キリンホールディングス(以下、HD)は、ヘルスサイエンス事業の成長戦略の一環で、アジアパシフィック地域への進出を目指すビジネスモデルを構築する。2024年11月に同HDの傘下に入ったファンケルと23年8月に傘下入りしたオーストラリア発の健康食品企業ブラックモアズとともに、国内でのブランド力強化とそれを活用したグローバル展開を推進。アジアパシフィック最大級のヘルスサイエンスカンパニーになることを目指す。
キリンHDの吉村透留取締役常務執行役員兼ヘルスサイエンス事業本部長は「ファンケルに、国内でのブランド力の強化とそれを活用した海外での成長戦略の実行、ブラックモアズに対して、ヘルスサイエンス事業のグローバル展開をけん引することを期待する」とし、「3社各々の成長と統合効果でヘルスサイエンスカンパニーになること」をグループの目標に掲げた。
ヘルスサイエンス事業のキーとなるのがキリンが展開するプラズマ乳酸菌事業だ。プラズマ乳酸菌関連製品は、飲料、サプリメント、ヨーグルトなどさまざまな形で展開する“免疫ケアシリーズ”が大きく伸長している。今後は国内での基盤を盤石なものにしつつ、ブラックモアズの販売機能を活用して海外展開を進める。25年3月の台湾進出を皮切りに、豪州、タイ、ベトナムなど、毎年展開エリアを増やす予定だ。
グローバル市場では、サプリメント、健康関連の食品と飲料、スキンケアをアジアパシフィックを中心に広く展開する。各ブランドのポジションをエリアやカテゴリーで棲み分け、日本、豪州、中国、東南アジア市場におけるマーケットリーダーの地位の確立を目指す。特に、3社の各ブランドが基盤とする市場でのサプリメント、スキンケア事業の成長に注力する。
日本では、キリンとファンケルの両ブランドを活用し、幅広い顧客へのアプローチとチャネル特性に合わせたアプローチ強化で付加価値を創出。業務プロセス共通化による販売機能の強化やバックオフィス機能の統合を推進する。キリンとファンケルが協働する内外美容の取り組みは、現在話し合いを重ねている最中だ。両社の技術や素材、資源を活用して製品やサービスを開発してマーケティングを実行し、国内で発売した後にグローバルでの展開も検討する。
24年のヘルスサイエンス事業の事業損益は、協和発酵バイオの事業譲渡に伴う譲渡損失や一時費用の計上が主要因で、109億円の赤字だった。「25年はいよいよヘルスサイエンス事業の初の黒字化を実現し、成長軌道に乗せていく重要な1年。全員で強い意志を持って進めていきたい」と吉村取締役常務執行役員は話す。追い風が吹くヘルスケア市場でそれを上回るトップライン成長を推し進めながらコスト削減も追求し、25年の事業損益は37億円の黒字化、30年には売上高が3000億円規模、事業利益が300億円以上を目指す。
ファンケルは化粧品と健康食品の両方で
「より選ばれるブランドへ」
ファンケルの三橋英記社長は25年を「より顧客に選ばれるブランドにする年にしたい」と話した。そのために注力するトピックスとして、ブランドマーケティングカンパニーへの変革、海外需要の成長シナリオの策定・実行、中長期構想の策定・基盤整備の着手の3つを挙げた。
24年度は、紅麹問題や中国市場の苦戦で成長は鈍化したものの増収増益を達成し、化粧品事業も前年を上回った。新スキンケアライン「トイロ(TOIRO)」や美容液“コアエファクター”のリニューアル製品が好調に推移。「アテニア(ATTENIR)」の“スキンクリアクレンジングオイル”が「アットコスメ」の年間総合大賞を受賞するなど話題性にも富んだ。
健康食品事業は、24年10月に発売した“プレミアムカロリミット”が好調に推移し、シリーズ全体の売り上げ伸長に貢献した。「紅麹問題以降一時落ち込んでいたが、定期購入の顧客数もその前と同水準に戻ってきた。一旦、個人に端を発した顧客離れはおおむね戻ってきたと考えている」(三橋社長)。
25年度は「ブランドマーケティングカンパニーへの変革」を最優先課題として取り組む。キリンの情緒的なブランドマーケティングの知見や人材を積極的に導入し、「これまでとは違うレベル」でのブランド力強化にスピード感を持って取り組む。化粧品と健康食品ともにグローバル展開も進める。
化粧品事業は、「肌不調を解消するファンケル」というポジション確立に注力する。強化ポイントは基礎スキンケアと洗顔。「トイロ」に40〜50代向けの製品を投入し、自社のコア年代のさらなる獲得を狙う。洗顔は、特に洗顔市場で最も規模が大きいクリーム剤形を開拓し、市場での存在感を強める。チャレンジ領域として、メンズスキンケアやベビー・キッズの領域は引き続き注力する。
健康食品事業は、プレシニア層と女性にリソースを集中し、「健康サポート企業」としてのブランド価値向上を目指す。人口のボリュームゾーンではあるが、ブランドの顧客における構成比が低い55〜64歳のプレシニア層を獲得することで、顧客の拡大を図る。パーソナライズした処方組み合わせを提案するサプリメントサービス「パーソナルワン」の認知獲得を強化し、「ファンケルがいかに顧客に寄り添ってるかを象徴的する製品」として育てていく。プレシニア層向けの取り組みは、既存の「えんきん」「楽ひざ」の販売強化を継続し、高齢化や老化対策の大型製品発売で、新規客の獲得と定着化を目指す。
海外事業は、中国市場を中心に事業強化を行いながら、グループリソースをフル活用して伸長を目指す。中国では、健康食品事業で投資の選択と集中を行い、着実な売り上げ拡大を図る。投資するアイテムは、7から5製品に絞り込む。代理店の人脈を活用し、キーオピニオンリーダー(以下、KOL)を採用。ライバーツアーなども実施し、KOLとの関係性強化を図る。
「アテニア」は、これまで越境ECで中国に展開していたが、25年度中にECとオフライン店舗の両軸で市場におけるプレゼンス拡大を図る。オフライン店舗の売り上げは越境ECの約5倍を予定する。