PROFILE: 真鍋大度/アーティスト・プログラマー・作曲家
音楽/アート/テクノロジーを横断する新しいフェスティバル「Future Frequencies Festival(フューチャー・フリークエンシー・フェスティバル)」(以下、「FFF」)が、7月11日、12日の2日間、高輪ゲートウェイに誕生した実験的ミュージアム「MoN Takanawa」内の「Box1000」「Box300」「TATAMI」で開催される。この注目の新しいイベントを「ビートインク(beatink)」とのタッグで主宰するのが、世界的なメディアアーティスト/音楽家の真鍋大度だ。自身も「FFF」の1日目にノサッジ・シングとのコラボレーションでライブパフォーマンスを行うほか、7月10日には、EP「dm studies 000 – 004」をノサッジのレーベル〈Timetable Communications〉からリリースする。
今回はノサッジ・シングとの長年に渡るコラボや新作EPなど音楽家としての真鍋の考えを探っていく。
ノサッジ・シングとのコラボ
——真鍋さんは「FFF」ではノサッジ・シング(Nosaj Thing)とのコラボレーションで、1日目にライブパフォーマンスを行います。ノサッジ・シングとは長年一緒にパフォーマンスをしていると思いますが、その間にパフォーマンスはどのように進化し、今回はどのようなステージが観られるのでしょうか?
真鍋:ノサッジ・シングと初めて会ったのが2009年で、コラボを始めたのが2012年です。もう15年近く一緒にやっています。以前は僕が映像、彼が音楽という役割分担でした。でも僕も音楽を作りますし、ジェイソン(・チャング、ノサッジ・シングの本名)ももともとグラフィックデザイナーを目指していた人で、カメラマンもやっています。なので最近は、従来の役割分担を超え、音楽も映像も2人で作るという新しい形態に移りました。今まで僕はステージ上で映像のことだけをやっていましたが、今では音のこともやります。ジェイソンも音だけではなく、映像もやる。オーディオビジュアルのコラボレーションの場合、音と映像で役割が分かれていることが多いんです。でも僕たちはその先の形として、2人で音も映像も手掛けようとしています。今は家も徒歩3分なので物理的にも濃密な時間を過ごしています(笑)。
——ノサッジ・シングとのコラボを始めてから14年が経っているわけですが、その間に大きな技術的進歩があったと思います。そういうことは、自分たちのパフォーマンスに何か影響を与えていますか?
真鍋:影響はすごく大きいですね。僕の感覚で言うと、映像制作やソフトウェア・エンジニアリングの分野は、特に大きな影響を受けています。例えば10年前だったら、ジェイソンが映像のプログラムのアイデアを思い浮かべても、僕が実装するしかありませんでした。しかし今だと、ソフトウェアの設計や実装はAIがやってくれることがほとんどです。必要なのは、明確なビジョンと、それをどう実現するかというアイデア。それさえあれば、エンジニアでなくても、ほとんどのものが作れるようになってきました。
音と映像をどうやって同期させるかということも、以前は、それだけでもすごい工夫が必要でした。でも今は、そういったことはもう当たり前にできるようになってきました。どちらかというと、僕は技術畑の人間だったので、技術的なアドバンテージがすべてリセットされた感覚があります。その点では難しくなったとも言えますが、逆に言えば、以前よりもアイデアとコンセプトに集中できるようになったということです。
音楽家としての真鍋大渡
——7月10日に、ノサッジ・シングのレーベル「Timetable Records」から真鍋さんのEP「dm studies 000 – 004」がリリースされます。これはどんなコンセプトで制作されたのか教えてください。
真鍋:音楽制作は長くやっているのですが、ダンスプロジェクトやインスタレーションのために作ったり、オーディオビジュアルのライブセットのために作ったりするのが基本でした。自分の音楽そのものを作品にするということは、ほとんどやっていなかったんです。でも去年、ロンドンにsonicPlanetという会社を作りました。音響システムやソフトウェアなどを開発する、音に特化した会社です。その活動を通じて、新しい作曲方法やサウンドデザインをまた研究出来る環境が整いました。実際に今回のEPは、sonicPlanetで開発したプラグインを使った曲が多いので、その影響は大きかったです。あとは、ソフトウェアを作ること自体が作曲の一部だと言えるので、そういった意味では一緒にsonicPlanetをやっているパートナーの、Dr.シナン・ボケソイ(Sinan Bokesoy)の存在も大きいですね。
——真鍋さんは、楽曲制作をどのようなところから始めることが多いですか? 制作方法のコンセプトから考えるのか、音の断片的なアイデアを広げていくのか、あるいは何かしらの感情を起点にするのか。真鍋さんの場合の出発点を教えてください。
真鍋:新しいツールやソフトウェアを開発したり使っていると、これまで聴いたことのない音や振る舞いが偶然生まれることがあります。「これは曲に使えそうだ」と思う瞬間があって、そこから制作が始まることが多いです。そういう意味では、自分の内側というより、外部との対話や技術との実験からインスピレーションを得るタイプだと思います。
ジェイソンとの制作も同じです。2人でスタジオに入って数時間セッションすると、5、6曲分くらいの素材ができます。その後は、まずジェイソンが編集し、それを僕が受け取ってさらに音や構成を調整して返す、というキャッチボールを繰り返します。
僕は一人でゼロから作品を完成させるというよりも、新しい技術や、一緒に作る相手とのやり取りの中からアイデアが生まれ、それを発展させていくことが多いですね。そういう意味では、外部からの刺激が制作の原動力になっています。
——真鍋さんが音楽家として尊敬している、もしくは目指しているようなアーティストはいるのでしょうか?
