「ソウシオオツキ(SOSHIOTSUKI)」は現地時間27日、2027年春夏コレクションを初めてパリ・メンズ・ファッション・ウイークで発表した。テーマは「The Persistence of Memory(記憶の固執)」。デザイナーの大月壮士がかねてより追い求めてきたのは、1980年代後半から1990年代初頭、いわゆるバブル期の日本の男性像であり、彼らがまとったソフトスーツをコレクションの軸に据えてきた。今季はその肩肘を張らない「フォルム」にリゾートへの憧憬を重ね、旅先の解放感がほどく心の緩みという「マインド」の柔らかさの表現に踏み込んだ。意図して着崩すのではなく、偶然にほどけてしまう無造作。それを服のパターンや内部構造の徹底した「造作」によって設計する試みだ。「ソウシオオツキ」のソフト・テーラリングは、心の解放によって新しい境地に達した。
自然光の差す石畳の中庭を歩いたファーストルックは、生成りのリネンで仕立てたソフトスーツ。肩パッドや芯地の緊張を抜いたジャケットは、ラペルが低い位置のボタンまで深く返り、その襟線がゆるやかな曲線を描く。大月にとってのソフトとは、生地そのものの柔らかさではない。丸みを帯びたカッティングによって「見る者に与える印象がソフト」であることだ。自身のイニシャルでもある「S」モチーフを一種の曲線として忍ばせたり、内部に金属を仕込んでベルトを湾曲させたりと、細部までの工夫でフォームに硬さを感じさせない。
そこに、旅先のマインドが重なる。片襟だけがふいに立ち上がったシャツ、前を留めきらないショーツ、その裾からのぞく縞のトランクス。「普段は厳格な父親が、非日常のリゾートで少し羽目を外したような」イメージだ。ボタンを留めたシャツの前立てには、通したままのタイが垂れ、ジャケットの袖からはシャツのカフスが遊ぶ。「例えばここにタックを入れておけば、襟は自然と飛び出してしまうよね、と。そんなふうに、着る人が意図して崩さずとも『そう着てしまう』仕掛けを服の構造に取り入れた」。
心のほころびは、ショーが進むにつれて大きくなる。きっちりと結ばれていたタイも、次第に緩み、結び目がずれ、やがてシャツの内側へと隠れていく。トラウザーのプリーツはいっそう深く広くなり、脚の運びに合わせて大きく波打つ。本来ならスタイリングや着用者の癖から生まれるはずの偶然をパターンや金属で表現する。意図しない「無造作」を、徹底した「造作」でつくる。この逆説を成り立たせているのは、大月の技術力にほかならない。
2026年1月にフィレンツェの「ピッティ・イマージネ・ウオモ」で披露した2026-27年秋冬コレクションは、ショーとしての完成度はもとより、服そのものの仕上がりについては「正直に言えば、納得していなかった」と大月は振り返る。今季は各地の産地を回り、生地に最も多くの時間を割いた。素材はオリジナル、もしくは20年以上前の生地を復刻したものに手を加え、すべて国内で生産。ウールやリネンは先染めで経糸と緯糸の色や素材を違え、布に奥行きを持たせた。コットンには後染めや洗いをかけ、時間が経ったような表情に。乾いたベージュ、粘土質の赤茶、褪色したサックスブルー。紫外線や空気に水分を奪われ、経年したかのような色味がショーを彩った。
バブル期のガラパゴスなサラリーマンに着想したテーラリングは、「LVMHプライズ」のグランプリ獲得をはじめファッションの世界に少なからぬ驚きを与えてきた。ただ、パリという舞台に立ち、さらなる高みを目指すうえで、大月はガラパゴスや郷愁の提案にとどまらない表現を探求。柔らかなフォルムにほどけた「マインド」を宿す試みは、大月のソフト・テーラリングの表現を一歩前に進めた。