ファッション

「手仕事は世界に誇れる日本の強み」 有松で400年続く伝統技術の未来を担うスズサン5代目が語る

PROFILE: 村瀬弘行/スズサンCEO兼クリエイティブ・ディレクター

村瀬弘行/スズサンCEO兼クリエイティブ・ディレクター
PROFILE: 1982年愛知県名古屋市生まれ。英国のサリー美術大学を経て、ドイツのデュッセルドルフ国立芸術アカデミー立体芸術及び建築学科を卒業。在学中の2008年にデュッセルドルフでsuzusan e.K. (現Suzusan GmbH & Co. KG)を設立。自社ブランド「スズサン」をスタートした。14年に法人化した家業のスズサン(旧鈴三商店)を4代目の父から継承し、20年から現職。現在もデュッセルドルフで暮らしながら、デザインや有松でのモノづくりを監修している

名古屋市有松で400年以上続く伝統技術である有松鳴海絞りを生かしたアイテムを提案する「スズサン(SUZUSAN)」は6月29日まで、ドイツ・ベルリンを代表するセレクトショップのアンドレアス ムルクディス(ANDREAS MURKDIS)でイベント「ハンズ・イン・ジャパン(HANDS IN JAPAN)」を開催中だ。同イベントは「スズサン」のウエアやホームアイテムと共に、モダンな感性と日本の伝統技術を掛け合わせた12ブランドの手仕事を感じる製品を展示・販売するもの。開幕に合わせてベルリンを訪れた村瀬弘行最高経営責任者(CEO)兼クリエイティブ・ディレクターに、「スズサン」の歩みやイベント開催のきっかけから日本の伝統技術に対する思い、そして、これからの夢までを聞いた。

興味がなかった家業を継ぐ気になった理由

「小さい頃から布に囲まれて育ったので、日本にいた時は家業に興味がなかった」と明かす村瀬CEO兼クリエイティブ・ディレクターは、もともと職人である父の後を継ぐつもりはなく、アーティストを志して英国に留学。その後、ドイツに移り、デュッセルドルフ国立芸術アカデミー立体芸術及び建築学科で学んだ。「ある時、父が英国で『ニッティング&スティッチング・ショー(The Knitting & Stitching Show)』(消費者向けのテキスタイルイベント)に招待され通訳として同行し、そこで現地の人たちが有松絞りに強い興味や関心を示す姿を目の当たりにして衝撃を受けた。また、別の機会にコンテンポラリーアート界の有名ギャラリストであるビクトリア・ミロ(Victoria Miro)に有松絞りの生地を見せたところ、とても気に入り、たくさん購入してくれた。その時に感じたのは、日本の伝統工芸はヨーロッパにおけるコンテンポラリーアートと同じレベルになりうるということ。そこで、コンテンポラリーアートをやりたい自分の気持ちと家業である伝統工芸という、かけ離れていると感じていた2つがつながった」と振り返る。

そして、経営学を専攻していたドイツ人のルームメイトが、たまたま家に置いてあった有松絞りの布を気に入ったことから、一緒にデュッセルドルフで起業。5枚のスカーフから、スズサン初のオリジナルブランド「スズサン」をスタートした。ただ、最初から順風満帆だったわけではなく、ヨーロッパ各地のセレクトショップにアポ無しで飛び込み、説明してまわったという。その時、最初に買い付けてくれた店の一つが、アンドレアス ムルクディスだった。

世界を知るデザイナーの発想と日本の職人技術の融合

今回のイベントのきっかけになったのは、2022年にパリのギャルリー・ヴィヴィエンヌで開かれた名古屋市主催の伝統産業海外マーケティング支援プロジェクト「クリエイション・アズ・ダイアログ(Creation as DIALOGUE)」のイベントだった。村瀬CEO兼クリエイティブ・ディレクターは、世界を知るデザイナーの新しい発想と名古屋に根差す伝統的な手仕事を結び付け、海外での販路開拓を目指す同プロジェクトのクリエイティブ・ディレクター兼統括コーディネーターを務めており、自身でバイイングをしているアンドレアス・ムルクディス=オーナーのことも招待。アンドレアス ムルクディスでは、もともといくつもの日本ブランドを取り扱っていたが、会場でムルクディス=オーナーはモノづくりの背景や技術に感銘を受けたという。

