ファッション
連載 バーゼル

100“周年”のシチズンが“執念”で生んだ究極目前の新メカニズム

 皆さん、おはようございます。取材先のバーゼルと、滞在先のチューリッヒ。その道中の1時間で、書ける限りの記事を書いてみようという時計連載の第6回、今回は、今年創業100周年のシチズン(CITIZEN)です。

 シチズンは今年、創業100周年を迎えます。ちなみに「市民」を意味する社名は1924年に前身の尚工舎時計研究所が最初の商品を発売する際、時の東京市長の後藤新平・伯爵が、「世の人のため、市民のために時計を作って欲しい」との願いを込め命名したものだそうです。以来シチズンは「市民のため」、つまり普通の人のためにという哲学を大事に、業界で言うところの中価格帯、5万円くらいから30万円くらいまでの時計を中心に生産・販売しています。高すぎて「市民」の手に届かない時計は、シチズンが作らなくてもいいという考え方です。

 そんな「市民のため」の会社にとって、一番大事な財産は、「エコ・ドライブ」です。難しい話は大幅に省略すると(自分もわかんないしw)、「エコ・ドライブ」は光発電の機構。通常時計は、自分でゼンマイを巻く手巻きか、時計に内蔵したローターが動力源になる自動巻き、電池を使うクォーツのいずれかに大別されますが、「エコ・ドライブ」は光発電をすることで従来のクォーツに比べ長い期間、電池交換の必要がない時計を生み出します。これもまた、「定期的に時計屋さんに行って、電池を変えてもらうのって面倒だよね」とか「時計って、もっと軽く、薄くできるよね」など普通の人、つまり「市民」が時計を使うに際して抱くであろう不便や不満を軽減するための機構です。

 で、そんなシチズン、今年はついに究極に正確な時計を目指し、エコ・ドライブ内蔵で年差1秒、つまり年間に生じる正しい時間との誤差はたった1秒というムーブメントを開発しました。商品化は来年度の予定です。1年に1秒となると、1日に許される誤差はたったの0.0027秒。瞬きもできない、ごくごく短い時間です。

 究極に正しい時を刻む。これは、時計ブランド共通の夢です。だからこそ人類は遥か昔から、まずはトゥールビヨン(これまた難しい話は割愛しますが、機械式時計の誤差を軽減するための複雑機構です)を開発し、その後はクォーツ、最近では電波時計まで生み出し、永遠に狂わない時計に近づいてきました。そして近年、シチズンは衛星電波時計やBluetooth搭載時計(正しく時を告げる携帯電話から時間を教えてもらう時計です)などを世に送り出し、そんな時計に迫ってきたのです。ところがシチズン開発陣は、そんな最近の努力を「電波やBluetoothの力を借りることばかり考え、ムーブメント自体の改良を怠ってきたのでは?」と反省。自慢のエコ・ドライブでもう一度、それ自体が正確な時計を生み出す決意をしたのです。

 真面目!やっぱり日本の開発陣って、真面目でスゴい!すでにスゴい自分たちを自己否定して、さらに前進しようとするなんて!

 とまぁ時計担当、日本から遥か彼方のバーゼルで、目の前の日本人に大感動するという“不思議体験”をしてきました。

 「時間はスマホでわかる」とか「1秒くらいどうでもいい」。そんな考えは、当然あると思うし、間違っていないと思います。正直に言えば、事実です。けれど、それでもなお時計の可能性を信じることで、時計業界は巨大なビジネスに発展したのです。バーゼルに来ると、そんな時計職人が手首に巻く小さな小さな機械に注ぎ込む執念の凄まじさを感じ、感動したり、興奮したり、笑っちゃったり、ゾクゾクしたりします。

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