「グッチ(GUCCI)」はこのほど、イタリア・フィレンツェにあるアーカイブ収蔵施設「パラッツォ セッティマンニ(Palazzo Settimanni)」の限定公開を開始した。
5月15日(現地時間)に披露された2026年クルーズ・コレクションの会場にもなった「パラッツォ セッティマンニ」は、ブランド創業の地であるフィレンツェの街を東西に走るアルノ川の左岸、オルトラルノと呼ばれるエリアに位置し、もともとは15世紀に宮殿として建造された。その後、時代と共に増築や改築、用途変更を重ねる中、1953年に「グッチ」が取得。長らく工場やアトリエ、ショールームとして使用され、1995年には当時クリエイティブ・ディレクターを務めていたトム・フォード(Tom Ford)が手掛けたメンズコレクションのランウエイも開催された。だが、2018年に当時のマルコ・ビッザーリ(Marco Bizzarri)社長兼最高経営責任者と、アレッサンドロ・ミケーレ(Alessandro Michele)=クリエイティブ・ディレクターの主導のもと、アーカイブを収蔵する施設に一新されることが決定し、ブランド創設100周年の21年6月に完成した。
建物全体は地下1階を含む5層立てで、1990年代に増築されたファサードの庇をはじめとした近代的な装飾は、2018年からの修復時に全て撤去した。これにより、17世紀後半のフレスコ画や18世紀のトロンプルイユ(壁画の一種)などが楽しめる空間に。なお、その修復作業にはフィレンツェの地元の職人が起用されたという。
施設内には、4万6000点以上のアーカイブが収蔵され、資料やルックブック、編集記事など、物理的なアイテムとデジタルデータの両面から振り返ることができる。これらはテーマ別に展示され、例えば1階にある白鳥のフレスコ画が描かれた“スワン(the Swan)”と名付けられた部屋には、初代“バンブー 1947(Bamboo 1947)”、“ジャッキー 1961(Jackie 1961)”、“1955 ホースビット(1955 Horsebit)”の3つのアイコンバッグが並び、年代や素材ごとの進化を辿ることができるそうだ。
また、同階の別の部屋では1966年にモナコ王妃グレース・ケリー(Grace Kelly)のリクエストで制作されたシルクスカーフ“フローラ(Flora)”にフォーカス。“フローラ”は、創業者の息子ロドルフォ・グッチ(Rodolfo Gucci)に依頼されたイラストレーターのヴィットリオ・アッコルネロ・デ・テスタ(Vittorio Accornero de Testa)が、トスカーナに咲く花々と15世紀の画家サンドロ・ボッティチェッリ(Sandro Botticelli)の作品に着想して誕生。43種類の花々が37色によって描かれ、それぞれの色は全て別工程でプリントされるというクラフツマンシップが光る作品で、歴代のクリエイティブ・ディレクターたちが再解釈してきた。そして、“フローラ”だけでなくアッコルネロ・デ・テスタによる58点の水彩原画も展示されている。
さらに、現在では“GGモノグラム”として知られるダイヤモンドパターンが初めて落とし込まれた1930年代のヘンプ製スーツケースをはじめとしたトラベルアイテム、乗馬ブーツ型の小さなライター、ペーパーナイフ、シェービングセット、美容道具、裁縫キット、デスクセット、万年筆、磁器のティーセット、携帯用のフラスコなど、数え切れないほどの品々が並ぶ。
ステファノ・カンティーノ(Stefano Cantino)最高経営責任者(CEO)は、同施設を「帰属意識の場所」と呼び、「1世紀以上にわたる創造性、クラフツマンシップ、革新の生き証人であり、『グッチ』のルーツと未来、歴史と情熱、美と創造性が常に重層的に交差する場所」と説明。続けて、あるイタリア人訪問者の放った「文化、ファッション、美、歴史が、これほどまでに完璧な調和で共存している場所は見たことがない」という言葉が、同施設のバランスを端的に表していると話した。
「アーカイブは、継続的なリサーチと更新を通じて形作られている。ここは、単なる過去の保管庫ではなく、メゾンのコードが保たれ、対話を通じて再解釈されていく“生きた空間”だ。そして、常に新たな視点で『グッチ』の多面的なアイデンティティを浮かび上がらせるため、展示内容は定期的に変わる。決して静的なものではなく、全てのオブジェクトが未来へ進む物語の一部なのだ」(ステファノ・カンティーノ)
なお「パラッツォ セッティマンニ」は現在、フィレンツェにあるファッションスクール、ポリモーダ(Polimoda)とミラノにあるボッコーニ大学の学生、顧客、著名人、ガイド付きツアー、メディアらは入館することができるが、一般公開はされていない。その理由について、カンティーノCEOは「親密な空間であり、時間と配慮、感情を必要とする場だ。だからこそ、情熱を持つ研究者や真の愛好家にのみ門戸を開く。『グッチ』の心臓部に足を踏み入れることは、“買う”のではなく、“得る”ものなのだ」としている。