「クリエイション・アズ・ダイアログ」では、「ボッテガ・ヴェネタ(BOTTEGA VENETA)」でバッグデザイナーを務めていた古川紗和子、「ヴァン クリーフ&アーペル(VAN CLEEF & ARPELS)」などでジュエリーデザイナーのキャリアを積んだ名和光道、建築事務所ヘルツォーク&ド・ムーロン(HERZOG & DE MEURON)出身のダイスケ・ヒラバヤシの3人を起用し、伝統工芸を手掛ける10社の職人をマッチング。革新的な新製品開発に取り組んだ結果、仏壇製作のノウハウを生かした木製のバニティーボックスや、モダンアートのような配色で仕上げられた漆塗りの燭台と香立て、七宝焼きのジュエリーなどが生まれた。それらに加え、今回の「ハンズ・イン・ジャパン」では、長野の山翠舎によるブランド「サンスイ(SAUSUI)」の解体された古民家の木材を使ったオブジェや、東京の廣田硝子によるあぶり出し技法を用いたグラス、線香の生産地として知られる淡路島の薫寿堂がパリ拠点「サノマ(CANOMA)」と共同制作したインセンス(お香)などもラインアップする。

海外からの視点で見る日本の伝統工芸

村瀬CEO兼クリエイティブ・ディレクターがこういったイベントに携わる背景には、「なくなってしまう寸前の日本の伝統的な手仕事を、次世代につなげたい」という熱い想いがある。「日本には経済産業省に指定された『伝統的工芸品』が241もあり、本当に手仕事が盛んな国。そんな国は他にはほぼなく、世界に誇れる日本の強みだと思う。しかし、その多くは、次世代の後継者がいなかったり、現代的に表現する方法を知らなかったりという課題に直面している。15年前は自分の家業も同じような状況で職人は父一人だったが、今では若者も含め職人が19人にまで増えた。お金も経験もコネもなくゼロからスタートした『スズサン』での自分自身の経験を他の伝統工芸にも生かしたい」。

その経験から語るのは、「日本のクラフトは“メード・イン・ジャパン”と声高に主張しがちだが、その必要はない。手に取ってもらうきっかけは美しい色や心地よい手触りなどでいいと思う。けれど、背景にある伝統技術やストーリーを異なる文化背景を持った人に理解してもらうのは工夫が必要」ということ。「日本の伝統工芸の多くは上質で美しく、それを生み出す職人は素晴らしい技術を持っている。一方、彼らはある意味、井の中の蛙のようでもある。もちろん、長年同じものを作り続けている職人たちが自分たちの作品や製品を“世界一”だと考えるのは当たり前だ。しかし、いかに優れた製品であっても、職人たちが自分たちの立場で考えて『良い』と思う伝え方や見せ方は、必ずしもベストではない。海外市場においては、伝統的な使い方がフィットしないことも多い。外からの客観的な目線が必要だ」。そういった意味で海外を拠点にするメリットは大きく、「自分が入ることで、海外で受け入れられる方法やアイデアを日本の伝統工芸にもたらすことができると思う」と続ける。

「世界の人に日本の職人のもとを訪れてもらいたい」

「スズサン」の取扱店舗は現在、パリのレクレルール(LECLAIREUR)やミラノのビッフィ(BIFFI)といった有名店をはじめ、世界29カ国120店。そのうちの65%はヨーロッパ、15%は北米、日本は15〜20%程度だといい、海外市場でしっかりとブランドを確立していることが分かる。また、村瀬CEO兼クリエイティブ・ディレクターは、昨年からイベント「東京クリエイティブサロン」にも関わっており、その一環で参画企業の羽田未来総合研究所と共に海外からVIPゲストを招へいして、地方の工房や工場を巡るツアーも企画した。そんな彼は、今後をどのように見据えているのか?

「この15年は日本の伝統文化を世界に打ち出していくことに注力してきた。次の15年は世界のユーザーを有松に迎えるような取り組みに力を入れていく。今計画しているのは、ローカルツアーを組むこと。海外から現地に足を運んでもらい、ワークショップや郷土料理などを通して、地域に根差した伝統文化やモノづくりに触れてもらいたい。製品を作ったり売ったりというだけでなく、体験による人間らしいコミュニケーションを通して、顧客と職人のつながりを生み出していけたらうれしい」。作り手と使い手、昔ながらの伝統と未来の可能性、そして日本と海外をつなぐ架け橋としての挑戦はこれからも続く。

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