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特集 CEO2025 ビューティ編

【ポーラ・オルビスホールディングス 横手喜一社長】個×個から生まれる化学反応に期待

PROFILE: 横手喜一/社長

横手喜一/社長
PROFILE: (よこて・よしかず)1967年東京都生まれ。一橋大学社会学部卒業後、1990年4月ポーラ化粧品本舗(現ポーラ)入社。2006年フューチャーラボ社長や11年宝麗(中国)美容(ポーラ瀋陽)董事長兼総経理を経て、15年からポーラ執行役員商品企画部長、16年1月にポーラ社長に就任。20年1月ポーラ・オルビスホールディングス取締役グループ海外展開担当などを経て、23年1月から現職 PHOTO : SHUNICHI ODA

紛争や中国経済の低迷など不透明な時代の中でビジネスを遂行するには、スタッフ一人一人の自己理解の深化が必須とし、ポーラ・オルビスホールディングスの横手喜一社長は人材育成に徹する。1月1日付で実施した子会社のポーラ、オルビス、ディセンシアのトップ交代は個々の可能性を広げ、企業の進展を引き起こす一歩となる。

グループ内交流を積極化

WWD:一人一人が持つ思いやこだわり、強みなどを最大限引き出すA Person-Centered Managementを重視する。

横手喜一社長(以下、横手):組織の慣習や業界の常識が通用しない時代に入り、社会や生活者の変化も大きい中で、過去の成功例をなぞる事業のあり方は意味がなくなる。従来にない思いや観点で物事をとらえる必要がある。その元になるのは個が持つ課題認識や問いかけなどの内発的動機付け。それをどう吸い上げてエンパワーメントしていくかが自分の役割だと思っている。

WWD:それを具現化した一例が子会社のトップ交代の人事となる。

横手:ファッションメゾンのデザイナーは3〜5年で交代し、新たなデザイナーがブランドの歴史を再解釈し進化させている。それと同様に経験を積んできた人材に、別のステージに活躍の場を移してもらう。今回、オルビスの社長経験者がポーラの社長に就任、ディセンシア社長経験者がオルビスの社長に就いたが、ぶつかり合いや意見交換があるかもしれない。しかしそこに新しい問いや掛け合わせが生まれるはずだ。これはグループ全従業員にも当てはまることで、さまざまな環境を経験してもらい最適解を見つけてもらいたい。

WWD:グループ内の交流も積極的に実施する。

横手:自分自身もポーラ、フューチャーラボ(16年に売却)、中国の現地法人を経験したことが強みとなっていることもあり、さまざまなグループ横断研修を実施している。幹部クラスが対象の「ビジネス変革塾」や20〜30代の「未来研究会」などを実行してきたが、24年は新入社員を対象とした研修を開始した。従来の枠組みの中ではなく新しい価値観に触れて成長してもらうのが狙いだ。新卒採用に関してもこれまでの子会社ごとに加え、ホールディングス採用も始めた。来春は5人程度入社する予定で、各子会社に数年単位で横断配属し各種ビジネスモデルを経験してもらう。多様なビジネスモデルに触れながらキャリアを積むことは経営者育成にもつながるだろう。

WWD:子会社をどう捉えているのか。

横手:それぞれターゲットとするお客さま像がある。ポーラは美容意識が高く、感受性が豊かで自分の人生を楽しんでいる人から支持されている。ポーラではデジタルカルテを導入したが、カルテを確認すると購入商品のリストはもちろんだが日々の生活に関する会話の内容が記載してあるケースも。販売スタッフとのやりとりを見ていると“お客さま”というより“生活者”と捉えるべきと感じている。彼らの生活を豊かにするサポート役を果たすべきだろう。オルビスは人生で初めて出会うワクワクとドキドキを楽しみたい人に向けて商品やサービスを提供する。24年にドラッグコスメ市場に参入したのもその一環だ。1987年の創業時からの愛用者が1000人以上おり、約200万人の会員を有す。ワクワクの裏側にある繊細な感受性を持つお客さまに手を差し伸べる。アクロは都市生活を送る中で、本来人が持つエネルギーを植物の力で活気づけたいと感じている人に向けて、精油を活用しながら商品やストーリーを伝えていく。

WWD:海外市場については。

横手:ジュリークは現状厳しい状況下にあるが、今後3年で中国と香港、オーストラリア市場で基盤を固め収益性のある体制を構築していく。ポーラは、これまで中国のショッピングモールなどに出店してきたが、25年は富裕層に軸足を向ける。富裕層が住むマンションの近隣に隠れ家的なサロンを開設するなど生活圏に寄り添っていく。富裕層に人脈を持つオーナーを起用し、お客さまファーストの接客を徹底する。こうしたサロンを年内に展開する予定だ。

WWD:4年後に迎える創業100周年に向け、新たな地固めが進んでいる。

横手:売上高は年平均成長率約5%を見込むなど数値目標を達成するのはもちろんだが、当社らしさの再定義をグループ全体で自分事化してもらうことに注力する。A Person-Centered Managementや人と人との掛け合わせなど大切にしている価値観や姿勢を再解釈すると将来が見えてくるだろう。実務的なことでは、既存の化粧品事業だけでなく、美容医療事業などにも取り組み始めている。90年以上肌と心と体のメカニズムを研究してきたデータの蓄積を生かし、社会課題の解決やウェルビーイングの実現など新しい領域を開拓していく。

WWD:未来に掲げる可能性は?

横手:人の可能性に尽きる。人が成長する、経験する、重なり合う、掛け合わさることで生まれる化学反応を期待している。

実現の可能性はゼロじゃない私の夢

『取材で自分の出番がなくなること』

子会社の社長はそれぞれユニークで個性的。各社長が手腕を発揮し、それが報じられることで統率するホールディングスからの発信は不要だと「WWDJAPAN」から言われたい。

COMPANY DATA
ポーラ・オルビスホールディングス

基幹ブランドを展開するポーラは1929年創業。2006年に純粋持株会社のポーラ・オルビスホールディングスを設立、10年上場。「ポーラ(POLA)」「オルビス(ORBIS)」を中心に「ディセンシア(DECENCIA)」など多様なブランドを展開し、個々のブランドが持つ独自性を生かしてターゲットにアプローチするマルチブランド戦略をとっている


問い合わせ先
ポーラ・オルビスホールディングス
03-3563-5517