ファッション

「ザ・ノース・フェイス」立役者の新展開 「ニュートラルワークス.」のサステナブルな服作り

 サステナビリティに配慮したモノづくりとは具体的にはどういうこと?正解がない話とはいえ、指針はほしい。そこでサステナビリティ先進企業であるゴールドウインの大坪岳人「ニュートラルワークス.(NEUTRALWORKS.)」事業部長にその定義とリサイクル素材使いや古着回収などの実践内容について聞いた。同事業部長は「ザ・ノース・フェイス(THE NORTH FACE)」に18年間所属し、同ブランドを育てた立役者の一人でもある。

WWDJAPAN(以下、WWD):2021年4月から事業部長に就任した「ニュートラルワークス.」ではサステナビリティをどう定義しているか?

大坪岳人ゴールドウイン ニュートラルワークス事業部長(以下、大坪):僕の定義は、自分の子どもに継承できるか、だ。入社後、2006年に初めてサステナビリティという言葉を聞いたときはピンとこなかった。考えを深めたきっかけは、「ザ・ノース・フェイス」に所属時代、アウトドアの展示会に参加した後にアメリカの雪山でスノーボードをしていたときに、「娘は大人になったときにこの素晴らしい景色を見ることができるのだろうか」と思ったこと。実際、30年前と比べると日本のスキー場も雪が減り、ゲレンデがガリガリになっている。自分が感動している景色を子供たちにも見せるためには、どうしたらいいか、と考え始めた。

 サステナビリティやエコの話は、“小さいこと”と“大きいこと”が同じ意味を持つ。例えば、明日気温が上がる話と、いつか地球が滅びる話の2つは自分との距離感が全く違うが、話している内容は実は同じ。100年先のことはわからないし、自分が生きてこの仕事をしていることは難しいだろう。だけど自分が生きている間に知り合う人たち、祖父母から両親、子供、孫をつなげると話は100年スパンとなる。サステナビリティには矛盾も多く、「だったら何も作らない方がいい」とゼロヒャクで考えがちだが、それよりもシンプルに「子どもにちゃんと渡せるか」が判断基準としてはいいのかな、と思う。

WWD:2006年からゴールドウイン社内でサステナビリティという言葉が使われていたことに驚く。誰がリーダーシップをとったのか。

大坪:当時「ザ・ノース・フェイス」の事業部長だった、現社長の渡辺(貴生ゴールドウイン社長)だ。「ザ・ノース・フェイス」は、カタログの冒頭に循環につながるメッセージを掲げていた。大きな流れではなかったが社内の他ブランドも「ノースがやるから自分たちも」という広がりがあったと記憶している。

 また素材調達は富山本店の調達部門がブランドを横断して行っており、同部門が中心となり帝人や旭化成の国内回収事業に参加したり、ダウンの羽毛回収「グリーン ダウン プロジェクト(Green Down Project)」の前身と組んだりと、店頭回収を始めていた。

WWD:回収を始めたきっかけは?

大坪:当時は“サイクル”という言葉を使っていた。持続可能のためには何より長く大切に使うことが重要だから、リペアは昔から行っていた。でもどうしても捨てなければならないものも出てくる。ペットボトルや缶や紙は回収・再生しているのに衣類はできていない。ならば、ポリエステルだけでも循環できるようにしよう、とか、ダウンは食用水鳥の副産物の羽を使っているが量が採れなくなってきた、ならば上質なダウンを再利用しよう、という流れだった。

WWD:これも取り組むのが早かった。

大坪:「パタゴニア(PATAGONIA)」も早い段階から回収やリペアを行っていたし、アウトドアをメーンにする企業は早かったのでは。2008年から社内では“グリーン・イズ・グッド(GREEN IS GOOD)”という標語を掲げ、“グリーンサイクル、グリーンマテリアル、グリーンマインド”の三つの基準でモノづくりから回収・再生の取り組みをしている。グリーンマテリアルはリサイクルなど環境負荷が低い素材を、グリーンマインドは修理しやすい設計などを指す。

WWD:確かにアウトドアやスポーツブランドの多くはサステナビリティへの取り組みが速く、その他のアパレルとの間に大きな差異がある。

大坪:アパレルの中で、特にどのジャンルが石油を多く使っているかと言えば、ポリエステルやナイロンを多く使う僕らでもある。渡辺社長がスパイバー(Spiber)に投資を決めたのも、材料から変えないと根本的に変えられない、という考えもある。

モノづくりのシフトは素材の置き換えからスタート

WWD:サステナビリティなモノづくりへのシフトをどこから着手したのか。

大坪:まずはバージン素材からリサイクル素材への置き換えから始めた。同時にアウトドアウエアが求める機能性やより細くて軽い素材使いを目指すから置き換えへのハードルは高い。置き換えたことで物性が弱まり長く使えなくなっては、本末転倒だ。“置き換えることに意味があるのか?”といったジレンマは結構長い期間あった。今でもその葛藤はあるが、最近は素材展に行ってもエコに配慮した素材が8割を占めるなど、業界でもそれが標準になりつつあると思う。

WWD:どんなアイテムから置き換えを始めたのか。

大坪:量、スケールを非常に意識している。カプセルコレクションなど一部の商品への採用だけではインパクトがないからだ。ボリュームゾーンの価格帯のTシャツなどで取り入れたいがすると今度はコストが難しい。

WWD:原料メーカーと目標を共有して変えていく関係が欠かせない。置き換えはどのくらい進んでいるのか。

大坪:ポリエステルはペットボトル由来のリサイクル素材が出回っているからかなり進んでいて、「ニュートラルワークス.」については100%。ナイロンはまだ再生素材が開発段階だ。

WWD:リサイクル素材の使用比率の目標は?

