ファッション

迷える業界の子羊たちにささぐ 栗野先生のお悩み相談室

 「WWDJAPAN」4月5日号は「新入社が知っておきたい基礎知識」特集です。自分で選んだ道であれど、会社の人間関係や先の人生設計など、仕事に悩みは付きもの。困った時は先輩に聞くのが一番です。そこで今号の「ファッションパトロール」では、ユナイテッドアローズ創業メンバーで業界歴44年の栗野宏文上級顧問クリエイティブディレクション担当によるお悩み相談室をオープンし、業界で奮闘する「WWDJAPAN」読者から寄せられた悩みを聞きました。

Q.アパレル販売員です。コロナ禍で生活が一変し、貧困や地球環境など、社会問題を深く考える時間ができ、私も世の中をより良くしたいと思うようになりました。販売員としてどうしたら世の中を変えていけるのか教えください。

栗野宏文ユナイテッドアローズ上級顧問クリエイティブディレクション担当(以下、栗野):自分が今の時代に必要だと信じたモノをお客さまに伝えることに尽きるでしょう。販売員の仕事はただモノを売るのではなく、意味や価値をお客さまにお渡しする仕事です。サステナビリティはモノを大切にすることでもありますが、販売員がお客さまに満足度の高い購買体験を提供できれば、きっとその商品を長く愛用してくださると思いますよ。

Q.社会人歴約5年です。最近、忙しいときや焦っていると感情が先に出てしまい後悔する事が多いです。栗野さんは焦ったり感情的になったりすることはありますか?そんなときはどういうふうに対処していますか?

栗野:人間は理性的な生き物です。感情が先に出てしまうときは、冷静に理由を探してみましょう。小池龍之介さんの「もう、怒らない」という本の中に、「なんでこんなこと起きるんだ」と思ったら、その気持ちに頭の中で「」をつけて認識するとよいと書いてありました。そうすることで客観性が生まれ、感情が考える対象になるからです。10年ほど前にこの本を手に取ったということは、僕も同じような悩みを持っていたのでしょう。厳しい言い方をしますが、「私は短気なんだよね」と決めつけている時点で言い訳です。そうありたくないのであれば、そうではない自分でいればよい。あらゆる悩みに共通しますが、自分は自分で変えられます。

Q.個性が強いもの同士はどうしたらうまく一緒に仕事ができますか?

栗野:まず、個性がない人はいません。みんな違って当たり前。それぞれの個性の良いところを上手に引き出せば、違いは必ずプラスに作用します。

Q.仕事で立ち止まってしまったときに何をされていますか?

栗野:悩まないことです。池田晶子さんの「14歳からの哲学」という本の中に、「悩むと考えるは違う」という言葉があります。「悩む」は自分を立ち止まらせること。「考える」は考え始めた瞬間から問題解決が始まっています。僕も周りからよく「考えすぎじゃない?」と言われることがありますが、考えないなんて無理なこと。悩まずに考えていれば、おのずと答えは見えてきます。

Q.特にファッションの仕事は生活と密接な分、仕事のことを考えないことが難しいです。お勧めの気分転換法はありますか?

栗野:残念ながら僕は気分転換が必要だと思ったことがありません。服について考えることも、街の人々を観察することも好きなので、それに疲れてしまったらこの仕事を辞めるとき。ただ世の中には僕みたいなお気楽な人ばかりではないと思うから(笑)、気分転換が必要な人は深呼吸すること、温かいお茶を飲むことをお勧めします。僕は毎朝自分で紅茶を入れて飲んでいますよ。

Q.地元で織物産業を活気づけるためにアーティストができることはありますか?

栗野:ファッションはあらゆるアーティストやクリエイターと接点を作ることができます。臆せず、門をたたきに行ってほしいです。

Q.栗野さんがお考えになる新入社員の心得を教えてください。

栗野:とにかく何でもやりなさい。どんなことにも学びがあります。組織に入れば、自分の好き嫌いにかかわらず、周りから仕事を頼まれるのは当たり前です。僕が大学卒業後に入社した会社では、3カ月ほど店の掃除しかやらせてもらえませんでした。しかしそこで、売り場が整っていることが物事の原点だと学びました。靴の在庫を整理するときにはサイズ順に並べて、売れる商品を前に持ってくるなど工夫をしました。ただの片付けですが、そこにクリエイティビティを生かしたわけです。それを見ていた上司が6カ月後くらいにバイイングのアシスタントを任せてくれました。任された仕事はとっととこなして、自分で仕事を作ってしまうくらいの勢いで取り組むべきです。イエスマンになれという意味ではなく、仕事を受ける側としての主体性をきちんと持つことが大切です。

Q.仕事で人と関わるときに気を付けていることはありますか?

