「生まれるべきものが生まれ 広がるべきものが広がり 残るべきものが残る世界の実現」をビジョンに掲げるマクアケは、ブランドが持つべきパーパスの可視化や、その伝え方、ユーザーとのコミュニケーション作りなどでメーカーに寄り添い、モノづくり企業がモノづくりに集中できる環境整備に一役買っている。ブランドの伴走者、キュレーターが過去の事例を踏まえながら、応援されるブランドの共通点を探る。
PROFILE:鳥取県出身。それぞれ100年以上続く木工所と農業関連企業を営む両親の元で生まれる。地元を含む中四国エリアの事業者の支援がしたいという強い想いから中四国拠点を立ち上げ、エリア事業者のサポートを行っている
モノづくりの背景や様子を伝え、ファンに喜びを届ける
今回お話を伺ったのは、1960年代創業という老舗のジーンズ縫製工場「有限会社内田縫製」(以下、内田縫製)です。同社は岡山県津山市に拠点を構え、誰もが知る一流ブランドのジーンズの縫製を数多く手がけています。国内の縫製工場が激減した今でも着実な経営を続け、日本が世界に誇る縫製技術を現代に継承しています。
他社ブランドの製品を製造するOEMを主軸としてきた内田縫製が、自社のファクトリーブランド「 ウチダ ホウセイ」を立ち上げ、オリジナル商品を始めたのは2016年のこと。当初は「きっと売れないだろう……」と二の足を踏んでいたのですが、地元の中小企業を支援する、つやま産業支援センターの後押しを受けるかたちで立ち上がりました。
ブランドのモットーは「永く穿いて経年変化を楽しむ」。丈夫に制作するのはもちろん、色落ちなどの経年変化を楽しんでもらえるジーンズを手がけています。
そんな「ウチダ ホウセイ」の商品の中に“レインボー”ジーンズがあります。“レインボー”は時間をかけてはき込むと鮮やかな虹色が顔を出す、というジーンズ。今回、4年ぶりに“レインボー”を復活させるプロジェクトを「マクアケ」で実施いただいたところ、1800人のサポーターが集まり、5100万円の応援購入がされるなど、ファッション系のプロジェクトとして大成功をおさめています。プロジェクトを担当された内田泰造(うちだ・たいぞう)さんにお話を伺い、“レインボー”復活劇の舞台裏に迫ります。
「ウチダ ホウセイ」が制作する“レインボー”は、経糸(たていと)を赤や緑、黄といったカラフルな色で染めた後、その上からもう一度インディゴで染色したジーンズ。最初は普通のデニムと変わらない見た目ですが、時間をかけてはき込むと鮮やかな虹色が顔を出します。まさにブランドのモットーである「永く穿いて経年変化を楽しむ」を体現するジーンズです。
“レインボー”が誕生したのは18年。初期ロットの100本が順調に売れて、追加生産も考えていた矢先、同年6月に西日本豪雨に見舞われ、“レインボー”含む保管していた生地全てが浸水し、廃棄処分となってしまいます。“レインボー”は製造工程が特殊で最低でも1000本以上のロットが必要なため「当時はもう一度生地をつくれなかった」と内田さんは振り返ります。
それから4年がたった21年9月、1件の“レインボー”のリペア依頼が届きます。購入してから約4年間、毎日はいていたという“レインボー”のジーンズは「永く穿いて経年変化を楽しむ」という内田縫製のモットーが表現されたような一本に育っていたのです。そのジーンズを撮影し、SNSに投稿したところ、復活を望むメッセージが多く集まり、“レインボー”の復活を決めました。
“レインボー”の復活プロジェクトが数多くの人に応援されたポイントは、大きく3つあります。
1点目はモノづくりの背景や様子を積極的に伝えるということです。「ウチダ ホウセイ」はファクトリーブランドということもあり、お客さまとの距離感を近づけることを重視しています。今回のプロジェクトにおいても工場や職人、製造工程(ロープ染色の様子)など、作り手の“顔”が見えるコミュニケーションを心がけました。例えば、言葉や文章で表現できないような「職人感」や「モノづくり感」といった内田縫製のモノづくり精神が伝わるよう、工場や職人の写真を数多く盛り込んでいます。写真撮影もプロのカメラマンに外注せず、内田縫製のメンバーが撮影しています。この“手作り感”が、今回のプロジェクトの豪雨災害に見舞われながらもファンの声から復活したデニムという温かみのあるストーリーと合致し、結果的に内田縫製の思いがファンの心に真っすぐ届いたのだと思います。また、プロジェクトのリターンに内田政行(うちだ・まさゆき)社長と盃を交わす会も用意するなど、社長の“顔”も見えるブランドというのが、安心感の醸成にもつながりました。
2点目は、ファンの声に応えるということです。今回、ファンからの声をもとに4年ぶりに“レインボー”を復活させましたが、前作よりも色味などをアップデートしています。前作ははき込んでいくと赤茶っぽくなり、お客さまから「赤くなりすぎると服に合いにくい」という声があったそうです。そこで今回は赤系の濃さ・割合を見直し、新たに桃、紫を追加しています。また今回、岡山県倉敷市児島に拠点を構える織物メーカーのショーワと連携することで、復活まで漕ぎつけました。ファンの声に応える姿勢が伝わり、より応援が集まったと思います。
3点目は、一人ひとりのお客さまに喜びを届けるということです。内田縫製は「出会いをいただいた方には、心より喜んでいただく」という企業理念を掲げています。無尽蔵にブランドやユーザーを拡大するのではなく、目の前のお客さまを大事にすることを何よりも大切にされています。そのため会社が存続する限り、サイズ交換や裾直し、リペア(お直し)を無償で提供しています。目の前のお客さまを大切にすることで、そのファンの声がSNSなどで拡散され、また新しいお客さまを連れてくる。だからこそ、今回のプロジェクトは多くのお客さまに支持されたのだと思います。
そんな内田縫製のモノづくりの根底には、縫製技術を継承していくという思いがあります。縫製工場の数も減り、日本人の職人が減っているからこそ、メード・イン・ジャパンの製品を未来に残していく内田縫製の取り組みは多くの人の心を打つのではないでしょうか。どれだけテクノロジーが普及しても、大事なのは“思いが伝わるコミュニケーション”。目の前のお客さまに喜びを届ける姿勢を貫くことで、応援されるブランドへ繋がるのだと思いました。
成功の三箇条
1 モノづくりの背景や様子を積極的に伝える
2 ファンの声に応える(素直さ、技術力、遂行力)
3 一人ひとりのお客さまに喜びを届ける