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パスザバトンが企業と個人をつなぐマーケットを開催 「日本中の倉庫をカラにしたい」

 スープストックトーキョー(SOUP STOCK TOKYO)などを運営するスマイルズ(SMILES)が手がけるセレクトリサイクルショップのパスザバトン(PASS THE BATON)が、企業と個人をつなぐプラットフォームであるパスザバトン マーケット(以下、マーケット)をスタートさせた。
 
 パスザバトンは、使わなくなった思い出の品や愛用品を大切に使ってくれる人に販売しており、扱う商品は洋服からアクセサリー、テーブルウエアなどさまざまだ。各商品に持ち主の顔写真とプロフィール、品物にまつわるストーリーが添えられている。東京・丸の内、表参道、京都に直営店があり、公式オンラインショップではデッドストックやB級品をアップサイクルしたコラボレーション商品などを販売している。

 個人と個人をつなぐパスザバトンから発して企業と個人をつなぐマーケットを始めた理由やそれに込めた思いについて、キーマンである野崎亙スマイルズ取締役クリエイティブ本部長兼パスザバトン事業部長に話を聞いた。

WWD:マーケットをスタートさせた背景と目的は?

野崎亙スマイルズ取締役クリエイティブ本部長兼パスザバトン事業部長(以下、野崎):パスザバトンを始めたころは、まだ「メルカリ」などは存在していなかった。誰かの思いを品物と一緒に届けるのが主な目的だが、デッドストックや端材などをアップサイクルして光を当てなおす(リライト=relight)のもコンセプトの一つだ。一昨年に、表参道店で陶器のイベントを開催したらとても好評だった。販売したのは百貨店で取り扱ってくれないような昔の商品。それが、若い人にとっては目新しく、売り上げも好調だった。このイベントを通して品物自体の価値に光を当てる意味があることに気付いた。日本各地でモノ作りが行われていて、倉庫には売り先のない品物が大量に残っている。見せ方を変えることでそれらに新たな価値を与えることができる。思いを伝えるという意味で、事業者と消費者が直接コミュニケーションできるような環境をつくったらどうなるか――。そう考えて2019年11月に東京・京橋で初回マーケットを開催した。このイベントはバトン設立10周年を記念したもので、ユナイテッドアローズ(UNITED ARROWS)やシューズのムーンスター(MOONSTAR)、家具の天童木工など22社が参加し、規格外品やアウトレット落ちの商品などを販売したが、想像以上に反響があった。

WWD:今年7月には第2回目「十勝“もったいない”大百貨店(以下、十勝大百貨店)」をオンラインで開催したが、北海道と食品にフォーカスした理由は?

野崎:北海道では卸のビジネスが中心で、新型コロナの影響でモノが売れなくなり、卸の販路がなくなった。乳製品や野菜などの食品は生産を止めるわけにはいかず、店頭に並ばず廃棄される。小規模の農家やメーカーがせっかく作ったものをどうにかしたいと思って開催した。パンやチーズ、野菜、牛肉、クラフトビール、オーガニックコスメなど20社が参加した。彼らには自社ECがなく、マーケット開催後もわれわれのオンラインプラットフォームを使ってもらえるようにしている。

WWD:企業のデッドストックなどに商機があると思った理由は?モノだけでなく食や文化など幅広いカテゴリー設定にしたのは?

野崎:例えば、われわれが描く新橋のイメージは“おじさん”や“横丁”などだが、若い人にとっては目新しい魅力のある場所だ。同じ場所でも時代や年代が変われば価値が変わる。モノの見せ方やタイミングによって全く売れなかったものが急に売れることもある。インターネット社会になり、口コミよりも皆、自分の直感に頼るようになっている。“古い”“新しい”という固定観念がなくなり、それぞれの価値観で判断する時代になった。だから、思いや背景があるモノやあらゆることの見立てを変えて、消費者の目に触れる機会をつくりたい。

WWD:マーケットの仕組みは?出店者の募集や告知などは?年間に何回開催するか?

野崎:年間2回トライアルで開催するつもりだが、今後は毎月、さらには週一ベースで開催するのが目標だ。小さい企業が参加できるプラットフォームとして参加を募っていく。誰も知らなかったブランドの輪が広がり、つながるようなものにしたい。SNSで告知するが、京橋のマーケットではふらりと立ち寄る人が多かった。気軽な雰囲気でマーケットを開催することで、生産者と消費者をつなぎたい。現在マーケットはマージンビジネスだが、規模が大きくなれば出店料を設定するつもりだ。

WWD:今まで京橋でのリアルなマーケットとオンラインで「十勝大百貨店」を開催したが、課題は?

野崎:オンラインで開催した「十勝大百貨店」は、食品がメインであったということもあり、送料が高いのがネックだった。オンラインでマーケットを開催してリアルのよさに気付いた。「十勝大百貨店」は19年に物産展として二子玉川で開催したが、その際は現場の熱量や空気感のせいか大成功だった。リアルでは主催者、出店者、消費者全てが楽しくワクワクした気持ちを味わえる。だから、リアルとオンラインを連携させることで相乗効果を図りたい。

WWD:マーケットのコンセプトはどのように組み立てるか?

野崎:植栽など消費者が気付いていないモノを取り扱いたい。また、物販だけでなく地方創生のプラットフォームにもしていきたい。例えば、町おこしを目的に地方の商店街と消費者をつないだり、栃木・益子の陶器市のような生産者と消費者をつなぐイベントを日本中で行ってみたい。オンラインを切り口にテーマを明確に設定してマーケットを開催する方法もある。11月に開催する「マーケット-デッドストック 陶器市(九州編)」がその一例だ。九州の有田焼や波佐見焼、伊万里焼などの商社やメーカーが参加する。リアルではいろんなものを見ながら発見するワクワク感が大切だが、オンラインではテーマを絞り込んで奥行きを持たせることがアクセスにつながる。

WWD;今後開催してみたいマーケットのコンセプトとその理由は?

野崎:廃棄されるパンを夕方トラックで集めて、“夜更けのブレッド”と銘打って数時間のマーケットを開いてみたい。伸びすぎた植栽を扱うグリーンマーケットも開催したい。また、壊されるホテルの家具や調度品、ドアノブなどをリアルとオンライン両方で販売してみたい。ファッションにも関心がある。ブランドと消費者の立ち位置を変えることで、新たなコミュニケーションが生まれる。従来の売り方や買い方を変えていく必要があると思う。表面的でなくモノときちんと向き合うべきだ。

WWD:コロナ下で消費者の価値観がよりシビアになる中、どのようにデッドストックを販売するか?

野崎:コロナ以前から物が溢れていた。必要ではないが買いたくなるようなワクワクする購買体験を提供したい。なぜならそこに価値があるから。今までとは違うチャレンジが必要だ。

WWD:マーケットの現在の課題と対策は?今後の戦略は?

野崎:ポップアップショップの連続のような日本中で勃発する期間限定店舗にしたい。お客をワクワクさせるためにはお祭りのような雰囲気づくりや非日常的な仕掛けが大切。等身大の接客をすることで、顧客と新しい関係をつくっていく。従来の方法から離れて気づいたことを形にしていくことに意味がある。

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