吉村栄義 アルテサロンホールディングス 代表取締役社長 プロフィール
よしむら・しげよし:1965年11月18日京都府生まれ、奈良理容美容専門学校卒業。96年、美容室カットハウスニューヨークを創業。有限会社を経て、2001年にニューヨーク・ニューヨークを設立。06年、アルテサロンホールディングスと業務提携。以後要職を歴任し、20年3月、同社の代表取締役社長に就任
大津祐介 C&P 管理部店舗管理課 プロフィール
おおつ・ゆうすけ:1989年1月11日茨城県生まれ、國學院大學卒業。2011年にアルテサロンホールディングス入社。「アッシュ 国立店」レセプションを経験し、12年にスタイルデザイナーへSVとして異動し「チョキペタ」を担当する。19年、分社化によりC&Pへ異動。22年、現在の店舗管理課で採用人事を担当
美容室チェーンを300店舗以上展開するアルテ サロン ホールディングスは、カットとカラーの“メンテナンス”専門美容室「チョキペタ(Choki Peta)」の採用者数が急増していることを報告した。採用者数は前年に比べて約2倍、応募者数も約1.3倍と好調。採用者のうち、約44%は美容師としてのブランクがある“休眠美容師”だ。ここでは同社の吉村栄義社長と「チョキペタ」の採用担当大津祐介、ある意味“時代に逆行する”くらい好調な採用の秘密を聞いた。
「WWDJAPAN」編集部(以下、WWD):“メンテナンス”専門美容室とは?
吉村栄義社長(以下、吉村):髪が伸びた分だけカット、カラーリング(リタッチ)をして、きれいな状態をキープするという“メンテナンス”に特化したサービスを提供するヘアサロンです。特化することで、予約不要・手頃な料金・短時間での施術を可能にしました。
WWD:“休眠美容師”とは?
吉村:当社では、美容師免許を取得しながらも、さまざまな事情で美容師として働くことを辞めた人たちのことを“休眠美容師”と呼んでいます。2019年度末時点での従業美容師数が約56万人(令和3年度 衛生行政報告例)であるのに対し、休眠美容師は75万人程度(理論上の数字)、働く可能性が低い人を加味しても50万人程度はいると推測しています。休眠美容師になる理由はさまざまですが、その1つには結婚や出産など女性のライフステージの変化が挙げられます。「チョキペタ」がオープン当初から続けてきたのが、この休眠美容師の復帰支援です。
WWD:「チョキペタ」のコンセプトは?
吉村:11年の創業当時から、“長く働ける美容室作り”をコンセプトにしています。美容師には、入社した頃はヘアデザインに対する意欲が強いけれども、年齢を重ねるにつれ、最新のヘアトレンドを追うのが難しくなる人も少なくないんです。産休などのブランクがあるとなおさらで、復帰するにはハードルが高く、仕事復帰しても違う職種に就いてしまう人が多い状況ですね。そこで、メニューをシンプルにすることで長年働きやすい環境を作り、サステナブルな美容室を目指したのが「チョキペタ」です。
WWD:休眠美容師に目をつけたのは?
吉村:国家資格である美容師免許を取り、スタイリストになるために練習を積むのは大変なことです。それは“美容好き”であるからこそできることで、その意欲は年齢を重ねてもさほど衰えるものではないんです。にも関わらず復帰への不安から、違う職種やパートを復帰先として選択する方が多く、非常にもったいないと感じていました。その不安を取り除くようなコンセプトは受け入れられ、採用は好調。今では最年少のスタッフが28歳、最年長が73歳、60歳代のマネージャーも多数いるとうサステナブルなサロンになっています。集客の方も好調で、コロナ禍こそ失速しましたが、今では朝からお客さまが並んでいる店舗も多くあるくらいに復調しました。
WWD:具体的にはどのように採用している?
大津採用担当(以下、大津):基本的には、パートでの採用を中心にしています。例えば「小さい子どもがいて1日3時間しか働けない」といった人も多いので、うまくシフトを組み合わせる感じです。そのために採用している出店戦略が、1つの地域の中にチェーンの店舗を複数出店するドミナント戦略です。例えば「月、水、金の午前中だけ働きたい」という人がいた場合、A店ではシフトが被っていて必要ないけれども、B店では必要としている、といったケースが多々あります。ドミナント戦略をとってA店とB店の距離を近くすることで、そうした穴埋めをやりやすくしているんです。A店のスタッフに「明日は(隣駅の)B店にヘルプに行ってほしい」ということもやりやすいし、実際によくあります。スタッフ一人一人のバックグラウンドを理解し、シフトの意向に寄り添いつつ、運営側としても助かるシステムを構築しました。
WWD:スタッフ募集で心掛けていることは?
大津:スタッフ募集は、試行錯誤しながら少しずつ改善しています。まず、美容師の求人は専門の媒体で行うのが一般的ですが、休眠美容師には他の職種を探している人も多いので、一般の求人媒体でも募集をかけることにしました。また、スタッフにヒヤリングをすると、約3/4のスタッフが、入社前は「チョキペタ」のことを知らなかったことが分かりました。そこで認知度を高めるために、掲載媒体を増やす取り組みもしました。求人広告においては、仕事を探している人が重視するのは給与や休みだと思い込んでいたのですが、スタッフへのヒヤリングで、意外と“制服の有無”を重視していた人が多かったことが分かりました。若い世代にとって“私服で働ける”ことは大きな魅力ですが、忙しいお母さんにとって“毎日服を選ばなくていい”ことは大きなメリットだったんです。そこで求人広告に制服のことを大きく載せるなど、日々ブラッシュアップしています。
WWD:スタッフ教育は?
吉村:休眠美容師にとって復帰のしやすさにも関わってくることなので、非常に重視しています。特に、事前に学習することで技術に対する不安を取り除くことができ、かつ時間や場所を選ばずに見られる動画に注力していて、現在は実に1600本以上の教育動画が上がっています。
WWD:1600本はすごい。システムとして完成している。
吉村:そうですね。そういったことはシステマチックに行う一方で、家庭的な面もあるところが特徴です。例えば“子育て中のスタッフは、(子育てに理解のある)子育てを終えたスタッフが多い店舗に配属すると定着率が高い”というデータがあり、マッチングにおいて実践しています。また毎月表彰式を行い、皆が見られるように動画で配信しています。技術売り上げが1番高かった人、1番商品を売った人のほか、笑顔が1番良かった人や掃除を頑張った人などユーモアも取り入れ、お母さんが子どもと一緒に見られるような内容にしています。
WWD:現在の状況と今後の目標は?
吉村:現在は系列の一般のヘアサロン「アッシュ(Ash)」から「チョキペタ」に移るスタッフや、「チョキペタ」で慣れてから「アッシュ」に戻る元・休眠美容師など、相互の交流も生まれています。「チョキペタ」のお客さまだった休眠美容師が、「雰囲気が良かったので働きたいと思った」と応募してくるケースもあります。現在は関東で55、関西で11店舗を展開しているのですが、中期経営計画で、3年後に100店舗を目指しています。