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スティル・ハウス・プランツ インタビュー 感性と相互研鑽が紡ぐボーダレスな音楽とは

昨年9月、実験音楽、オーディオビジュアルアート、パフォーミングアーツを紹介するプラットフォーム「モード(MODE)」は、実験音楽イベント「モード アット リキッドルーム(MODE AT LIQUIDROOM)」を、恵比寿リキッドルームで開催した。

今回は日野浩志郎率いる5 人編成のリズムアンサンブル、ゴート(goat)と、ロンドンを拠点に活動するエクスペリメンタル・ロックバンド、スティル・ハウス・プランツ(Still House Plants)のダブルビル公演が実現。

スティル・ハウス・プランツは、ボーカルのジェス・ヒッキー・カレンバッハ(Jess Hickie-Kallenbach)、ギターのフィンことフィンレイ・クラーク(Finlay Clark)、ドラムのデヴィッド・ケネディー(David Kennedy)から成るスリーピースバンド。2013 年にスコットランドのグラスゴー美術学校で出会った3人は、それぞれ視覚芸術を専攻するかたわらで音楽制作を始めた。ジャズやソウル、ポストロックのムードが漂うフレキシブルなサウンド、劇的でメロディアスな歌声、リスナーの自由な想像力を誘う詩など、独自の音楽性が世界的に注目を集めており、昨年4月に3作目となるアルバム「If I Don't Make It, I Love U」をリリースした。

多彩な感性のメンバーが織りなす楽曲は、制作からライブを経て何度も演奏するうち、各パートの役割や内包されるイメージ、言葉の意味が変容し進化していく。「モード」の公演のため来日した彼らに、音楽性やクリエイティビティーの背景について話を聞いた。

アートを学びながら自然な流れで始めた音楽活動
感覚的なプレイを生かした制作プロセス

ーーバンドの結成について。3人は同じグラスゴーのアートスクールで出会ったそうですが、それぞれ絵画や写真を専攻しながら、音楽の道へと進んだ経緯について教えてください。

フィンレイ・クラーク(以下、フィン):音楽学校に行きたくて、何校か見学しましたが、いずれもピンと来なかったんです。近い考えを持った人たちと過ごしたいと思っていましたが、音楽学校はそういう場所ではないと感じて、アートスクールに行って楽器をやろうと考えました。絵画コースは絵を描くことが必須ではなく、自由度が高いと聞いていたので、音楽も作れるんじゃないかと。結果的に最適な選択でした。そこでデヴィッドに出会ったんです。

ジェス・ヒッキー・カレンバッハ(以下、ジェス):私は写真や映像を専攻しましたが、フィンに出会って、すぐに一緒に音楽制作を始めました。最初は気軽なノリで自宅で音楽を作っていて、長時間の演奏を通して自分たちのサウンドを探求していました。

フィン:僕は、自宅のベッドルームで制作した音楽作品を、絵画コースの課題として提出していました。CD に録音した音楽の断片や、演奏している様子を撮影したビデオなど。自分にとってこれは絵画でもあると考えていました。

ジェス:ライブ活動を始めてから、演奏の度に次のライブの依頼をもらうようになりました。楽しみながら音楽活動を続けていただけで、音楽の道でキャリアを築こうと、あらためて決意したことは一度もないんです。信頼する友人やコラボレーターと一緒に音楽制作に取り組めて、気がつくと夢中になっていました。

フィン:グラスゴーの音楽シーンのコミュニティーはとても協力的です。僕らが拠点にしていたグリーン・ドア・スタジオには刺激的なミュージシャンが集まっていて、そこで出会った人たちと一緒にツアーをしたり、車でイギリス中を回ったりもしました。アートについて学ぶかたわらで、音楽活動にも意義を見出していました。

デヴィッド・ケネディー(以下、デヴィッド):僕は子供の頃からドラムを演奏していましたが、15 歳の時にドラムとの関わり方が分からなくなってやめたんです。その後アートスクールに進学しましたが、学校ではドラムを演奏するつもりはありませんでした。でもフィンたちと知り合ってからは、自然とまたドラムを叩くように。ここ数年で、自分は本当にドラムが好きなんだと気づきました。一度ドラムから離れて良かったと思います。多くの経験を経て、新しい視点を持ってドラムに戻ってくることができたので。