大坪:全社的に30年までに製品の90%以上を環境負荷低減素材にする目標を掲げている。以前は、年2回展示会を開き、それに合わせたモノづくりを行っていたが、サステナブルな素材開発は3年、5年とスパンが長い。今すぐは変えられないけれど3年後には実現しようなど、長期的な目標を掲げるケースも多い。

WWD:古着回収量の目標は?

大坪:数値では定めておらず、回収対象の品目を増やし、できるだけ多くの量を回収することを目指している。古着屋で売れるから、という理由もあるが認知もまだ不十分。その中で、ダウンジャケットの回収は増えている。

 2021年は全ブランドの直営157店舗で9429キログラムの古着を回収した。20年が127店舗3655キロだから1年で3倍弱には増えているまた、マラソン大会などスポーツイベントの会場ではかなりの量が集まり、レースの出場者の数より多く戻ってきたりする

WWD:目標や結果を対外的に発表することも重要だ。

大坪:以前は「誰に知られていなくても粛々とやる」「売りにしない」文化が社内にあった。「無染色で作りました」と言ってところで、大多数は染めているし、「リサイクル素材に置き換えた」といっても全部じゃないから。でも今はその空気も変わってきた。

大事なのは「人の気持ちを変える」取り組み

WWD:2021年までは「ザ・ノース・フェイス」のディレクターとして全体統括をしていた。影響力のあるブランドは責任も大きい。

大坪:何百億円と売り上げるブランドでも、世界でのインパクトはほんの少し。だけどそれを通じて人の意識を変えたら、その先の大きなアクションにつながると思う。たばこは体に悪い、と昔から言われていた。その物質的な事実は変わらないのに意識が変わったことで今では他人がいるところでは控える人がほとんど。これってまさに人の意識の変化だと思う。ごみも同じ、今では当たり前のように分別をしている。我々が打ち出す施策も意味があるなし、ではなく、人の気持ちや空気感を変えられるものであるか否かで判断をしている。

WWD:人気ブランドだから正しい影響力の使い方をしよう、みたいな意識はあるか?

大坪:それはない。ないというか、使命を背負っているわけではない。もちろん、自分たちの行動が多くの人に良い影響があれば嬉しいし、率先してチャレンジしようとは思ってきた。でも環境問題は、自分たちだけでは絶対にクリアできない課題だから。

 1968年に「ザ・ノース・フェイス」の社長に就任したケネス・ハップ・クロップ(Kenneth Hap Klopp)が最初に社員に伝えた「ジャケットを売るのが君たちの仕事じゃない。世界を変える仕事、それが君らの仕事だ」という有名な言葉がある。僕も4年前に、ハップ・クロップと会って仕事の悩みを話したら、「君の仕事はダウンジャケットを売る仕事じゃないんだよ。お客さんに愛される仕事をしようと考えたら迷わない」と言われて納得した。

 結局、何のために仕事をするのかが大事。売り上げを作るためじゃなく、お客さんに必要だと思われる商品、明日も存在してほしいと思われるブランドを考えるのがブランディングだと思う。そうありたいと強く思っている。

「ニュートラルワークス.」のこと。

WWD:それを今体現しているのが、「ニュートラルワークス.」だ。

大坪:5年前に「ザ・ノース・フェイス」を扱うセレクトショップとして立ち上げたものをブランド事業として新しく生まれ変わらせるタスクをもらった。手前みそだが、“準備ができた状態をつくる”とか、“体と心を整える”といったことを手掛けているアパレルブランドはほかにないと思う。例えばコーヒーや音楽のように仕事の前後に欠かせないもの、今はそういったものがすごく必要だと思うからチャレンジをスタートした。ゴールドウインのオリジナルブランドとして、世界の人たちに“いい”と思ってもらえるものにしたい

WWD:インタビューの冒頭でサステナビリティの定義にあげた「子供に残せるか」に通じるものがある。

大坪:“準備できている状態”は利己的ではありえなくて、自分以外の他者、スケールを広げれば地域や地球が良くないと成立しない。持続可能は「こうしなくちゃ」「こうあるべき」より、「あれいいよね、大切にしたい」という置き換えの効かない存在として続いてゆくことだと思う。ちょっと“イイやつ”強めな表現だけど、 “Good is Cool”、いいことがかっこいいと受け取られるといいな、と思う。

WWD:これから挑戦したいことは?

大坪:未利用資源の活用。使われていないものってたくさんある。漁網やバナナの茎の再利用は始めている。使われていないスペースや時間、なんかも含まれるかもしれない。“Too Good to Waste”なものやコトを廃棄するのではなく、再利用したい。

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