ファッション

若いエネルギーがオートクチュールを動かす

 7月3〜7日まで2016-17年秋冬オートクチュール・コレクションがパリで開催された。そのオートクチュールに森英恵以来、12年ぶりに日本人として「ユイマナカザト」のデザイナー、中里唯馬がゲストメンバーとして参加し、公式スケジュルのトップバッタを務めた。実績がない中でショーを発表するにあたり、パリ・クチュール組合に幾度も書類を提出し、面接をするなどの審査を受けたという。中里がビジョンとして掲げたのは、日本のクラフツマンシップと最先端のテクノロジーをフランス、ひいては世界に示したいということだった。さらには、今後、日本とパリの両軸でモノ作りを考えており、そのための足掛かりとしての発表でもあった。中里は6年前から“ホログラム”と呼ぶ、オーロラのように輝くPVCの素材の開発を日本のメーカーと一緒に取り組んで来た。その“ホログラム”でできたピースを約100人の手で何個もつなぎ合わせてドレスを作った。まさにテクノロジーとクラフツマンシップを融合させたコレクションだ。この6年間で“ホログラム”を何度もブラッシュアップさせ、集大成ともいえるタイミングで披露できたことは大きな収穫だっただろう。彼の得意とする3Dプリンターを使った技法では、今回、人工の腕を作り、服に付けてモデルに歩かせた。体までオーダーメードできる未来を想像して作ったというその腕は、半分が人間の肌で半分は透明で、まるでアンドロイドのようだ。

 すでにレディー・ガガやファーギーといったアーティストのコンサート衣装を提供しているが、世界のエンターテインメントやショービズ界でのさらなる進出を目指すにあたり、一人一人の体や仕事の内容に合わせて服を作ってきたからこそ、オートクチュールへの参加を決意した。彼は今後、レディ・トゥ・ウエアとオートクチュールの中間にあたる、自分の好みにカスタマイズできるサービスを提供したいという。限られた世界の人のためだけではなく、一般の人にも提供できるオートクチュールだ。テクノロジーの進化で汎用性を高め、価格を下げたオートクチュールを近いうちに実現させたいという。今年31歳。勝負はまだまだこれからだ。

[rel][item title="【ルック】「ユイマナカザト」2016-17年秋冬オートクチュール・コレクション" href="https://www.wwdjapan.com/collection/look/yuimanakazato/2016-17-fw-haute-couture-collection/" img="no" size="small" font="large"][/rel]

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[rel][item title="【ルック】「ヴェトモン」2017年春夏パリ・コレクション" href="https://www.wwdjapan.com/collection/look/vetements/2017-ss-paris-collection/" img="no" size="small" font="large"][/rel] 一方、中里と同じアントワープ王立芸術学院出身で「ヴェトモン」のヘッドデザイナーであり、「バレンシアガ」のアーティスティック・ディレクターを兼任するデムナ・ヴァザリアもゲストメンバーとして参加した。他のブランドが16-17年秋冬コレクションを発表する中、「ヴェトモン」の17年春夏コレクションを披露した彼は、中里の2つ上の学年だ。「オートクチュール期間にこんなには7熱気を帯びたショーはないのでは」と業界関係者が話すほど「ヴェトモン」のショーはプラチナチケットになり、会場前はごった返していた。従来のコレクションの発表時期や発表スタイルに一石を投じ、通常営業しているギャラセレリーラファイエットのフロアでショーを開催し、17ブランドとコラボレーションしたコレクションを披露するなど、意表を突いた仕掛けだ。表面的な見方をすれば話題作りの“テクニック”のように感じるが、今回それだけ多くのブランドとコラボしたのも、自分たちの顧客のクローゼットがトレンドの服で埋め尽くされたり、単なるベーシックなアイテムだけになったりしないよう、各ブランドのコアアイテムを自分たちのフィルターにかけてデザインしたという。一つのブランドがショーをすれば、全てのコーディネートが自分たちのブランドの服になってしまうのは当たり前だが、それすら払拭し、まるでブランドミックスのように自分たちのやり方でショーをするスタンスや、今やトレンドをけん引している彼らがトレンドを嫌っているのも面白い。中里もヴァザリア率いる「ヴェトモン」も「あくまで自分たちが目指す事を発方向に進むだけ」という実直さを感じた。

[rel][item title="【ルック】「エルメス」2017年プレ・スプリング・コレクション" href="https://www.wwdjapan.com/collection/look/hermes/2017-pre-spring-collection/" img="no" size="small" font="large"][/rel] また今回のオートクチュール期間中、「エルメス」が初めて2017年プレ・スプリング・コレクションをメディアに披露した。それは、アーティスティック・ディレクター、ナデージュ・ヴァンヘ=シビュルスキーの意向を反映したものだという。弊紙でプレ・コレクションの重要性が増している記事を掲載したが、プレ・コレクションもメーンコレクションも自分にとっては同じくらい重要であり、つながるストーリーがある。であるならばメディアに披露してもよいのでは、という考え方だ。実際にクチュール期間にプレ・スプリング・コレクションを発表するブランドが増えている。多くのメディアがパリに訪れている期間に見てもらおうというのは自然な流れだ。

 “若い”ということで言えば、オートクチュール・コレクションに来場する顧客も、若返りが見られる。主に中国やロシア、アラブ諸国のソーシャライトたちは、派手に着飾り友だち同士で撮影したり、ショの様子をiPhoneにおさめたりして拡散している。

 自分の気持ちの向かうままに舵を取る。そんな自由な感覚によって、クチュールのみならず、コレクション自体のあり方やスタイルが今後ますます変わっていきそうだ。

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