ファッション

「ダブレット」と挑む素材革命 卵から生まれた新繊維 「ovoveil」

「ダブレット(DOUBLET)」の2026年春夏コレクションは、フリルレタス風ドレスや、ニンジンをクロシェ編みで表現したニットなど、食材モチーフのルックがランウエイを彩った。テーマは“いただきます”。食と同じく、服の素材にも情熱ある作り手がいる。そんな作り手への敬意をユーモラスに表現した。同コレクションで初めて採用したのが、卵殻膜を再利用した新素材「ovoveil(オボヴェール)」だ。開発したファーマフーズの古賀啓太 開発部次長と井野将之デザイナーに、素材の魅力を聞いた。

「ovoveil」は、卵の殻の内側にある薄膜、卵殻膜(タンパク質)とレーヨン(セルロース)を複合させた機能性繊維。主成分である卵殻膜は、細菌や異物の侵入を防ぎつつ、卵内部の水分や酸素の透過を調整する役割を持つ。「ovoveil」も同様に、肌本来のバリア機能をサポートし、潤いを保ちやすくする効果が機能実験で確認できている。また、糸のよりや生地の編み方・織り方を工夫し、コットンやテンセルなど他素材と組み合わせることで、しっとりと滑らかな風合いを実現。シルクやカシミヤのような風合いも再現可能だ。従来、廃棄されていた卵殻膜を再活用している点で、二酸化炭素排出の削減や資源循環に貢献する環境配慮型素材として、「エコプロアワード2024」の優秀賞を受賞している。

古賀次長は開発経緯について、「当社は卵を素材としてサプリメントや化粧品の機能性原料を開発・販売している会社で、卵のタンパク質の研究を得意とする。高い保湿効果のある卵殻膜は、従来化粧品の原料として使われていたが、それを身にまとうことができれば、 着ているだけで肌が美しくなる繊維が作れるのではないかというのが、発想の原点だ。日本では年間約260万トンの卵が消費され、その副産物として約26万トンの殻と1万トンの卵殻膜が廃棄されている。これを高次元に活用したいという思いもあった。卵殻膜を機能性繊維として再利用できれば、環境負荷の軽減につながると同時に、殻を有償で購入することができるため卵産業の新たな収益機会にもなるだろうと考えた」と語る。

「ダブレット」は、スーベニアジャケット、デニム、ニット、カットソーの4型に同素材を採用。スーベニアジャケットとデニムには、横糸に18番手の「ovoveil」100%の糸を使用した。ジャケットやニットは卵のような丸みのあるシルエットにしたり、カットソーはオパール加工で卵特有の割れ感を表現したりした。

井野デザイナーは、「総じてとても使いやすい素材だった」と評価する。「この素材の魅力はまず、古賀さんのような情熱のある人によるもの。そういう人がいる限り、この素材はどんどん進化すると思う。今後はポリエステルやナイロン、ウールなど、さまざまな組み合わせが考えられるはずだ。日本だけでなく、いずれは海外のメゾンにも広がっていく可能性があると感じている」。

今後は、ハイブランドからカジュアルまで幅広いブランドをターゲットに、新たな自然由来の繊維として広げていく。


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ファーマフーズ
pfi_fiber@pharmafoods.co.jp