
中⾼⽣のためのファッション育プロジェクト「フューチャー・ファッション・インスティテュート」(FUTURE FASHION INSTITUTE 以下、「FFi」)は、 「ファッション育」を通じて⼦どもたちの感性を磨き、未来の業界を担う⼈材や、センスを活かして働く⼒の育成を⽀援する。所属する中⾼⽣メンバーは、展⽰会訪問や業界⼈へのインタビューを重ね、⾃らの体験を発信。こうしたポジティブな循環を通じて、⼦どもたちが「未来の⾃分」を思い描き、夢に近づくことを⽬指す。
業界トップのプロフェッショナルの話を伺うプログラムとして、今回は「FFi」メンバーのはるとさん、瑛亮さん、サエさんの3人が、スタジオジブリの立役者である映画プロデューサー・鈴木敏夫さんと、その娘で作家の鈴木麻実子さん、またオンラインサロン「鈴木Pファミリー」メンバーの皆さんと共に映画「耳をすませば」について語らう機会を得た。

訪れたのは、ジブリファンの聖地、れんが屋。麻実子さんが運営するオンラインサロン「鈴木Pファミリー」では敏夫さんをゲストに迎え、「父と娘の映画談義」と称するお題の映画について語り合う場をオンライン上で定期的に開催する。「中高生に一流の体験を、将来を変えるような刺激のある体験を」という「FFi」のコンセプトに共感してくれた2人の協力で、今回のプログラムが実現した。
世界的プロデューサーをはじめ、テーマとなった「耳をすませば」の主題歌「カントリーロード」の作詞を手掛けた麻実子さん、ジブリと鈴木敏夫さんの熱烈なファンであり、映画プロデューサーや企業人として活躍する3人の「鈴木Pファミリー」メンバーの皆さんに直接、映画の感想から自分たちの進路についてまで伝えるという、貴重な時間となった。
まずはオンラインで事前ミーティング
プログラムはまず、当日の5日前に行われた麻実子さん、鈴木Pファミリーメンバー3人とのオンラインでの事前ミーティングからスタート。ジブリ作品のファンであるという中高生3人も、「耳をすませば」を直前に観返し、当日伝えたい感想や質問を共有した。Xスペースでの配信があるため、視聴者がいる「番組作り」という視点で進行や段取りを学ぶことも、初めての経験となった。
聖地・れんが屋で、いよいよ本番
そして迎えた当日、緊張を隠せない様子の3人とれんが屋へ。足を踏み入れると、メディアでたびたび見かけたこともあるスペースには、アンティークれんがの壁面にジブリ作品のポスターが飾られ、貴重な資料やコレクションが所狭しと並ぶ宝箱のような空間だった。
敏夫さんが登場すると、一瞬中高生の顔に緊張感が走ったものの、柔らかい物腰と気さくに話しかける人柄のおかげで一気に笑顔に。「鈴木Pファミリー」メンバーと麻実子さんが配信の準備を進め、敏夫さんを中心にソファに腰かけ、プログラムがスタートした。
同時配信も行われた本プログラムでは300人超のファンが、Xスペースで「耳をすませば」について鈴木敏夫さんは中高生に何を語るのか、中高生は何を感じたのかを視聴した。
31年前の作品に見る、
変わらないものと変わったもの

まずは「鈴木Pファミリー」メンバーの恭平さんによる、「耳をすませば」の感想から。「風景だけではなく温度、匂い、五感が動かされる作品だと感じた」という感想に、中高生も聞き入る。今の中高生が知らない文化がぎゅっと詰まっているという指摘もあったが、続けて感想を述べた同メンバーの町田さんからは、「公開されて31年経つ作品であるが、共感するポイントや、逆に時代を感じたポイントは?」と中高生へ質問が投げかけられた。
「FFi」メンバーは、それぞれ「ものの配置や家具、家電、団地の雰囲気は今とは違うと感じた」「図書カードとかは今はない」など現代とは違うところを指摘したが、一方で、「主人公の雫が物語の中で自分のやりたいことを見つけていく姿に共感した」という声も上がった。町田さんはさらに、心情表現がとてもていねいな作品だと感じたことや、空の描写が雫の気持ちの変化とリンクしている点が印象的だったことを語り、「FFi」メンバーもうなずく場面があった。 また、同じく「鈴木Pファミリー」メンバーのトモさんは、小学生の時に「耳をすませば」に出合ったことで、バイオリンを始めるという大切なライフワークができたと、自身にとっていかに大切な作品かを語った。そして、雫となぞらえて、家族以外の大人との出会いの重要性とともに、「今日3人にとってこの場で敏夫さん、麻実子さんに会ったこともみんなの財産になる」と伝えてくれた。
ものづくりの裏側を知る
「物語」が感動を生むということ

話題は、物語の中盤で描かれる、聖司がバイオリンを作る工房のシーンに。敏夫さんが明かしたのは、このシーンの制作にあたって、宮崎駿監督が実際にバイオリン職人のもとを訪ね、話を聞いたというエピソードだった。本来、職人が語っていたのは「良い音を出せる木材の希少性」についてだったというが、宮崎さんはそれを「同じ木を使っても、作る人によって音色は変わる」という、技術と人にまつわる物語として描いたという。「現実にある話を、物語として描くことで、あのシーンは感動的になるんだよ」と語る敏夫さんに、中高生たちも真剣な表情で聞き入った。
「将来、物語を書こうと思ったら、多くの人に話を聞くことになるだろう。でも、そのまま書いても案外面白くないこともある」「やはり人が大事なんですね」という言葉は、実際にこれから創作活動を志す可能性がある彼らに、大きなヒントになった。
世界的プロデューサーから
直接自分への言葉をもらう機会