栗野:相手との必要な距離感は考えながら取っています。販売員でもお客さまに信頼されるのはありがたいことですが、友達になってしまってはプロとしての関係性が崩れてしまいます。若いうちは距離感の取り方が難しいかもしれませんが、何気なく話しているときも考えながら行うということが大切です。

Q.一つの大きな目標が定まりません。

栗野:ひょっとするとこの方は目標がないと前に進めないと思っているのかもしれませんね。でも僕は目標なんて持ったことはないですよ。全部歩きながら考え、歩きながら考えているうちに形になっていくものです。一方で、周りに目標を聞かれることもあります。そういうときは相手があなたを育てるためのヒントを探っているから。期待してくれていると思って小さなことでも答えてみるとよいかもしれません。

Q.販売員をされていたときにモノのかっこよさを伝える力はどのように磨きましたか?

栗野:自分が試すしかありません。服は人が着て動いて初めて良さが分かります。自分で着られない服は、試着されたお客さまや同僚をよく観察してください。商品のスペックやマニュアルを覚えるよりも、自分の熱量を伝えることでお客さまは納得します。今後ますます販売員の温度やヒューマニティーが求められる時代になると思います。

Q.デザイナーとして稼ごうとすると家庭との両立が難しいです。

栗野:家庭か仕事、どちらを取るかではなく、家庭を大切にするためにはどんな働き方が適切か、考えてみてください。たとえそれで収入が減ったとしても、別のハピネスがあるはずです。現代人は忙しいことに価値があると誤解しがちですが、忙しいとは他人に時間を奪われているということ、自分で納得のいく時間を生きていないということです。

Q.マネジメント職に就くために若手のうちに磨くべき能力は何ですか?

栗野:最も大切なことは、相手の話を聞く力でしょう。それがコミュニケーション能力です。販売員を経験し、聞き上手は話し上手だと学びました。自分を理解してもらうためにはまず相手を知ることが大切です。

Q.私は現在大学4年生で将来は洋服のサプライチェーン上の諸問題の解決に取り組みたいと考えています。特に関心の薄い人に自身の問題意識を伝えたいときに心掛けていることはありますか?

栗野:身近な例で説明することです。特にサステナビリティの話題は、科学的な説明はとても難しい。化学調味料がたくさん入った5分で作れる料理と、だしから時間をかけて作った料理、最終的に体に良いのはどちらでしょう、という具合に例えてみると理解しやすい。「こんなに良いことなのになんで分かってくれないの?」という態度は禁物です。重要なことほど、さらりと言う方が伝わります。

Q.私は少しでも洋服を楽しむときに後ろめたさを感じずに済む世界にしたいと思っています。環境に配慮したモノ作りと、デザインの多様性は両立し得るのでしょうか?

栗野:両立します。そのヒントは「WWDジャパン」を読んでください。答えは一つではありません。両立できないと考えるのは逃げだと思っています。後ろめたさを感じずにファッションを楽しむ方法を一緒に知恵を絞って見つけていただきたいです。

Q.憧れていた業界の仕事に就いたにもかかわらず、日々の仕事の忙しさやストレスで仕事が楽しめません。栗野さんはこれまで仕事が楽しめなかったことはありますか?

栗野:楽しくなかったことはほとんどありません。それでも壁に突き当たることはありますよ。むしろ悩みや課題がない方が楽しくないと思います。解くべき問題があるときはむしろやるべきことがある証拠。悩んだ人ほど幹が太くなります。今日僕が話したことも答えではありません。立ち止まってしまったときに一歩を踏み出すヒントを共有できたらうれしいですね。


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最新号紹介

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広まるSDGs、DXへの挑戦 眼鏡のフォームチェンジが起きている

「WWDJAPAN」4月12日号は、眼鏡特集です。旧態依然と言われる眼鏡業界ですが、コロナ禍で眼鏡や眼鏡店は時代に応じたさまざまな変化(フォームチェンジ)を見せています。アパレル業界でスタンダードになっているサステナブルなモノ作りに眼鏡も取り組みはじめ、年間のビジネスの大きな山場である4月は多くの展示会がオンライン商談に挑戦しました。テレワークやオンライン授業が一般化し、向き合う時間が増えたパソコ…

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