真鍋:恐れ多いですが、一番大きな影響を受けているのは、 ヤニス・クセナキス(Iannis Xenakis )です。数学や確率論などを取り入れた作曲法や、そのコンセプトの強さに強く惹かれています。作品だけを聴くと難解に感じるものも多いのですが、その背景にある考え方を知ると、まったく違って聴こえてくるんです。彼はグラニュラー・シンセシスのような音響的なアイデアも非常に早い段階から作品に取り入れていました。それが一般的な音楽制作で広く使われるようになったのは何十年も後のことです。そういう時代を先取りする発想には、とても大きな刺激を受けています。
あとは、すごくベタですが、オウテカ(Autechre)ですね。彼らは制作手法のコアな部分について多くを語らないので、何を考えて作っているのかは分からない部分も多い。でもアウトプットは、極めて実験的でありながら、同時にフロアでも機能する音楽になっています。実験性とダンスミュージックとしての強度を両立させているところは、本当にすごいと思います。昔の作品を聴いても、最新作を聴いても、その姿勢が一貫しているところに、とても魅力を感じています。
——最後に、「FFF」の今後の展望を訊かせてください。今回が初開催ですが、これからどんなフェスに育てていきたいと考えていますか?
真鍋:ここから何か新しい文化やジャンルみたいなものが生まれたら最高だなと思っています。昔から、現場でしか体験できないアートというものが存在してきました。1920年代にはアブストラクト・シネマ、60年代にはエクスパンデッド・シネマ、そして80年代になると、コンピューター・グラフィックスと音楽を融合した、メディアアートに近い表現が出てきます。90年代にはコールドカット(Coldcut)などのオーディオビジュアル・ライブがあり、2000年代に入るとアルヴァ・ノト(Alva Noto)、アモン・トビン(Amon Tobin)、スクエアプッシャー(Squarepusher)、池田亮司のような、サウンドとビジュアルを融合させるアーティストも出てきました。そういった流れを踏まえ、このフェスを通じて、何か大きなムーブメントを生み出せたらと思います。継続していくことで、「あの時代のオーディオビジュアルやライブの文化って、ここで生まれたんだ」と後に振り返ってもらえるような、時代のスナップショットとなるフェスにしていきたいんです。スペインには「ソナー」があるし、カナダには「ミューテック」があるし、オーストリアには「アルス・エレクトロニカ」がある――ゆくゆくは、「FFF」もそれぐらいの存在感を持つフェスに育てていくのが理想です。
新作EP「dm studies 000 - 004」
Tracklist(CD & Digital)
1. dm000a
2. dm001a
3. dm002a
4. dm003a
5. dm002b
「FFF」イベント概要
◾️「FUTURE FREQUENCIES FESTIVAL」
日程:2026年7月11、12日
会場:MoN Takanawa「Box1000」「Box300」
住所:東京都港区三田3-16-1
出演者
DAY1
・Joy Orbison
・The Sabres Of Paradise
・Nosaj Thing × 真鍋大度
・Loraine James
・原 摩利彦
・Mount XLR
・Keigo Yoshida ※NEW
・Sogen Handa ※NEW
・Alminium ※NEW
and more
DAY2
・KNOWER
・Kassa Overall
・長谷川白紙
・YPY
・松丸契
・中田拓馬 ※NEW
and more
チケット料金
1日券
DAY1(Standing):1万2000円
DAY2(Standing):1万4000円
2日通し券
Standing:2万3000円
一般発売中
https://linktr.ee/fff_tokyo
主催・企画制作:Studio Daito Manabe / Beatink / FIL
共催:MoN Takanawa: The Museum of Narratives
協力:Arts Council Tokyo
https://www.beatink.com/products/detail.php?product_id=15808
タイムテーブル
「FFF」は両日とも15:30開場となり、メインステージとなる「BOX1000」、音楽パフォーマンス以外にもオーディオ・ビジュアル・ライブ、ビジュアル・インスタレーションといったプログラムが展開する「BOX300」、トークや映像上映などが行われる「TATAMI」の3ステージで構成される。6月30日には「BOX1000」と「BOX300」で開催されるアクトのタイムテーブルが発表された。※「TATAMI」のプログラムは後日発表。
DAY1
DAY2
会場マップ
本イベントは、再入場可能であり、「BOX1000」「BOX300」「TATAMI」の各ステージ間の移動は自由。「FFF」オフィシャル・バーに加えて、施設内の「MoN Park Cafe」や「MoN Kitchen」でもフード・ドリンクが楽しめる他、話題の人気ドーナツ店「SON OF A TOM」の出店も予定されている。その他、イベント開催中には、足湯テラスやMoNファームといった施設内エリアへのアクセスも可能。






