8月に楽天が冠スポンサー契約を締結し、初めてとなる「楽天 ファッション ウィーク東京(RFWT)」が10月に行われた。10月28日号の弊紙特集では「覚醒せよ!楽天の東コレに危機感」というやや厳しいタイトルを掲げ、変わったことや変わらなかったことをショーのリポートを交えて紹介した。現場に出て感じたのは、冠スポンサーが代わったにもかかわらず、いつも以上に東コレに対する世間の関心が低くなっているということだった。(この記事はWWDジャパン2019年11月11日号からの抜粋です)
今シーズンは紙面とは別に、「WWD JAPAN.com」で東コレについてのアンケートをデザイナーに回答してもらう企画を、「RFWT」開催前から開催後にかけて連載形式で公開した。回答はおおむね予想通りで、遅すぎる開催時期や暗すぎる公式会場について苦言を呈す内容。また買い付け予算をもったバイヤーの誘致を訴えるデザイナーも多かった。東コレを長く見ている人にとっては当たり前の問題かもしれないし、関係者や読者からも記事に対しては賛否両論があった。中には「メディアが魅力を伝えられていないのでは」という意見も届いた。
しかし、東コレを「終わってる」なんて思ったことはないし、むしろ「終わらせない」ために試行錯誤をするのがメディアの役割の一つだと責任を感じている。東コレに対して例え厳しい意見が多かったとしても、リアルな現状を伝えることに今は価値があると思っている。なぜなら、議論が生まれるからだ。東コレ最大の課題は運営や冠スポンサー、開催時期やメディアの質ではなく、世間からの無関心である。最近の東コレは、何となく始まり、何となく終わっていた。しかし今回はデザイナーの本音を届けることによって、周囲やSNS上などいたる所で、自国のファッション・ウイークについての独自の見解を見たり聞いたりした。その声が日本ファッション・ウィーク推進機構(JFWO)や楽天にどれだけ届くかは分からない。だがデザイナーや業界人を含め、世間の内なる声が表出したことが今後につながる一歩になると信じているし、巻き起こった議論が次回の「RFWT」で少しでも形になればと願っている。われわれもメディアという立場なりに、世間の無関心とはあらゆる手段で抗っていくつもりだ。
過渡期を迎えているのは、世界のファッション・ウイークも同じである。現在は動画サイトやSNSなどのあらゆる手段でショーの生中継が見られるし、終了1時間後には全ルックがインターネットで世界中に配信される。高い費用を払ってショーを開く意味やそれを伝えるメディアの役割に加え、そもそもシーズンごとにコレクションを発表するサイクルへの疑問など、ファッション・ウイークに対するあらゆる価値観が世界中で劇的に変化している。
各都市では、運営サイドと参加ブランドによる新たな試みが行われている。楽天とJFWOが今後の課題として掲げる「BtoC強化」の施策をいち早く成功させたのがロンドンだ(関連記事P.18)。9月のロンドン・コレクションでは、「アレクサチャン」など一部ブランドのショーが見られるチケットを135ポンド(約1万8900円)、フロントローは245ポンド(約3万4300円)で販売した。チケットを購入するとショーを見ることができるほか、会場内の展示会を見たり、セレブリティーが登壇するイベントに参加したりすることができる。さらにショーは“シーナウ・バイナウ”形式で、会場内に開かれたポップアップショップですぐに購入することが可能だ。高額な入場料にもかかわらず、完売した時間帯も出るほど一般客が多く来場し、ポジティブな反応も多かったようだ。ショーの費用は運営側が負担するため、ブランドは少ないリスクで参加することができる。継続できるかが今後の課題ではあるが、自国のファッション・ウイークに対する興味を数値化するといった点では面白い試みだった。
東京でも同じ試みが成功するかは分からない。だが、まずは世間からの関心が低くなっていることを関係者が認識してからがスタートだろう。その点、今回の「RFWT」では今後に期待できる新たな動きも見られた。JFWOが招へいした「トモ コイズミ」「ランドロード ニューヨーク」「コウザブロウ」のショーは豪華モデルの起用や派手な演出で完成度が高く、会場には名の知れた芸能人やモデル、ファッション誌の編集長らが駆けつけた。具体的な支援内容についてはJFWOから回答を得られていないが、今後も同様の支援枠は継続する予定で、次シーズンも期待したい取り組みである。
人が呼べるブランドさえ参加すれば、東コレはまだまだ盛り上がれる。前スポンサーのアマゾン ファッションが開催していたプログラム「アット トウキョウ」は、「アンダーカバー」や「サカイ」などを招へいし、自国のファッション・ウイークの可能性を改めて証明した。次世代を担う学生たちを招待し、彼らも何かを感じたはずだ。課題は山積みだが、今後はJFWOの招へい枠や東コレ後にショーを行った「オニツカタイガー」や「ザ・リラクス」などを巻き込むことができれば、強力なブランドはまだまだ集まる。「楽天は国内企業のため決断が早く連携がスムーズだ」というJFWOの言葉を信じ、次回の「RFWT」での新しい動きに期待したい。