会話が進むにつれ、話題は中高生それぞれの内面へと向かっていった。単に映画の感想を聞くだけでなく、敏夫さんは参加した3人の言葉に1つひとつ耳を傾け、その先にある悩みや迷いに、自身の経験を交えた言葉を返してくれた。
小説家を目指し、今年から執筆を始めたというはるとさんは、聖司がイタリアへ修行に旅立つ場面が2つ描かれることで、雫との別れが2回ある理由を尋ねながら、自身も書き始めてすぐに行き詰まり、何を書けばいいか分からなくなった経験を敏夫さんに打ち明けた。敏夫さんは、「中学を出て高校に行かない」という劇中の設定について、はるとさん自身がどう思うかを問いかけた。
「高校には行ったほうがいいのかな、と思った」と正直に答えると、敏夫さんは重ねて「作家デビューできるとしたらどうする?」と質問。「それなら高校はやめる」と即答したはるとさんに、敏夫さんは「その2カ月で本気でいけるかを試したんだ」と、劇中の設定に込められた意図を明かしながら、覚悟を持って選ぶことの意味を伝えた。
小説を書くことに憧れながらも「嘘も創作なら自分には無理だ」と感じたというサエさんが、その思いを正直に打ち明けると、敏夫さんは「真実に興味がある人は研究者になりなさい。将来こうなりたいと思うことがあっても、自分がどういう人なのかを考えてから選んだ方が良い」と、進路への向き合い方を語った。劇中に登場する図書カードについて、サエさんは「司書の先生に聞いたら何十年も前のものだと分かって、親近感がわいた」と自身の体験を披露。主題歌「カントリーロード」は、小学生時代の通塾中や今も通学中、「変わらず励まされている」曲であると語り、ストーリーの鍵となる、この曲の歌詞を作詞した麻実子さんに、熱い思いを伝えた。
瑛亮さんは、作品の中盤における雫の焦りやコンプレックスに共感したと話し、他人と比べず自分のペースで進路を考えたいという思いを敏夫さんに伝えた。すると敏夫さんは「魔女の宅急便」のキキと「耳をすませば」の雫を例に挙げた。一見似たタイプのヒロインに見えるこの2人だが、「聖司も雫も目標を持って生きている。でもキキは、こういう人になろうと選んだ仕事じゃない、なりゆきで働いているんだ」と、実はまったく異なるキャラクターであることを解説。目標をもって一歩ずつ進むタイプと、流れに身を任せるタイプがいるという話は、瑛亮さん自身の、他人と比べず自分のペースで努力を積み重ねていきたいという思いと重なるものだった。
その後も、雫とお姉さんの部屋のモデルや、宮崎駿監督と「耳をすませば」の近藤喜文監督の描くキャラクターの違い、恋愛でわかる日本の文化など、具体的なエピソードを交えた敏夫さんの貴重な話に、参加した3人も興味津々だった。
天才の裏にある、地道な努力

そして敏夫さんが「耳をすませば」の中で、特に見てほしい場面として挙げたのが、エンドロールに映る土手のシーンだった。多くの人々が歩いたり走ったりする、あらゆる人物の姿が描かれるこの場面について、「観察した経験がある人じゃないと、あの絵は絶対に描けない」と敏夫さん。女学生の歩き方、犬の歩き方まで、細部にわたる観察眼がこのシーンには詰まっているという。
その観察力は、宮崎監督が長年かけて培ってきたもの。宮崎監督は、井の頭公園に通い、通る人々を毎日スケッチし続けたという。高校1年から大学1年にかけての地道な積み重ねが、あのエンドロールの絵につながっている。世界的なクリエイターであっても、その原点には地道な努力があったという事実に、中高生たちも真剣な表情で耳を傾けていた。
「これからどう生きるか」を考える時間に
「風の谷のナウシカ」「天空の城ラピュタ」など数あるジブリ作品のなかでも、ファンタジーではなく、地続きの現実世界が舞台の「耳をすませば」。当時の10代のリアリティーを描き出したこの作品は、時代が変わった今も中高生たちの悩みや葛藤に静かに寄り添う。
映画の感想を語り合うだけにとどまらず、世界的に活躍する鈴木敏夫プロデューサーや麻実子さん、「鈴木Pファミリー」のメンバーから直接言葉をもらい、自分自身の将来と向き合う。「中高生に一流の体験を」という「FFi」のコンセプトそのものを体現した、得難い体験となった。
参加した学生のリポートから
「鈴木さん親子や『鈴木Pファミリー』の皆さんがとてもやさしく、緊張せずに臨む事が出来ました。また、レンガ屋の空気感を体験でき、とても貴重な体験だったと思います。トークの中で鈴木さんが仰っていた宮崎駿監督のエピソードや、物語を作る上で一番重要なことなど、たくさんのためになる話を話してもらい、とても良い勉強になりました」(はると・高校1年)
「今回の貴重な体験を通して、ジブリ作品への好奇心や愛着がさらに深まりました。鈴木敏夫さんから、作品にまつわる貴重なエピソードや制作者ならではの視点を伺うことができ、とても楽しく、心が躍る時間となりました」(瑛亮・高校1年)
「鈴木敏夫プロデューサーの話を聞いて、アニメ業界には自分が考えるスタンダードな考え方でなく独創的な考え方をする人たちがいると感じました。主人公の雫と同じように自分の進路に悩んでいても、やりたい事は好奇心や興味も持って取り組んでいくことを学びました。また、自分は受け身になりがちなので、何事にも積極的に生活していきたいです」(サエ・中学2年)
TEXT:CHINATSU KAIBARA
PHOTOS:RYOTARO TANI