ファッション

改めて読み解く、井野デザイナーが「ダブレット」22-23年秋冬で成し遂げたこと

 2022年もすっかり後半に差し掛かった。ファッション業界では海外主要都市の2023年春夏シーズンのファッション・ウイークが終わり、8月末から「楽天 ファッション ウィーク東京(Rakuten Fashion Week TOKYO)」(通称、東コレ)が始まる。その前に、書き残したいことがあった。私もモデルとして参加した「ダブレット(DOUBLET)」22-23年秋冬コレクションのショーである。発表は1月だったが、店頭に並ぶのは8月のため、この記事を読んで興味を抱いた人は店頭で実物を見てもらえるとうれしい。

車椅子のファッションに
真剣に向き合ったアイテム

 東京2020オリンピック・パラリンピックをきっかけに、マイノリティーな体に関心を持った人は多い。「ダブレット」のデザイナー、井野将之さんもその一人だ。昨年の秋頃、井野さんから「車椅子の人に服を作りたい」と私のところへメッセージが届き、そこから私と「ダブレット」チームで試行錯誤が始まった。

 「アイテムは何がいいのか」「普段の生活で困っていることはないか」「何がほしいか」という対話からスタートし、「長袖は汚れてしまうから袖まくりをしている」「肩の可動域が狭いジャケットは脱着しづらいから選ばない」など、細かな悩みを打ち明けた。最初はそれら一つ一つを解決する方法も考えたが、最終的には「車椅子に乗っている人がかっこいいアイテムが一番だ」という結論に至った。

 そして完成したのが、車椅子に乗っていても肩がけできるライダースジャケットだ。ジャケットを肩がけしている車椅子の人はこれまで見たことがなく、井野さんらしいユニークな変化球だった。中に着たパーカには“WILD DRIVING”の文字と、私の車椅子の柄を刺しゅうした。これは、1980年代に流行したハーレーダビットソン(HARLEY-DAVIDSON)の宣伝用に作られたTシャツのパロディーだ。車椅子に向けた設計に、ブランドを象徴するパンクやY2Kの要素を取り入れて、幅広い人に受け入れられるジャケットになっている。衣服ではなく、ファッションとして提案したいという井野さんの思いを感じた。

人々が行き交う交差点が舞台
「何気ない日常に“多様性”はある」

 ショーの舞台は、渋谷スクランブル交差点を再現した「足利スクランブルシティスタジオ」だった。周りは平地で何もなく、風が強く吹いて強烈に寒かったことを覚えている。

 現場に着くとすぐリハーサルが始まり、ショーの肝であるバーチャルヒューマン“imma”のマスクと髪型にそろえて、コレクションルックに着替えた。緊張感とマスクの閉塞感などが相まって、少々孤独を感じていた。しかし、本番が近づくにつれ、「観客は『ダブレット』のショーに車椅子の私が出てくると想定していない」「私にとっても、ブランドにとっても、全てが初めての体験だ」ということを再認識した。孤独感は徐々に薄れ、高揚感へと変わっていき、本番は堂々とランウエイを歩いていた。

 ショーのフィナーレでモデルが一斉にマスクを脱ぐと、自然と笑みが溢れた。出演者との距離も不思議と縮まり、成功を労うようにハグもした。体に違いはあっても、「人との間をさまたげる」という意味の“障がい”は全く感じない。モデルそれぞれの個性に向き合ったファッションショーだからこそ生まれた、暖かな空気が流れていた。

 キャスティングに加えて、モデルたちが交差点をかき分けていく演出からも、「多様性は日常に潜んでいて、"特別"なものではない」という井野さんのメッセージが伝わってきた。そして、このショーがパリ・コレクションとして全世界へ発信されることに、胸が高鳴った。

考えを深めるきっかけとなった
学生団体との対話

 1月のショーから少し時間がたち、改めて多様性について考える機会があった。7月の上旬、学生服飾団体Keio Fashion Creator(ケイオウファッションクリエイター)からインタビューの依頼を受けたことだ。「ダブレット」のコレクションの一部を借り、実物を見ながら多様性について考えるインタビューとなった。

