ファッション

初の個展を開催 トモ・コイズミに聞く「アートは完全でない答えを探す活動」

小泉智貴(コイズミ・トモタカ) / 「トモ コイズミ」デザイナー プロフィール

1988年千葉県生まれ。千葉大学に在学中2011年、自身のブランドを立ち上げる。12年千葉大学卒業。19年に米ニューヨークで初のファッションショーを開催。同年毎日ファッション大賞選考委員特別賞受賞。20年LVMHプライズ優勝者の一人に選ばれる。21年東京オリンピック開会式の国家斉唱の衣装を手掛ける。21年毎日ファッション大賞受賞。23年美術家として初の個展を開催 PHOTO:TAMEKI OSHIRO

トモ コイズミ(TOMO KOIZUMI)」のデザイナーである小泉智貴の個展が12月9日、東京・天王洲テラダアートコンプレックス内のYUKIKO MIZUTANIでスタートした。テーマは、「ファッションとアートの境界線」。8日に開催された内覧会では、ギャラリーをクローゼットに見立てて小泉がモデルに自作のアート作品を着せるというパフォーマンスを行った。アーティストとして初の個展を行う小泉に話を聞いた。

WWD:アートに取り組んでみようと思ったきっかけは?

小泉智貴「トモ コイズミ」デザイナー(以下、小泉):大学で美術を勉強したが、20代の頃は、自分が作家になるとは想像していなかった。全て、ファッションの肥やしになればと思っていた。10代の頃から服づくりをしてきて、20代で衣装を手掛けるようになり、今は国内外でファッションデザイナーとして仕事をしている。趣味を持ちたいという思いが周期的に巡ってきて、油絵をやろうと絵の具を購入したこともある。でも波があるので、なかなか続かない。約1年半前にNHKの「あさイチ」にファッションデザイナーとして出演した際に、YUKIKO MIZUTANIのオーナーである水谷有木子さんから「アートで何か表現をしてみないか」と声が掛かった。それが自分の周期とぴったり合った。ギャラリースペースを借りて2022年7月ごろから絵画を始めた。アーティストとしてステートメントを出すには、1から勉強しなければならない。キャンバスに絵を描くといっても一朝一夕では、自分らしいものはつくれないと実感した。自分にしかつくり出せない美があるはずだと試行錯誤しながら制作を続けて、ある意味、自分の原点に戻った。開き直ったといってもいいかもしれない。アートは自分にとって、日々勉強。未来に向けてつくれることをシリアスに考える機会ともいえる。

WWD:アートとファッションにおける表現方法の違いは?

小泉:根本は同じ。ファッションは人が着る前提で機能性が必要。アートは着ても着なくてもいい。ドレスと絵の中間といったようなもの。ファッションのように制限がある方が楽かもしれない。アートは何でもありなので、そこに難しさがある。キャンバスの枠に収めようとか、木枠を取ろうとか試行錯誤しながら、自分の中にある固定概念を取り払う必要がある。

説明できなくてもいいのがアート

WWD:アート制作を始めてからの気づきは?

小泉:作家としての活動をファッションに生かせると思う。アートに関わるようになって、説明できなくてもいいと確信できるようになった。説明的なものはつまらないと明確に思えるようになった。

WWD:テーマは「ファッションとアートの境界線」だが、境界線とはどのようなものか?

小泉:ファッションは産業の一つで消費するもので、いくら素晴らしくても、アートに対するほどのリスペクトはない。アートは永遠に残すべきものとして、リスペクトを持って扱われるが、本当に全てのアートがそうなのかと思うこともある。アートとファッションに同じ価値があっても、ファッションは正当に評価してもらえないと感じる。私は、同じ労力だったらアートもドレスも同じ価格にすべきだと考える。京都服飾文化研究財団(KCI)で展示などをすると、とても貴重な洋服なのに、触る人がいるようだ。布だから触りたくなるのかもしれないが、洋服だってアートのように触っていいものとそうじゃない貴重な作品がある。この個展でも、作品に触る人が出てくるんじゃないかな?

アートは完全でない答えを探す活動

WWD:ファッションとアートの融合や相乗効果についてどう考えるか?

小泉:ファッションの良い部分は、情報などの広がり方が早いこと。すぐに消費されて終わらないように気をつけながら、ファッションが持つポップさを上手く利用するとすぐに広まる。同時に、ファッションは2カ月半で全く違うものが求められる。一方アートは、長い目で見てもらえる。同じ作風でもいい。ものづくりへの余裕が感じられるし、成長を見越して見てもらえる気がする。アートでは、今のベストを表現してみる。そしてそれを進化させ続けて、完全でない答えを探すようなものだと思う。ファッションの場合は、プロダクトだから、失敗した形跡があるとだめ。アートの場合は完璧さが重きではなく、もっと俯瞰的に見てもらえる。ファッションデザイナーにはクリエイティビティーが求められるが、つくり出すものや働き方は1つの方法しかないという気がする。産業として大量につくって売るというのは、しっくりこない。アート活動を通してデザイナーとしての違う活動スタイルができればと思う。24年は、ファッションのコラボレーション等のプロジェクトはあるが、アートに専念するつもりだ。25年には、アート活動を通して得た濃厚なアイデアを元にファッションショーをしたい。余裕を持って活動することで、本当にいいもの、人の心に残るものがつくれると思う。アーティストとして私が活動することに対して、半信半疑の人もいるだろう。でも、2つ以上の分野で成し遂げる人もいるから、自分もできると信じてアートとファッション活動をしていきたい。

2024年はアート活動の土台になる年に

WWD:ファッションとアートのコミュニティーの違いは?

小泉:ファッションのコミュニティーはスピードが早くエキサイティング。ただ、消費のスピードに飲み込まれることなく自分とクリエイティビティーをどう守るかが難しい。アートは、まだコミュニティーに入り込めていないが、スピードがゆっくりな分、難しさもある。私が手掛けるのはテキスタイルアートで、どう価値をつけていいかわからないという反応もある。日本でテキスタイルアートというと、伝統工芸という文脈で捉えられるケースが多い。そこも難しい点だ。制作を続けて、美しさ=価値であるということを理解してもらうことが大切だと思う。

WWD:来年アートに専念するそうだが?どのような活動をしたいか?

小泉:23年はファッションのコレクションを2回制作したので忙しかった。今回の個展をきっかけに、スローダウンしてアート活動の土台になるような年にしたい。アートの初心者として、全般的に勉強するつもりだ。世界中の人を対象にアートを見てもらいたいから、国別の傾向や市場についても勉強したい。地元の千葉にアトリエを構えたので、集中してアートの制作に取り組めると思う。制作を続けながら進化したい。5〜10年後には、テキスタイル以外のものもつくれればと思う。

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