ーー初期のアルバムでは各人の演奏をサンプリングした音源を使ってコラージュのように制作した作品が印象的です。最新アルバムはどのように制作を進めたのでしょうか。

ジェス:以前はメンバー3人が離れた場所で生活していたので、各々の演奏を録音した音源を細切れに分割して、サンプリングのように切り貼りして作曲せざるを得ませんでした。卒業後、パンデミックの最中に全員別々のタイミングでロンドンに引っ越したんです。3人揃って演奏できるようになると、あらゆる方法での曲作りが可能になりました。ダンスミュージックから着想を得たり、ドラムとギターの関係性について探究したり、ヴォーカルループを使ったり。

以前の作品は過ごした時間の「レシート」のようなものでした。時間もお金もないし、スタジオで作業できるのは1日だけ。でも最新作はアルバム自体がアイデアの集積になっていると思います。

デヴィッド:今回のレコーディングでは、幾度となく演奏を重ねるうちに演奏したフレーズを忘れていってしまうので、あとで振り返って確認できるようにリハーサルをすべて録音していました。結果的にそれが作曲プロセスの一部になったんです。聴き返していると「ああ、ここに拍子の変化があったんだな」などの気付きがありました。

最新のアルバムはソリッドな構成になっていますが、当初から意図したわけではなく、自然に任せてできた音楽を洗練させ、最終的に全体をまとめあげたんです。

ジェス:自然で感覚的な作業方法が、プロセスの重要な一部になる。後になって初めてそのことに気付くんです。

フィン:このアルバムを作っていた時、スタジオの壁に「もう少し余白のある曲が必要か?」とか「もっとスローな曲が必要か?」など、自問自答のメモを大量に貼り付けていました。ギターのパートに関しては、自分が楽しく弾けることや、シンプルさと複雑さのバランスに重点を置いています。

自他の創造性を刺激する、余白を残した表現の探究

ーー詩で表現しようとしている内容について教えてください。

ジェス:歌詞で一番大切にしているのは、自由に解釈できるようオープンであること。詩的な発想や哲学的な概念というより、会話の中でふと口にするような内容が多いです。ストーリーを語ることにはあまり興味がありません。

言葉の断片を切り取り、サンプリングすることで何らかのイメージが構築されたり、同じ言葉を反復するうちに意味が変化していったりすることがあります。勝ち誇ったようなニュアンスの言葉でも、繰り返すことで悲しみや寛大さを帯びていくことも。ベーシックなダンスミュージックをサンプリングするとしても、ロマンティックなフレーズを繰り返すことで月並みな響きから誠実な響きに変化していったりします。サンプリングが好きなのはそのためです。

特定の友人や人間関係についての曲をオープンに書いてきたので、歌詞もロマンチックなものが多いかもしれません。ほかにも魂の探求をするような歌詞や、何気ない会話のような言葉など、あらゆる要素を織り交ぜています。

ーーサウンドからは、ミニマルで独特なリズムを基盤に、3人が調和を探っているような印象を受けます。影響を受けたアートや音楽があれば教えてください。

ジェス:それぞれが好きな音楽は多岐にわたっています。共通点も違いもあるのが面白いところです。楽曲にはドラムンベースの要素を取り入れていますが、デヴィッドは、ソースダイレクト(Source Direct)やオウテカ(Autechre)を引き合いに出し、音楽におけるドラムという要素や、ドラムンベースという音楽形態についてよく話をします。

デヴィッド:ジャングルやドラムンベースなどのUK ダンスミュージックの良さは、ドラムが、単にリズムを刻むだけにとどまらず、時に物語を語り、感情を表現し、ボーカルパートのような役割を果たすところ。私たちのバンドも、ドラム、ギター、ベース、ボーカルが固定的な役割を演じるのではなく、すべてが混ざり合い、入れ替わり立ち替わり異なる役割を演じていきます。

フィン:私たちのバンドは、自分たちが一旦作り上げた曲の形を、引き算のようなプロセスを経て、徐々に変化させていきます。その観点でアプローチが魅力的なのは“オープンな楽譜”を書いていた実験音楽家アンソニー・ブラクストン(Anthony Braxton)や、シンプルな構成の中に非対称の長いフレーズがあり、その上にループ音が重なるフランスの現代音楽作曲家オリヴィエ・メシアン(Olivier-Eugène-Prosper-Charles Messiaen)です。

ジェス:特定の楽曲に直接影響を受けるのではなく、インスパイアされるとしたらアーティストの独創的なアプローチや姿勢の部分ですね。

ーー即興的な要素はありますか?

