(左)imma(イマ)/バーチャルヒューマン
アウ(Aww)に所属するバーチャルヒューマン。2018年にインスタグラム(@imma.gram)を開設し、現在はTikTokやTwitterなどのSNSで発信を続ける。国籍、年齢、性別は非公開。弟は同じくアウ所属のプラスチックボーイ(通称Zinn)。今夏、ファッションブランド「アストラルボディ」を発表した
(右)沙羅・ジューストー/プロデューサー
武蔵美油絵学科を卒業後、海外アーティストを支援するアーティストレジデンスNPOに所属。地域活性化プロジェクトやギャラリーのキュレーター経験を経て、20年にアウに入社。先駆的な女性リーダーとして活躍。インスタグラムは@saragiustoo
2018年に誕生したバーチャルヒューマン・imma(イマ)は、今やファッション&ビューティ業界で最も注目されるバーチャルデルだ。そして先月、immaを手がけるアウ(Aww)が最先端技術を用いた3Dvtuber、美姫仁奈(びきにな)にきび(以下、にきび)を発表した。現在新たなバーチャルヒューマンタレントのオーディションを開催しているほか、immaのファッションブランド「アストラルボディ(Astral Body)」をはじめとした新プロジェクトも続々ローンチする予定だという。そこでimmaとにきび、2人が所属するアウのプロデューサー、沙羅・ジューストーに、バーチャルヒューマンの魅力やその技術、今後の展望について聞いた。
“想像することでしか存在できない”のがバーチャルヒューマン
WWD:アウに入ったきっかけとは?
沙羅・ジューストー(以下、沙羅):元々は武蔵野美術大学で油絵を学んでいて「いつか有名なアーティストになりたい」と思い活動していたんですが、海外のアーティストやNPO団体のイベントに英語通訳アシスタントとして呼ばれることが多くなり。そうしているうちに、アーティストをサポートする側も楽しいと思うようになりました。
その後は、ウルトラスーパーニュー(UltraSuperNew)という代理店が運営するギャラリーのキュレーターを務めました。アートギャラリーというよりかはさまざまなことができるコミュニティスペースのような感じ。そこでイベントを開催し、同時通訳をしている時にたまたまアウのメンバーの目に止まったのがきっかけです。ちょうどimmaの海外プロジェクトが増えてきたタイミングで英語力のあるスタッフが必要だったようで、最初はフリーランスとしてサポートをしました。現在の肩書きは一応プロデューサーですが、正直“何でも屋さん”という感じで代表の守屋貴行と一緒に動いています。投資家の資料や契約書の作成、海外とのパートナーシップは全部私が担当しているほか、メディアに出たり、immaをはじめとしたバーチャルヒューマンのプロデュース、モーションキャプチャースーツを着た最新技術のテストなど。毎日やることが違って、朝起きたら何が起こるか分からないぐらいの刺激があります。
WWD:バーチャルヒューマンの何に惹かれた?
沙羅:前提として、人間の表現力、想像力が大好きなんです。“想像することで存在できる”ーーそれをずっと追求してきた当時の私にとって、アートが一番それを体現できるものでした。たとえば絵の具で描かれた絵画があったとしても、物理的に見ればそれはただの絵の具。それをアートとして見るのは、人間の想像力があるからなんです。
正直、最初はアウに入りたいとは全然思っていませんでしたが、誘われたのをきっかけに3日間くらいずっとimmaのことを考え続けました。人間ではないけど、インスタで人間のような活動をしていて、実際に人間に見えてしまうimmaは、存在しないものを人間が想像したもの。想像することでしか存在できないと考えたら、最終的にimmaもアートなんじゃないか、と思ったんです。そう思ってから、すぐにアウに入ることを決めました。
たとえ技術が進化しても、重要なのはコンテンツ力
WWD:新たに登場した3DVtuber、美姫仁奈にきび誕生の背景とは?
