TSIの「アドーア」はきょう30日、スパイバー(山形県鶴岡市、関山和秀社長)が開発する人工タンパク質素材“ブリュード・プロテイン”繊維を使った48着限定のコート(27万5000円)を一部店舗・ECで発売した。同日、東京・青山のTSI本社でもお披露目され、記者が試着した。世界初という、ブリュード・プロテイン繊維をぜいたくに使ったダブルフェイス(二重織)コートの実力を、袖を通して体感した。
パターンの妙も相まって
雲のように軽〜い
ブランド定番のノーカラーコートを、ウール繊維(混率70%)とブリュード・プロテイン繊維(同30%)の混紡糸を二重織にしたオリジナルテキスタイルで作った。「アドーア」のパターンの妙か、ふわりと肩に“乗る”感覚で雲のように軽い。
表面は、カシミヤを思わせるぬめり感のあるタッチ。光沢は控え目であからさまな高級感はないものの、美しい落ち感と適度なコシがあり、仕立て映えのする生地だ。ワンサイズのみだが、身長が180センチ以上でやせ型の男性記者でも(袖丈はやや足りないものの)ある程度のゆとりをもって着られた。
ブリュード・プロテイン繊維の
真髄はエレガンスにあり!
「アドーア」の田中宏幸ディレクターは、企画の背景について次のように語る。「近年は工場の関係者から、いくつかの海外の有力ブランドが、ブリュード・プロテイン繊維を使った商品の開発を進めているというウワサを耳にしていました。われわれTSIグループとしても、この流れに遅れをとりたくなかった。ブリュード・プロテイン繊維は水の使用量やCO2の排出量を劇的に抑えながらも、カシミヤと遜色ないリュクスな風合いを実現できる次世代の素材。このクオリティーを感じていただくには、『アドーア』のエレガントなコートがピッタリだと思ったんです」。
ウール×ブリュードプロテインの二重織テキスタイルの開発は、TSIの百貨店ブランドなどで長年取引がある、信頼の置ける工場に依頼した。「開発期間も限られる中で、どんな仕上がりになるかは楽しみであり、不安でもありました。上がってきたサンプルは想像以上の出来ばえでした」「トラックをけん引してもちぎれない、とも言われる強靭さを持つのがブリュード・プロテイン繊維ですが、これからどんな経年変化をするのかはわれわれも未知数です」。購入から5年間は、通常使用に伴う色落ちや破損の修理保証サービスを付帯する。
気になるのはプライス面
安定生産と普及に期待
ブリュード・プロテイン繊維は、2019年にゴールドウインの「ザ・ノース・フェイス」が世界で初めて採用したアウトドアジャケット“ムーン・パーカ”を販売し、大きな話題を呼んだ。その印象から、記者の中でブリュード・プロテインは、テックウエアやアクティブウエア向きの機能糸の印象が強かった。イメージと対極にある、エレガントな婦人服の「アドーア」で採用されたことには驚いたものの、コートに袖を通すとその理由をしっかり感じることができた。
気になるのはやはりプライス面だろう。27万5000円という価格は、定番のラムウール素材を使った同型コート(9万9000円)の3倍近い。そもそも48着限定となったのは、スパイバーのブリュード・プロテイン繊維の生産量に限りがあるため、「そうせざるを得なかった」面もあるとのこと。今後流通量が増え、導入ブランドが増えていけば、もう少しこなれた価格でブリュード・プロテイン素材のアパレルが手に入るようになるかもしれない。今は目新しさが先行するものの、この素材の本質的な魅力が広く消費者に伝わることを期待したい。