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きっかけは「ベントウ」? 日本人女性が手掛けるNY発D2Cブランド急成長の理由

 ワーキングウーマン向けのアパレルD2Cブランド「エムエムラフルアー(M.M. LAFLEUR)」は、2013年にニューヨークで設立された。同ブランドを率いるのは金融業界出身のラフルアー宮澤沙羅・最高経営責任者(CEO)と、NYのデザイナーズブランドで経験を積んだ中村美也子チーフ クリエイティブ オフィサー(CCO)だ。日本素材を使用した機能性や幅広いサイズ展開、忙しい女性のためのライフスタイルに即したサービス提供などで、NYのキャリアウーマンたちの心をつかんでいる。10月には官民ファンドのクールジャパン機構から20億円の資金を調達したと発表した。「女性の尊重なくして会社は成り立たない」と語る2人に、ブランドの設立から今後までを聞いた。

WWD:ブランド立ち上げの経緯は?

ラフルアー宮澤沙羅CEO(以下、宮澤):私はもともと金融業界で働いていたのですが、ビジネスウーマン向けの服を探すのが難しく、あったとしても質があまり良くないという悩みがありました。母がかつて森英恵先生のところで働いていたこともあり、“いい服”がどのように作られているのかも教わっていました。その目線で見ると、当時のキャリア服はありえないと感じていて。だからブランドを始めようと決意しました。私にはアパレルの経験がなかったので、誰かリュクスの世界で働いている人と組みたいと考え、NYのヘッドハンターを通じて(中村)美也子と出会いました。

WWD:中村CCOは宮澤CEOに出会い、どのように感じた?

中村美也子CCO(以下、中村):率直に、この人がやりたいことって面白いなと思いました。あと、沙羅が考えていたプロジェクトは、ターゲットが非常に明確だったんですよね。私はNYのデザイナーズブランドで働いていたのですが「なぜ、こんなにも着ている人の顔が見えないんだろう?」と疑問に思っていました。その疑問を沙羅のプロジェクトが解消できるのではないかと。実際にプロジェクトが始まってすぐに沙羅の友人を紹介され、彼女たちがどういった服が欲しいかを“教育”されました。それまではオフィスで働く女性がどういう条件や気持ちで服を探しているのか全く知らなかったので、作り方や観点を変え、最初の商品を作りました。

WWD:具体的にはどのように変えた?

中村:その服が最終的に何のために存在するのかを考え、作る上で売ることも意識するようになりました。これまではファッション業界の最先端とは何かを重視していましたが、今はその考え方を理解した上で、どうマスマーケットに響かせるかを意識しています。最初のころは素材について、紆余曲折ありましたけど(笑)。

宮澤:とにかく洗濯できる生地を探してくれと最初に言ったんですが、美也子的にはありえないと思ったみたいですね。

中村:普通はウールかシルクでしょ?と思っていたので、ポリエステルで作る服なんて、とちょっと驚きました。でも、普通の女性は素材ではなく、着心地が良く、綺麗に見えて、洗濯可能、そしてシワにならないといったことを重視していた。そこを抑えつつ、ハイエンドなファッションのデザインを取り込んだんです。

新サービス「ベントウ」で業績好調に転じる

WWD:ブランドを立ち上げて以降、業績は順調だった?

宮澤:正直に言うと、13年の立ち上げ当初は全然売れませんでした。というのも、うちの服って全然安くないんですよ。同時期に立ち上がったD2Cブランドの「エバーレーン(EVERLANE)」や「ワービー・パーカー(WARBY PARKER)」は価格が非常にリーズナブルなのに対して、私たちの服はアメリカのOLに人気の「J. クルー(J.CREW)」や「バナナ・リパブリック(BANANA REPUBLIC)」などよりも高い。それに加え、着てもらえれば商品の良さは分かるけれど、デザインもシンプルなので、EC上では高い理由が伝わらない。最初の2年間はなかなか売れず、苦しい時期でしたね。

WWD:業績が好調に転じたきっかけは?