沙羅:immaをはじめとするアウのバーチャルヒューマンは、技術よりストーリーテリングにフォーカスしています。そのためにはプロデュース力とディレクション力が最も大切な軸だなと思っていて。世界にはたくさんのバーチャルヒューマンがいますが、アウのバーチャルヒューマンが大切にしているのは“どれだけリアルに見えるか”より、“どんな風にプロデュースされているか”“何を伝えたくて、どんなストーリーを持っているのか”。“何か面白いことを言っているから、皆その人の話を聞きたくなる”というのと同じ。それが多分バーチャルヒューマンにも当てはまっているんだと思います。だから“見た目がかわいい”とか“リアルに見える”だけではない、特別なコンテンツ力が必要です。
コンテンツ力はずっと大切にしてきましたが、そのコンテンツをリアルタイムで配信するというのはimmaがやってこなかったし、技術的にもできなかったこと。バーチャルヒューマンでストーリーテリングをしたいのにリアルタイムではできず、新たにチャレンジしたい課題でした。またリアルタイム配信の技術を開発する中で、メインストリームになっているゲーム市場に挑戦したいという気持ちが強くなって、にきびが生まれました。
WWD:3DVtuberのリアルタイム配信技術はどのように作られた?
沙羅:3年前の技術でもフル3DCGで動きを連動できていたけど、解像度や表情筋の動きなど、代表が納得するクオリティに達していませんでした。だから毎日新しい技術が出たら次から次へと試して、相性の良いものを探し続ける毎日。その結果、独自のワークフローが見つかって、今はスマホさえあれば動きがトラッキングでき、ハイクオリティなバーチャルヒューマンが自然に動くレベルになりました。生配信ではセンサー付きスーツを着用する必要もありません。独自の技術の組み合わせやワークフローの効率化というのは、きっと他社が真似するのは難しいですね。思い立ったとしても、1〜2年後にやっとできるみたいな感じだと思います。
WWD:先月からリアルタイム配信を始めたが、その反響は?
沙羅:まだウン万人視聴とまではいっていないけど、コアなファンもついてきています。社内のみんなも、個人的に観ても面白いって思っているので、出だしとしては結構良い感じだと思います。毎回にきびが何をするのかわからないので、私も配信が楽しみです(笑)。
最初のうちは「これどうやってるの?」など技術的な質問が多かったんですけど、だんだんとにきび自体をコンテンツとして見てくれるようになっています。いつか技術的な疑問はなくなるだろうし、人の興味をそそるのはコンテンツ力になっていくーー「バーチャルヒューマンだ!」という驚きはいずれなくなって、すぐにアニメのように社会に溶け込む存在になると思います。
世界中で技術の発展が加速している今、どんなコンテンツを作るか、常に臨機応変にピボットしていかないといけません。これはチームで一番意識していることでもあります。
immaがプロデュースするファッションブランド「アストラルボディ」
WWD:最近開設したインスタグラムアカウント「アストラルボディ」とは?
沙羅:immaがプロデュースするファッションブランドをローンチするんです。immaはこれまでにもバーチャルファッションを作っていて、デザイナーとしてインタビューされたこともあります。割と精神的な話になっちゃうんですけど、「アストラルボディ」は「肉体とは別の精神的な存在」を表す言葉で、「バーチャルヒューマンが持つ気配はアストラル体なのではないか」という空想の話がコンセプト。ちょっと宗教チックなんですけど、immaにあってロボットにないものは“気配”で、 その“気配”があるからこそみんな、immaが人間じゃないかと信じるんだと思います。バーチャルヒューマンであるimmaこそ表現できる“気配”というコンセプトから魂やチャクラの話になり、「アストラル体」に辿り着きました。
今回はまずフィジカルのアイテムを発表するつもりです。ファンが人間だから実際に着れるものが良い、というのもありますが、そもそも現実世界の情報量は莫大で、日々私たちが経験しているこの現実世界全てをピクセル化するのはテクノロジー的に難しい。それは服も同じで、着心地や動き、鏡で自分を見た時の感動……これらはまだ、デジタルでは作れないので、ファッションはまだまだフィジカルだな、と思います。しかしフィジカルなアイテムをメインとして出すものの、immaだからこそできるデジタル要素は常に入るので、ぜひ楽しみにして下さい!
バーチャルヒューマンで目指すコミュニティー構築

WWD:今後バーチャルヒューマンでチャレンジしたいことは?
沙羅:immaもにきびも、最終的なゴールは“コミュニティーを作る”ということ。テクノロジーでIPを作る、そのIPをプロデュースしコンテンツを作る、そのコンテンツからファンを作る、そして最終的にそのファンで形成するコミュニティーを作りたい。人間みんな“人と近づきたい”というのが根本にあるから、極論インターネットの目的はコミュニティーなのでは、と思います。だからimmaやにきびのファンコミュニティーなど、色々なバーチャルヒューマンのファンコミュニティーが重なり合って、人と人がお互いに近づく場として大きなバーチャルヒューマンコミュニティーを作れると良いなと思います。
WWD:プロデューサーとして気をつけていることは?