 まずはアイテムの設計から“衣服”における多様性を考えた。先ほど挙げた“肩がけライダース”は、アームホールが広くて丈が短い。これは車椅子を使っている私に合わせたものだ。ほかにもデニムパンツは、腰から裾にかけて長いダブルジップが2本付いており、ジップの開閉で前身頃が大きく開いて、体が動きにくい人も脱ぎ着しやすい。介助者にとっても履かせやすい設計だ。大きく伸び縮みする“有松絞り”を活用したアイテムも、着る人の体形を選ばない。

 これらの説明を受けて学生たちは、「かっこいいだけでなく、利便性も考えられているデザインに感動した」「車椅子の徳永さんに向けたデザインなのに、みんなが着たいと思えるものになっているがすごい」と感想をくれた。「私のコラム『1%から見るファッション』が伝えたいことはこれだ」と改めて実感し、うれしく思った。

改めて問う「多様性とは何か?」

 続いて学生は、“多様性”の本質についても投げかけてきた。「社会が多様性を推進する一方で、マイノリティへの差別が多くなっているのではないか」「多様性の押し売りになってはいないか」とシビアな意見をもらった。そしてこれらの意見には、私も同意する。言葉の本質を考えず、トレンドになってしまっていると危惧しているからだ。

 ファッション業界でも、既存のジェンダー観に縛られないルックだったり、黒人や有色人種のモデルのバランスを意識したりするブランドをよく見かけるようになった。もちろんこの意識は素晴らしい。その一方で、“偏り”も感じずにはいられない。人種やジェンダーばかりが注目され、身体的マイノリティーの登場が少ない点である。

 身体的マイノリティーをモデルに起用するブランドもある。例えば「モスキーノ(MOSCHIMO)」は22年春夏コレクションに車椅子の黒人トランスジェンダーのアーロン・フィリップ(Aaron Philip)を、「コリーナ ストラーダ(COLLINA STRADA)」は22年春夏コレクションにエミリー・バーカー(Emily Barker)を起用した。義足では、「ユイマ ナカザト(YUIMANAKAZATO)」が21年春夏コレクションのミューズとしてローレン・ワッサー(Lauren Wasser)を起用し、彼女はその後「ルイ・ヴィトン(LOUIS VUITTON)」の23年クルーズ・コレクションにも出演した。「メゾン ミハラヤスヒロ(MAISON MIHARA YASUHIRO)」22-23年秋冬コレクションのランウエイには、車いすバスケットボール選手の鳥海連志が登場した。

 こう見ると多くのブランドが身体的マイノリティーを起用しているように感じるが、コレクションに参加しているブランド全体を考えるとまだまだ少ない。この多様性の偏りは、“トレンド”という言葉に置き換えられてしまわないだろうか。

発信力のあるブランドこそ、
マジョリティーとマイノリティーの分け隔てなく

 今回の「ダブレット」は、私以外にも低身長モデルのちびもえこと義足モデルのGIMICOを起用している。海外ブランドが実現できていないショーを、「ダブレット」はパリ・コレクションの公式スケジュールでさらっと成し遂げたのだ。

 そして、このショーを世界のファッション業界が見ていることも重要な点である。発信力のあるブランドが、体に障がいがある人を王道のランウエイ形式のショーに起用する。マジョリティーとマイノリティーの分け隔てなく、多様な一人として認知する。その意義は、とてつもなく大きい。

 全てのブランドにこの姿勢を望んでいるのではない。それは多様性の押し売りで、本質を見失うからだ。しかし、多様性がSDGsの課題なのであれば、トレンドでは終わらせてはならない。“多様性”をやみくもに目指すフェーズから、本質を見直す段階に入っている今だからこそ、この言葉の意味を考え、行動に移していきたい。

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