宮前義之「イッセイ ミヤケ」デザイナー。1976年東京都生まれ。独学で服作りを始めた高校時代に三宅一生と出会う。文化服装学院卒業後、2001年に三宅デザイン事務所に入社。12年春夏から「イッセイ ミヤケ」のウィメンズデザインを手掛ける PHOTO BY MAYUMI HOSOKURA
宮前義之「イッセイ ミヤケ(ISSEY MIYAKE)」デザイナーは2001年にイッセイ ミヤケに入社し、12年春夏に「イッセイ ミヤケ」ウィメンズのデザイナーに就任した。14年春夏に、イッセイ ミヤケが開発した蒸気で布を縮めて服を作る革新的なスチーム製法を応用した“スチームストレッチ”を発展させた“3Dスチームストレッチ”を発表し、プリーツの固定概念を覆した。
そして今シーズン、「まるでパンを焼くように生地を焼いて膨らませる」ことから名付けられた新しいプリーツ“ベイクドストレッチ”を披露した。誰も思いつかないような画期的な製法で生み出し、見る者を驚かせた。そのコレクション発表直後のバックステージで宮前は、シーズンのコレクション発表直後のバックステージで「『イッセイ ミヤケ』のデザイナーになり、『守るべきものは何か』と考えた結果、アイデンティティーであるプリーツの進化だと思った」と語っていたのは印象的だった。革新的なプリーツはどのようにして生まれるのか?東京・代々木公園にあるデザインオフィスを訪ねた。
“通常の製法プロセスとは違うプリーツへのアプローチを考えたら可能性が見えた”
“3Dスチームストレッチ”を取れ入れた「イッセイ ミヤケ」2014年春夏コレクションから
「デザイナーとして『イッセイ ミヤケ』を継続していくこととは何かを考えました。ブランドを守りながら、何を変化させていくか。何かを変えれば当然リスクが生まれるけれど、変えていかなくてはいけない。突然、レストランのメニューが変わったら驚きますよね。その感覚に近いと思う。従来のものと新しく提案するもの、そのバランスを掴むのに数シーズンかかかりました」。
「イッセイ ミヤケ」は多くの顧客を持つブランドだ。「当初は変えたいという気持ちもあった。その答えのひとつはプリーツをやめること。何かをやめてイメージを変えるのは簡単です。プリーツではない新しいものを提案すれば、変わったと思われる。実はデザイナーに就任して最初のコレクションでそれをやりました。でも何か違和感があった。本当にプリーツをやめていいのか自問した。とはいえ、プリーツに変わる絶対的な何かもなかった。そこからプリーツに真剣に向き合いはじめました」。
1980年代からプリーツを研究してきた同社では、大半のことは過去に誰かが取り組んでいるから、なかなか新しいものを生み出すことができない。「苦しんでいたある日、視点を変えることができた」。「A-POC」の考え方がヒントになった。従来の服作りとは根本的に異なるプロセスで作るという考え方だ。「プリーツを新しい製法でできないかを考えたら可能性が見えてきた。ほとんどのプリーツは同じ専用の機械で作られている。その中で『イッセイ ミヤケ』が他社と違うのは、製品の状態で機械に入れているから。でもこのプロセスとは違うアプローチができないかを考えた。そして挑戦したのは、ジャカード織りでプリーツを作ること」。
こうして“3Dスチームストレッチ”のアイデアが生まれた。ただし、タテとヨコにストレッチ糸を入れて熱をかけて縮ませると、生地全部が縮んでしまう。それをフラットにできないかと研究を続け、完成したのが14年春夏の素材だ。その後、「従来のプリーツは直線しかできなかったから」と曲線に挑んだ。立体的なプリーツや色をのせることにも成功し、ここ4シーズンは「何を残し、何を革新していくか」が吹っ切れたようなクリエイションが印象的だった。
“3Dスチームストレッチ”とは?