沙羅:コンテンツを作る上で、人間の“やっちゃいけないことをやっちゃう”とか“言っちゃいけないことを言っちゃう”みたいなエゴに面白さがあると思っています。その人間のエゴはまだAIでは再現できないし、ストーリーテリングをする上で大切です。
バーチャルヒューマンを運営する人によって、そのパーソナリティーも変わります。企業や色々な人達とコラボして学んだのは、“型にはめようとするとエゴがなくなってしまう”ということ。会議室で「今月のSNS投稿は何にしよう」みたいな会議をすると、そこにエゴはなくなる。集団が作った公式のような投稿はもう誰も欲していないし、もはや意味がないものになってきているように感じます。そういう広告みたいなやり方は消滅し始めていますからね。だから“お利口さん”になりすぎないということが重要なのです。最近のバーチャルヒューマン業界を見ていると、みんな笑顔で、炎上もしないし、“お利口さん”ばかり。それを変えていきたいなって思います。もちろん差別など人を傷つけることは良くないですが、それ以外はあまり制限するつもりはありません。
バーチャルヒューマンが可能にする“自己表現の選択”

WWD:年齢や性別など、immaのステータスが非公開の理由とは?
沙羅:immaは年齢、性別、国籍、全て非公開なんですよね。人間の性別についても問われている昨今ですが、そもそも「バーチャルの性別とは?」という疑問もある。こういったステータスを持たないことによって、人間が持っているリミットがなくなるのではないかと思います。だからimmaを見ていると、私たち人間よりずっと平等だなと感じます。そして、もしかすると人間より信じられる存在なのかもしれない。
インターネットに出回っている画像だって、そもそも何が本当なのかって話ですよね。正直、会ったことないもないような海外セレブだって、人間かバーチャルヒューマンかわからない。インスタのストーリーではプールで過ごしていても、実際にはベッドでだらけているかもしれません。そうやってみんな、自分の人生をキュレーションしながらSNSに投稿しているんです。私だって自分のインスタに投稿しているような完璧な人生ではありません。人間にはみんな裏表があるから、そういう意味では、ソーシャル上で人間が信じらなくなるような現象が起きているわけです。でも逆にimmaの場合はそこに見えている存在でしかないーー裏表がないから、もはやバーチャルヒューマンは本当の人間より信じられる存在なのかもしれません。
WWD:デジタル技術の発達により真偽が問えなくなった今、真実とは何だと思う?
沙羅:守屋はいつも「信じられるものこそ真実」と言っています。人それぞれ違う真実を持ち、違うニュースを見て、違う現実に生きてるから、彼の「今の真実って馬鹿げてない?」という意義を具現化したのがバーチャルヒューマンみたいな感じなのかな、と理解しています。
私たちはみんなバーチャルという言葉をよく口にしますが、「バーチャルが正義」というよりは「真実を作ろう」という感じが他の会社とは違うところかもしれませんね。伝えたいものがあった上で、その手段がテクノロジーだったというだけ。Vtuberだって、配信するタレントが変わればそのメッセージ性も変わります。人がそのままの容姿で発信するのと、アイドルみたいな顔で発信するのって、同じことを言っても全く伝わり方が違うのと同じです。人の内側にある魂みたいなもののパワーを発揮させる、拡張することが、もしかしたらバーチャルヒューマンにできるかもしれない。
だからこそ、私は「みんなバーチャルヒューマンになれたらいいのに」と思ったりもします。私達人間は今、このフィジカルな世界で、自分というアバターから言葉を発している。だけど自分のアバターは選べませんよね。例えば私の場合、青い髪っていうのは選べるけど、顔立ちや体型を変えるのはハードルが高い。よく「ハーフですか?」「出身はどこですか?」って聞かれますが、私は別にそれを知って欲しいわではないし、勝手に生まれ持ったアバターがそうなっているだけだから、変えられないものって結構残酷だなって思います。そうやって、自分が外に出したくないものも出さなければいけないのが人間です。でもデジタルではそれが関係がなくなるーー他人から見た時に“本当に自分が出したい自分”を100%表現できるものが作れるって、幸せなことだと思います。バーチャル上の“性別もない”“国籍もない”という状況なら、みんなが今苦痛と思っている差別がなくなるかもしれない。見た目を選べる時代が来るというのは、自己表現的としてかなり面白いですよね。