肢を作ることがクリエイターの仕事。人間のクリエイティビティーがあれば、いろんなことが解決できると思う。だって人間は宇宙にまで行けるのだから。

WWD:エシカルやオーガニックなどを徹底しようとなるとハードルが高い。

井上:白か黒か、とするとどちらかがなくなってしまう。ストイックになる必要はなく、できる範囲ですることが大切だと思う。エンドユーザーの選択で世界は変わるから。小さなことでも全世界の人々が始めたらいろんなことが変わるし、小さなアクションが大きく世界を変えていくから。選択する力は誰もが持っているし、選挙よりもお金の使い方によって簡単に社会に影響を与えることがきる。

WWD:地球の環境変化も著しい。

井上:アンデスに行くたびに明らかに気候が変わっているから、地球の温暖化が深刻だと感じる。でも地球は何億年も生きているから、そんなにもろくはない。地球を救うのではなく自分たちを救おうと考えて動くべきだと考えている。そして、サステイナビリティ―を考えるなら、できるだけ大量生産を応援しないことをおすすめしたい。

WWD:そもそもファッションをやったことがなかったのにもかかわらずファッションでソーシャル・ビジネスをしようと思った理由は?

井上:僕たちはもともとファッションが好きで、ファッションのパワーを知っていたから。でも、ファッション業界は嫌いだった。例えば、大好きだったブランドが実は子どもに労働を強いていたり。また、ファッションショーは混乱を招くものの一つだと感じている。ハイファッションは夢のような別世界で、現実とかけ離れている。美の象徴は10代の若いモデルで、その影響からか欧米では拒食症の女性も多い。背景で誰かが苦しんでいてもわからない。そういった空想の世界を作り上げていく部分はファッションの危ないところだ。だからこそファッションでソーシャル・ビジネスをデザインしたいと思ったし、何より美は人の気持ちを変えられる。ファッションをしようと思ってボリビアに行ったわけではないけれど、ファッションは僕たちの大好きなプレーグラウンドだし、伝えやすいと思った。

WWD:ファッションのどういう部分に影響を受けたか?

井上:僕たちのルーツはストリートにあり、ヒップホップやグラフィティといったカルチャーから影響を受けている。楽器がなくても、キャンバスや絵の具がなくても、バレエを習わなくても、新しい音楽やアート、ダンスを生み出し、新しいカルチャーが生まれた。彼らは「ペンドルトン(PENDLETON)」のウールシャツを着て、「ディッキーズ(DICKIES)」や「カーハート(CARHARTT)」のパンツをはき、作業着をめちゃくちゃ格好よく着こなしていた。それがヒップホップ・ファッションになり、今のストリート・ファッションにつながっている。作業服がファッションになるその公平性が、ファッションの魅力でもある。かつて服は、アイデンティティーを表現するものでもあった。民族衣装もそうだし、例えば各地区で編み目が異なるアランニットは漁師が溺れて死んだときに、生まれた場所に運んでもらえるように着ていた。女性たちは祈りを込めて手編みしていた。僕が子どもの頃の1980年代や90年代はデザイナーに憧れ、その人が作る服を着ることで自分のアイデンティティーを表現していた。トレンドというよりアイデンティティーだった。

WWD:「ザ・イノウエ・ブラザーズ」の服はきわめてシンプルなものが多いが?

井上:着る人の個性や魅力を引き出す服を、タイムレスなものを作りたいから。

WWD:それがラグジュアリー・ブランドと並んで売り場で提案されている。

井上:僕たちの考える新しいラグジュアリーとは、作る人、売る人、着る人、関わる人すべてが幸せになることだと考えている。どこかで誰かが苦しまなければいけないビジネスは本質ではない。僕たちが考えるラグジュアリーとはめちゃくちゃおいしいイチゴを食べたり、ヴァンナチュールを飲んだり、機能性の高い椅子に座ったりすること。高いとか希少とか、そういったラグジュアリーではない。

WWD:次に考えていることは?

井上:2019年春夏からコットンコレクションを始める予定だ。コットンを変えれば世界は変わるから。(続報予定)

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