宮澤:大きな要因としては、14年の終わり頃に始めた「ベントウ ボックス(BENTO BOX)」というサービスですね。お客さまへのアンケートをもとに、当社のスタイリストが服をセレクトして送る仕組みです。先ほども言ったように、うちの商品の良さは着てもらえれば分かる。まずは着てもらうために、お客さまに服を箱に詰めて送ってみようと考えました。当時のお客さま約1000人にメールでヒアリングをしたところ、18%ほどが「送ってもいいよ」と言ってくれました。そこで送ってみたところ、売り上げが大きく伸びたので、ちゃんとサービスとして展開しようと。結果的に15年から業績が伸び始めました。近々、「ベントウ」の進化版として「オマカセ(OMAKASE)」というサービスをスタートする予定です。「出張に行くならこの5点」といった形で、商品を送る仕組みです。

WWD:そういったアイデアを考えるのは宮澤CEO?それとも中村CCO?

中村:まずは「こういうサービスが欲しい」「システム上のここがうまくいっていない」といった情報をいろいろなところから吸い上げ、最終的には沙羅が取りまとめています。

宮澤:美也子のすごいところは、「数字のことは分からない」と言いつつも、ちゃんとビジネスが分かっていること。彼女が好きなアイテムがあっても、「消化率が悪いから量産はできない」と伝えればすぐに納得してくれる。

中村:逆に消化率が悪くても、デザインやほかのアイテムとの組み合わせの観点から重要なんだということを沙羅は理解してくれる。いろいろな点で意気投合できることは非常にラッキーだったなと思っています。

プラスサイズ商品や実店舗での工夫とは?

WWD:商品のサイズバリエーションも豊富だ。

宮澤:全部で15サイズほどあります。アメリカ人女性の平均サイズが12なのですが、一般的なブランドのサイズは12までしかない。言ってしまえば、半分以上を除外するような形を取っているんです。私たちは女性の尊重を最も重視していて、その考えなくして会社は成立しなかった。より多くの女性のために豊富なサイズを用意することは当然の流れです。さらにプラスサイズの服と通常サイズの服でデザインのディテールを変えているのもポイントです。これは美也子のアイデアで実現しました。

中村:一般的なプラスサイズの服って、通常のモノと同じ形にすることが多いんですが、原型に縛られてしまったら最高なモノにはたどり着けないと思って。ネックが少し小さくしたり、袖をもう少し長くしたりといった工夫を取り入れています。

WWD:現在は実店舗も構えている。

宮澤:全米に8店舗あります。予約制ではないのですが、多くのお客さまが予約を取って来店されますね。いずれの店舗にも在庫は置かず、在中のスタイリストたちがお客さまに合う服を取り寄せて、1時間ほどいろいろと試してもらうようにしています。仕事で忙しい女性をターゲットにしているからこそ、貴重な1時間を無駄にしないよう、効率のいいショッピングを楽しんでもらいたいと考えています。

WWD:現在の売り上げ規模は?

宮澤:公表はしていませんが、昨年から4割増と、ECを中心に堅調に伸びています。購入者数は20万人ほどですね。

WWD:今後、人材的に強化したい分野は?

宮澤:少し変に聞こえるかもしれませんが、普通のアパレル業界にいる人をもっと採用したいと考えています。これまでは従来のアパレル業界を古いとみなし、テクノロジーに投資を行ってきましたが、今は店舗に注力したいです。そのため、アパレルの基礎が分かっている人を重視しています。あとはデジタル・マーケティング領域の人材も探しています。なかなか集めるのが難しいのですが、目まぐるしく法則が変わるマーケティング領域に対応できないと、生き残れないと考えています。

WWD:クールジャパン機構から20億円の資金調達を行った発表した。具体的にはどういったことに資金を使っていくつもりか?

中村:すでに日本の生地屋や加工屋、縫製工場などをクールジャパンに紹介してもらっています。日本素材を中心に使った、売れ筋である“コア”商品の拡充や、日本の素材、特性を生かした商品の開発を行っていくつもりです。

宮澤:クールジャパンにはアパレルの専門家もおり、非常に力になってくれています。また、日本に拠点がない中で、クールジャパンを通じて日本の生産拠点とのやり取りなどをできることは心強い。来年にはカナダやイギリス、オーストラリアへもECを通じて商品を販売していく予定で、日本への進出も検討しています。私たちの女性の地位を向上させたいという意思も理解してもらっているので、しっかりと成功させたいです。