“スチームストレッチ”を進化させ2014年春夏を発表した直線の“3Dスチームストレッチ”は、その後、曲線、面(立体)へと進化を遂げ、さらに色をのせることが可能になった。この技術は、イッセイ ミヤケが1980年代から素材開発に取り組んできたプリーツと、一枚の布で一着分の服を成型する技術に取り組んできた「A-POC」の製法プロセスに共通する革新性を備えている。タテ糸ヨコ糸の両方にストレッチ糸を用いることで360度全方向に伸縮性がある織りによるプリーツを可能にした。
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「イッセイ ミヤケ」2016年春夏コレクション(c)2015 ISSEY MIYAKE INC
“デザイナーの仕事のひとつは人と人とをつなげること”
イッセイ ミヤケが開発した蒸気で布を縮めて服を作る革新的なスチーム製法を応用した“スチームストレッチ”を発展させた“3Dスチームストレッチ”成功が自信になった。「プリーツの特徴は熱を加えること。“熱を加える”方法はいろいろある。冗談半分で焼いてプリーツができないかと考えた」。たまたまプリント工場に行った時に熱に反応するのりの存在を再発見した。「手法はシンプル。のりをプリントして焼き、生地の膨らみで形を作った」。
とはいえ、さまざまな工場で試行錯誤を続けたがなかなかうまくいかなかった。最終的には従来ののりよりも膨らむように調合した特殊なのりを作り、さらなる実験を繰り返し成功へとこぎ着けた。
「たくさんのブランドがある中で、どう自分たちの存在感を出していくかを考えた時に、デザインとプロセスという自分たちの強みを生かさないとダメ。考え付かないようなものを発明しなければならない」。
(c)ISSEY MIYAKE INC
素材開発は、テキスタイルメーカーの協力なくしては難しい。「僕たちにはパートナーのようなテキスタイルメーカーがいくつかあり、現在進行形で取り組むプロジェクトに加えて、1年先3年先の開発も行っています。1シーズン作って終わりということではなく、継続して開発している。僕が入社してから10年以上経ちますが、一緒に苦労も失敗もしたメーカーの担当者は変わらない。今では、あうんの呼吸です。だから新しいものが生まれるのだと思います。その関係なくして新しい挑戦は難しいし、新しいものを生み出せる自信につながっています」。工場を回り、世間話や失敗談などから新しい素材が生まれることも多いという。「工場の現場でわいわいやっている時が一番楽しい。人をつなげて新しい何かを作っていくのが自分のスタイルなのだと気付きました」。
デザインプロセスについては「まずは素材ありき。自分たちが直感的に美しいと思えるかが大事ですが、面白い生地ができると生地がなりたい形がわかってくる。今回の反省点は、同じ生地をベースにしたからワンパターンになってしまったこと。僕たちは自分たちで生地から作っているので、オーダーからプリント、縫製するとなると最低3カ月かかる。とはいえ海外へのデリバリー年内にしなければいけないから、10月のショー発表前に生地を発注する必要があった。発表して終わりではデザイナーとして無責任。発表したものをどう売るか、までを見越さなくてはならない。いろんな生地でこの技術を試してみたい気持ちもありましたが、増やせばコントロールが大変」。近年の早すぎるファッションサイクルと向き合うのもデザイナーの仕事のひとつになった。
「プリーツは『イッセイ ミヤケ』の最もわかりやすいところ。でもプリーツだけやっているわけではない。一生さんのすごいところは、時代を作ってきたところにあります。その後ろ姿を見てプリーツ以外の新しいものを作り、それが『イッセイ ミヤケ』だねと言われるものを生み出していかなくてはいけないと考えています。簡単なことではないけれど、日々いろんな人々とコミュニケ—ション取り、アンテナを張っていれば何かでてくるのかなと思います。焦らずやっていきたいです」。
“ベイクドストレッチ”とは?
生地に水溶性の特殊なのりをプリントし、高温で膨らませることでプリーツのヒダを形成し、形状記憶する製法。焼き上がった後に水洗いし、のりを落として出来上がり。従来のプリーツのプロセスとは根本的に異なる。この製法を用いれば、文字や複雑な図柄などのモチーフのプリーツも可能になる画期的な技術。
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