ファッション

デザイナーを育てずに業界に未来はない

 2013年にジョナサン・アンダーソン(Jonathan Anderson)が「ロエベ(LOEWE)」のクリエイティブ・ディレクターに就任したとき、英国ファッション協議会(BFC)が出したリリースには驚かされた。リリースを出したのは、日本ファッション・ウィーク推進機構(JFW)に相当する業界団体だ。BFCのキャロライン・ラッシュCEO署名の文章は、アンダーソンがラグジュアリー・メゾンに抜てきされたことを手放しで喜びたたえる内容であり、“優秀なデザイナーがロンドンから出ていってしまう”といったネガティブなニュアンスは皆無だった。

 長年、欧米のファッション・ウイークを取材して学んだことの一つは、“若手を育て、業界も利を得る”仕組みの存在だ。才能はあるが資金はない若手デザイナーを業界団体や教育機関が世に送り出した後は、大手メーカーやラグジュアリー・ブランドが抜てきし、百貨店や専門店が売り出し、メディアが広める。そうやって、資金力が乏しい才能あるデザイナーが成長していく例をいくつも見てきた。イタリア人のリカルド・ティッシ(Riccardo Tisci)と「ジバンシィ バイ リカルド ティッシ(GIVENCHY BY RICCARDO TISCI)」、ベルギー人のラフ・シモンズ(Raf Simons)と「ジル・サンダー(JIL SANDER)」や「ディオール(DIOR)」の関係性もそうだ。

 デザイナーと企業の関係性を図式にすると、左から右、下から上の直線ではなく、互いにメリットを得ながら上っていくらせん状である。例えば小売店は若手デザイナーとコラボレーションすることでクリエイティブな企業イメージにつなげ、成長したデザイナーは抜擢する側に回り、メディアは出世したデザイナーから広告を獲得する。互いに利を得ることを前提に長い目で築いた関係性は、例えるなら不文律の組合のようなもの。いわば“ファッション・シンジケート”である。パリやミラノのファッションウイークはデザイナーがそのクリエイションを披露する純然たる発表の場であると同時に、この“ファッション・シンジケート”の関係性を強固にするためのツールでもある。

 シンジケートは国境を越えて築かれている。パリやミラノと比べて存在感が希薄なロンドンは、英語圏の強みを生かして、世界から優秀な才能を集めて育成することをブランディングにつなげている。冒頭のアンダーソンと「ロエベ」の関係はその象徴的なストーリーだ。

 残念なことに、グローバルな“ファッション・シンジケート”に入り込んでいる日本の企業やデザイナーはごく一握りだ。そもそも、現在の日本のファッション業界には、“若手を育てて相互に利を得る”という発想に乏しく、協業が誕生しても単発で終わるケースが多い。先日、パーティーの席で、ある大手アパレルメーカーのトップから聞いた一言が頭に残っている。「われわれメーカーがデザイナーを育ててこなかった。そのツケが回って来ている」。売れ筋追随と利益率優先のモノづくりで、デザイン・生産を外部に丸投げしてきた結果、社内にデザイナーが育たなかったと懺悔をした。恐らく、これは今も多くのアパレルメーカーに共通する課題だろう。

 何を今さら、と悪態をついても何も生まれない。今からでもデザイン力奪取のための手を打つべきである。デザイン力を育てないファッション企業に未来はない。デザイナーもメーカーも小売りもメディアも、極論すれば業界の一つのパーツ。業界が強く発展するためには企業や団体にはパーツをつなぎ、シンジケートを創るリーダーシップが求められるだろう。

次ページ:そごう・西武は“ファッション・シンジケート”をけん引するか?▶

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