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最後のスープまで意味がある マリー・アントワネットの人生を描いたフレンチを実食「ヨコハマ グランド インターコンチネンタル ホテル」

ヨコハマ グランド インターコンチネンタル ホテルのフレンチレストラン「アジュール」は特別コース“プチ・トリアノン(Petit Trianon)~マリー・アントワネットの追憶~”

「デザートの前にスープ?」

フランス料理ではあまり見かけないコース構成に、思わず首をかしげた。しかし、その理由を聞いた瞬間、このコースは"料理"ではなく、1人の女性の人生を味わう体験なのだと気づかされる。

横浜美術館で8月1日から開催される「マリー・アントワネット・スタイル」展とのコラボレーションとして、ヨコハマ グランド インターコンチネンタル ホテルのフレンチレストラン「アジュール」は特別コース“プチ・トリアノン(Petit Trianon)~マリー・アントワネットの追憶~”を提供する。料理長が王妃の生涯や食文化を調べ、その人生を一皿ずつフランス料理で表現したコースだ。

レストランへ足を踏み入れると、そこは18世紀フランス貴族の邸宅を思わせる空間。インテリアはフランス人デザイナー、ピエール・イヴ・ローション(Pierre-Yves Rochon)が手掛け、マリー・アントワネットの時代を感じさせる調度品も並ぶ。料理が運ばれる前から、ベルサイユ宮殿へ招かれたような気分になる。

宿敵デュ・バリー夫人と"同じ皿"から始まる

最初の一皿は、王妃が愛したブリオッシュと“デュ・バリー風”のカリフラワーエスプーマ。

デュ・バリー夫人はルイ15世の寵愛を受け、マリー・アントワネットと対立した人物として知られる。その宿敵をあえて同じ皿に登場させるという演出から、この物語は始まる。

エスプーマは驚くほど軽やかで、空気を食べているかのよう。それでいて濃厚なクリームのようなコクが広がる。中に忍ばせた酸味のある具材がアクセントとなり、サクッと焼き上げたブリオッシュと重なることで、食感も味わいも一層立体的になる。

ちなみに“デュ・バリー風”は現在でもカリフラワー料理を意味するフランス料理の用語。その由来は、彼女の白い肌に例えられた説や、ルイ15世がカリフラワー好きだった説など諸説あるという。

海の幸がグラスの中で輝く

続く前菜は、ホタテ、ウニ、サーモン、車海老、キャビアを重ねた海のカクテル。シャンパーニュジュレの穏やかな酸味が全体を優しくまとめ上げ、一口ごとに海の幸の旨みが何層にも広がっていく。下に敷かれたアボカドまで一緒にすくうことで、濃厚さが加わり、まるで小さなパフェのように味や食感が変化する。キャビアの塩味が全体を引き締め、最後まで飽きることがない。

ふわりとほどける太刀魚と、"ポンパドール風"の意味

鮮魚のポワレ ポンパドゥール風

この日の魚料理は福岡県産の太刀魚がメーン。ナイフを入れた瞬間から、その身の柔らかさが伝わる。口に運ぶと、ふわっとほどけるような食感。ジューシーなトマトソース、食感を残したズッキーニと合わせることで、淡泊になりがちな太刀魚の旨みが一気に引き立つ。

この料理が“ポンパドール風”と名付けられているのも興味深い。ポンパドール夫人はマリー・アントワネット以前に宮廷文化を彩った女性で、その美意識は王妃にも影響を与えたとされる。歴史上の人物をソースや盛り付けで表現する遊び心も、このコースならではだ。

ロワール地方のワイン・ミュスカデ

ペアリングとして合わせたロワール地方のワイン・ミュスカデは、魚介の繊細な旨みを邪魔せず、爽やかな果実味で余韻をさらに広げてくれた。

"半喪服"という料理名に隠された終幕

メーンは“ドゥミ・ドゥイユ”。フランス語で“半喪服”を意味する料理名で、王妃の人生が終幕へ近づくことを暗示している。皮目と肉の間には黒トリュフ。胸肉ともも肉、二つの部位を一皿で楽しめる構成で、どちらも驚くほど臭みがない。プリッとした弾力のある食感と、噛むほどに広がる鶏の旨み。そこへトリュフの香りが追いかけるように重なり、さらに濃厚なクリームソースが包み込む。まさに香りと旨みを堪能するメーンディッシュだ。

ブルゴーニュ産赤ワイン

ややしっかりめの塩味も、ブルゴーニュ産のワインが見事に受け止め、料理としての完成度をさらに高めていた。

なぜ最後にスープなのか

プティ レギュームと自家製パスタ
“バーミセリ“のブイヨンスープ

そして、最も印象に残ったのがスープ。通常ならコース前半に登場するはずのブイヨンスープが、あえてデザートの前に置かれている。これは、処刑前夜のマリー・アントワネットが最後に食したとされる“ヴェルミセル(細いパスタ)”入りコンソメスープを再現したものだからだ。

甲州地鶏から丁寧に引いたブイヨンは、体に染み渡るような優しい味わい。それでいて旨みはしっかり感じられ、濃厚なメーンを食べた後の口を静かに整えてくれる。「王妃も最後にこのような一杯を求めたのだろうか」そんな想像まで自然と浮かんでくる。

華やかなデザートは、ウィーンから届いた贈り物

最後は、マリー・アントワネットが故郷オーストリアから持ち込んだともいわれるクグロフ。イチゴのソルベやリースリングワインのジュレ、カスタード、ジャムが華やかに彩り、テーブルへ運ばれた瞬間から甘い香りが立ち上る。シフォンケーキのように軽やかなクグロフに、フルーティーな酸味が重なり、どこまでも優雅。添えられたバラの花びらを口に含んだ瞬間、まるでベルサイユ宮殿の庭園に迷い込んだかのように、口いっぱいへ華やかな香りが広がった。

食後の茶菓子として、オレンジが香るショコラ・ショーと、マカロン・ド・ナンシー、マドレーヌも登場。マリー・アントワネットが寝室で専属のショコラティエによるショコラ・ショーや紅茶を楽しんでいたという逸話や、寝室まで運ぶ際にカップを安定させるため、ソーサーのくぼみが生まれたというエピソードなど、料理以外にも18世紀フランスの小話が散りばめられ、最後まで世界観に浸ることができた。

マリー・アントワネットの生涯がここに

コースを食べ終えたとき、不思議と頭に浮かんだのは、マリー・アントワネットが処刑直前、誤って死刑執行人の足を踏んでしまった際に残した最後の言葉だったという、

「ごめんなさい、ムッシュー。わざとではないのよ。」

その一言のように、このコースも最後まで気品を失わない。ただ料理を味わうだけではない。マリー・アントワネットという一人の女性の人生を、一皿ずつ辿る。そんな没入感こそが、“Petit Trianon ~マリー・アントワネットの追憶~”最大の魅力だった。

PHOTO:RIKO MIKAMI

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