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カウズとエスケイ・ラム、1枚のスケッチから生まれた巨大アートと熱狂

 ニューヨークを拠点に活動するアーティスト、カウズ(KAWS)ことブライアン・ドネリー(Brian Donnelly)。ディズニーでアニメーターとして働いていたことが象徴するポップな色使いのグラフィティーで早くからその名を知られ、1990年代から現在に至るまでストリートを代表するアーティストとして最前線をひた走ってきた。20年近く第一線で活躍する間、表現方法は平面的なものから彫刻やトイなどの立体物まで広がり、それに応じて扱う素材は絵の具やスプレーからブロンズ、ウッド、アルミニウムに、サイズも数十cmから数十mと多様になり、柔軟な発想力でさまざまな作品を生み出してきた。

 そんな彼が先日日本で発表したのは、アクリル絵の具で描いたペインティングでもブロンズ製の彫刻でもない、全長40mを超す巨大なビニール製のバルーン作品だった。これは目が×印のカウズの代表的なキャラクター「コンパニオン(COMPANION)」の巨大作品が“世界中を旅する”というコンセプトのプロジェクト「カウズ:ホリデイ(KAWS: HOLIDAY)」の一環で、2018年7月に韓国・ソウルで初開催され、その後19年1月に台湾・台北、19年3月に中国・香港とアジア3都市で巨大コンパニオンを展示。そして、4都市目の開催地として静岡が選ばれた。仕掛けたのは、香港を拠点とするクリエイティブスタジオのオール ライツ リザーブド(All Rights Reserved以下、ARR)。ARRのクリエイティブ・ディレクターを務めるエスケイ・ラム(SK LAM)は、香港随一のプロデューサーとしてカウズをビジネス面で支える一方、長年の友人でもある。

 展示初日の7月18日、開催地の「ふもとっぱらキャンプ場」でカウズとエスケイの2人に話を聞く機会を得ることができた。普段は多くを語りたがらないカウズだが、自然溢れる富士山の麓で気心知れたエスケイとのインタビューということもあってか、終始リラックスした状態で静岡での開催理由から、今後の「カウズ:ホリデイ」の展開、アートとファッションの関係までを語ってくれた。

WWD:まずは2人が一緒に仕事をするようになった経緯から教えてください。

カウズ:エスケイ、君が話してくれ。僕は覚えてないから(笑)。というのは冗談で、ずっと前からお互いに知っていてグループでプロジェクトを進めることはあったんだ。でも初めてちゃんと一緒に仕事をしたのは2010年10月に香港のハーバーシティーで行った展示「パッシング スルー(PassingThrough)」かな。

エスケイ:それから幾度となく仕事をしているけど、「パッシング スルー」はもう10年も前になるのか……光陰矢の如しだね。

WWD:長年ビジネスパートナーである中で、18年から「カウズ:ホリデイ」をスタートしたきっかけは?

エスケイ:たしか17年11月にカウズから、「興味ある?」ってメッセージと寝っ転がったコンパニオンのスケッチが急に送られてきたんだ。とにかくクレイジーなスケッチだったから驚いたんだけど、面白そうだったから協力することにした。それが「カウズ:ホリデイ」の始まりさ。そのスケッチは今じゃどこを探しても見つからないんだけどね……。

カウズ:2人で何か別のプロジェクトの話をしているときに何となく思いついた気がするけど、僕らのプロジェクトは全部こんな感じでスタートしているんだ。思いついたプロジェクトをとりあえずエスケイに投げておくと、彼はそれを形にしてくれるんだ。君も“エスケイ的な存在”をつくっておくといいよ(笑)。にしても初開催のソウルが1年前だなんて信じられないね。最近いそがし過ぎるせいか大昔に感じるよ。

WWD:なぜソウルを初開催の地に選んだのでしょうか?

エスケイ:特に計画していたわけじゃないんだけど7月に披露したいと思っていて、スペースやさまざまな条件で開催場所を絞っていたらソウルの関係者が興味を示してくれた。だから本当に意味はなくて自然な流れで決まったんだよ。

WWD:4都市目の開催地を東京ではなく静岡のキャンプ場に決めた理由は?

カウズ:エスケイと僕のチームとみんなで相談して、最初は富士山の麓でやる案を前提に、きれいだからって理由で山を背景にした湖にコンパニオンを浮かべることを構想していたんだ。でも現実的に厳しくて、代わりにキャンプ場でやるアイデアを思いついたんだ。キャンプ場であれば当初考えていた湖よりは東京から近いし、周りにキャンプする人がいた方が楽しくてつながりも感じられるかなって。

エスケイ:ソウル、台北、香港と回ってきた経験を生かしつつ他都市とは違う新鮮味がほしくて、人々がシリアスな気分になる都会的な場所よりもリラックスできる場所で開催したいと思ったのさ。

WWD:都会的な他3都市とは対照的な、言ってしまえば田舎の場所を選んだ理由が疑問だったのですっきりしました。

カウズ:前回の香港を筆頭に、テーマが“ホリデー”なのに開催期間中はめちゃくちゃいそがしくて疲れたんだ(笑)。だから意識的に自然の中で開催したいって気持ちがあったんだよ。

WWD:今回のコンパニオンは「カウズ:ホリデイ」としてだけでなく自身としても最大の作品ですね。

カウズ:これに関しては、エスケイと彼のチームが本気で魔法使いだと思っている。コンパニオンはそこまで複雑な作りのキャラクターでもないし、今回の作品は表面的にはすごくシンプルに作られているように見えるんだけど、シンプルなものこそ中身や過程が複雑で、そのすごさは全て裏側に隠されているんだ。素材はビニールで空気で膨らませるバルーンタイプなんだけど、ブロンズ像や木造に比べて移動や設置が楽なのがいいところ。でも風など自然環境にはめっぽう弱くて、それが予想できなくて難しかったね。

エスケイ:ソウルと香港の作品もバルーンタイプで、サイズはソウルが28mで香港が37m。今この2つは香港の倉庫で保管しているよ。

WWD:これまではアジア圏での開催でしたが、ほかの都市や地域での開催は計画していますか?

カウズ:「カウズ:ホリデイ」は「次はどうしよう、次もやらなくちゃ」ってプレッシャーを感じずにやることが目標みたいなものだから、もし機会があってそれが面白そうで、プロジェクトに新たな面を加えてくれるようなものだったら喜んで開催するよ。でもエスケイはしばらく休みたいと思っているんじゃないかな(笑)。