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「カルティエ」親会社のリシュモン、2025年までにゴールドを完全追跡可能に

 「カルティエ(CARTIER)」や「ヴァン クリーフ&アーペル(VAN CLEEF & ARPELS)」を擁するコンパニー フィナンシエール リシュモン(COMPAGNIE FINANCIERE RICHEMONT以下、リシュモン)が、「サステナビリティ・リポート2020(Sustainability Report 2020)」を公開した。

 リシュモンは06年から定期的に、自社が環境にもたらす影響を測定し、リポートしてきた。主にサプライチェーンと職場環境のリスク緩和や製品、ビジネス、スキルなどを長期にわたって維持することに重点的に取り組み、人材やコミュニティー、サプライチェーン、環境などの分野における達成目標について、明確にまた具体的に開示している。

 リシュモンでCSR(企業の社会的責任)の指揮を執るマシュー・キルガリフ(Matthew Kilgarriff)=グループ・ディレクターは、「20年はリシュモンにとってのターニングポイントだ。私たちはリスク緩和の話をしているだけではない。長期的に考えて方向性を明示している。リポートには短期、中期および長期の目標に加え、これまでに誰とどのような取り組みを行ったか、長期目標を達成するための戦略をどのように組み立てているかなどについて明記されている」と語った。

 100ページ以上におよぶリポートでは、25年までに100%再生可能な電力を使用すること、同じく25年までに自社で扱うゴールドを完全に追跡可能にすること(リシュモンは主にリサイクルのゴールドを使用しており、達成は間近)、二酸化炭素排出量の削減に向けて09年から行っている排出枠の購入を超える取り組みを加速的に進めることなどが目標として掲げられている。長期的な最終目標としては、“包括的”な廃棄物の管理戦略を追求し、主要な製造拠点や在庫管理施設から出る廃棄物をゼロにすることを示した。またリポートでは、リシュモンのリサイクル活動や革製品のサプライチェーン、新型コロナウイルスのパンデミックにおける安全対策、職場でのジェンダーや多様性に対する取り組み、働く親のための子育て支援、原材料の供給源となるコミュニティーへの寄付などについても言及している。

 リシュモンには各ブランドの特徴に基づいたCSR目標を含む戦略的年間計画プロセスがあり、傘下ブランドはグループおよびブランドにおけるそれぞれのCSRのテーマに独自に取り組み、職能上の枠を超えたクロス・ファンクショナル・チームや企業内ネットワーク、CSRに特化したSNSグループなども設けている。リポートでは、本社が各ブランドに相応の権限を与えつつ主導権を握っていることも強調されている。キルガリフ=グループ・ディレクターは実際に各ブランドのリーダーにトレーニングを行い、ガイドラインを示すことで変化を促進し、変革のさなかにあるブランドにも焦点を当てている。

 リポートでは傘下の「IWC」を“サステナビリティのリーダー”と形容しており、「IWC」がエレン・マッカーサー財団(Ellen MacArthur Foundation)が主導するプラスチックごみの削減に対するイニシアチブ「新プラスチック経済グローバル コミットメント(New Plastic Economy Global Commitment)」に、高級時計ブランドとして初めてサインしたことにも触れている。「IWC」は、従来と比べてプラスチックの使用量を90%削減した新たな製品パッケージの導入や、パッケージの重量を30%軽量化するなどの取り組みも行っている。またショッピングバッグには、森林管理協議会(FOREST STEWARDSHIP COUNCIL)によるFSC認証を受けた100%リサイクルの紙素材を使用しており、再利用が可能だ。また時計に使用される純金はリサイクル由来で、RJC(RESPONSIBLE JEWELLERY COUNSIL=責任あるジュエリー協議会)による加工・流通過程の管理基準を満たしたCoC認証を取得している。IWCのスイス本社のカフェテリアでは、地元で穫れた季節の食材を使用した食事が提供されており、ビーガンにも対応している。また、従業員の公共交通機関を利用した通勤手当の支給も行なっている。今夏には、今年度の目標に対する進捗状況や22年度に向けた新たな目標設定に言及した最新のサステナビリティ・リポートを公開する予定だ。
 
 同じくリシュモン傘下でイタリア・フィレンツェ発祥の高級機械式時計ブランド「オフィチーネ パネライ(OFFICINE PANERAI以下、パネライ)」は、リサイクル原料を80%以上使用して作られたエコ・チタニウムを採用している。エコ・チタニウムは、従来のチタニウムに比べて製造工程におけるエネルギー消費量や環境に及ぼす影響が大きく削減されている。

 リシュモンによると、CoC認証のゴールドの完全供給に向けた取り組みは“順調”だといい、ゴールドの供給源にはリサイクルや小規模鉱山を選択している。また、現在取り扱っているゴールドの90%の供給源を正確に把握しており、大規模な鉱山で採掘されたゴールドではなく、リサイクルのゴールドを積極的に採用している。リサイクルのゴールドは採掘する必要がなく、環境に優しいからだ。

 またリシュモンは、厳しく定められたダイヤモンドや宝石の追跡・取引基準も遵守しており、サプライヤーにRJCの認定会員となるように促している。最終的には自社で扱う全てのダイヤモンドの供給を、RJCの行動規範であるCOP認証を取得したサプライヤーから受けることが目標だ。現在は、グループ全体で購入したダイヤモンドのうち98%がRJCのCOP認証を受けたサプライヤーから供給されたものだ。ダイヤモンドのサプライチェーンの上流部分に対する識別・分析に関しては調査中としており、トレーサビリティーの実現に向けた調査も進行中だ。

 エネルギー分野では、傘下のユークス ネッタポルテ グループ(YOOX NET-A-PORTER GROUP以下、YNAP)が20年までに全ての事業を100%再生可能なエネルギーで運営する目標を掲げており、達成は間近と見られている。なおYNAPは18年、イタリアにおける全ての事業で100%再生可能なエネルギーの使用に切り替えている。リポートによると、YNAPは標準契約からグリーンエネルギー調達契約への移行や、各市場におけるグリーンエネルギーの現地価格にも対応するなど、多くの困難な問題に挑戦している。また、最新技術などを継続的に模索することで、地球にとって有害な物質の排出量やエネルギー需要の削減にも努めている。

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