ジェス:即興で曲を書くというよりは、ジャムセッションの要素の方が強いです。お互いの演奏を目の前で見られるのがジャムの良いところ。演奏をすべて録音し、各々のパートを学び、覚えていく。するとそこに存在するパターンや変化、注意すべきポイントが見えてきます。

また、お互いのパートに対して、各自がアイデアを加える余地を常に残しています。ミスや違い、変化を受け入れる余地を作るのは重要で、それが自ずと楽曲や作曲手法に反映されていくと考えています。

フィン:ジャムを何度も繰り返しながら、ライブ本番までに形になっていきます。ひとつの曲が次の曲へと移行するチェックポイントのような部分もフレキシブルにしているんです。

ジェス:セットリストは演奏のベクトルを示す"矢印"のようなものですね。

ーーこれまでにバイソンレコーズ(bison records)やロンドンのカフェ オト(Cafe OTO)、ニューヨークのブランク フォームズ(Blank Forms)など、実験的でインディペンデントな姿勢を貫くレーベルから作品をリリースしています。彼らに共鳴したポイントは?

ジェス:私たちにとって、インディペンデントな人たちと協働するのは重要なこと。一緒に仕事をする相手と対話してお互いをよく知ることができれば、共感性の高いアイデアを持ってきてくれて仕事につながるんです。

フィン:カフェ オトやブランク フォームズも僕らの活動を見て連絡をくれて、素晴らしいリリースの提案をしてくれた。最初に作品をリリースしたバイソンレコーズも良きパートナーです。

ジェス:大切なのは、アーティストとして自分の作品をコントロールできること。私たちは幸運にも、最初のカセットテープをリリースしてくれたグラーク(GLARC)を含むパートナーたちとの仕事を通して、自律性を保ちながらサポートを受けられる基盤を見つけられたんです。アート作品のような見開きジャケットの特別版LPなど、素晴らしい作品をリリースできたのは最高の経験でした。

音楽とファッションの関係性について

ーー「モード」は、「音楽、アート、ファッションが垣根を超えて自由に融合し、成長する」ことを理念のひとつとして掲げています。ジェスさんは「キコ コスタディノフ(KIKO KOSTADINOV)」×「リーバイス(LEVI’S)」のキャンペーンにもモデルとして登場されていますね。

ジェス:「キコ コスタディノフ」×「リーバイス」のキャンペーンは、私たち姉弟のように容姿が似ている2人に同じ服のスタイリングをして、着こなしにどんな違いが出るかを撮りたいというコンセプトで、私と弟にモデルとして声がかかったんです。バンドとは関係なく、あくまでモデルとして参加しただけなので、自分の音楽的なクリエイティビティーを発揮したわけではないですが、コラボコレクションのアイテムが魅力的だったので、関われて嬉しかったです。

人は、音楽やファッションを通してアイデンティティを追い求め、自分がこの世界でどうあるべきかを考え、その方法を築き上げていく。ファッションだけでなく、音楽やアートにおいても、自分の嗜好やスタイルに固執するという点では、ある意味“部族的”なものだと思います。でも「モード」が提唱するように、ファッション、音楽、アートをミックスすることによる相互作用や変化は、そこに新しい意味や発見をもたらすと思います。

ーーミュージシャンにとって、ファッションは自身のプレゼンスを表現する方法のひとつだと思います。ファッションに関する“信条”はありますか?

ジェス:今回のアルバムに「1日に1000回着替える」というニュアンスの歌詞の曲があります。着ているものが少し変わるだけで、自分が強くなったと感じたり、鎧を身にまとって守られているような気分になったりすることってあるなと思うんです。

フィン:以前はカラフルな服を着ていたこともあるけど、最近は基本的にシンプルで作りが良い、色味を抑えた控えめな印象の服を着まわすことが多いです。朝の時間は色々なことを考えずリラックスしたいので、食事も自分が好きなものを繰り返し食べることが多いです。

デヴィッド:ぼくは、自分に合うものを見つけようと努力したり悩んだりしてきましたが、結局、服はあくまで服であり、何を着てもいいんだと考えるようになりました。

ーー楽器についても、サウンドはもちろん、佇まいがそのミュージシャンの印象を左右するという意味で、ファッションの要素を含むように感じます。フィンさんのギターは特に色がユニークですね。

フィン:このギターはイーベイ(eBay)で買って、自分でパーツを探し集めて組み合わせたものです。シルバーの塗装の上にグリーンが塗られ、それをやすりで削ってあり、とても美しい。ペグの形も良いし、ネックの形も60年代のスタイルに近い感じで気に入っています。青と緑の中間の色味が好きで、以前もシーフォームグリーンのフェンダー・デュオソニックを使っていましたが、ネックが折れてしまって。その後に手にした、このトレモロアーム付きのフルサイズのデュオソニックが僕らの音楽を変えたんです。

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